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Benjamin Clementine──倫敦



 大本命でありながら惜しくも'15年シャーデー大賞を逃してしまったベンジャミン・クレメンタイン。とはいえ、彼が素晴らしいアーティストであることに少しも変わりはない。大賞受賞者として大きく扱えなかった代わりに、ここで久しぶりに彼の作品を取り上げることにしたい。

 ベンジャミン・クレメンタインはロンドン最北部にあるインフィールド区のエドモントンという町で育ったイギリス人だが、'08年、19歳のときに無一文でフランスのパリへ渡り、そこで数年間、地下鉄、バー、ホテルなどでバスキングをしながら路上生活を送っていた。やがて彼は業界関係者の目に留まり、'13年6月、Behindというパリの新興レーベルからEP『CORNERSTONE』で念願のレコード・デビューを果たすことになる。今回訳出する「London」は、アーティストを目指してパリを放浪していた頃の自分自身を歌った曲。独特の詩的な語り口が印象深い、ベンジャミンの自叙伝的な“上京ソング”だ。




 London
 (Benjamin Sainte Clementine)

 Now as he sits on the back of this grey caravan
 Tomorrow he will probably be
 Jumping Parisian metro barriers with
 A bottle in his hand
 
 灰色のキャラバンの後ろに座っている彼は
 明日にもなれば
 パリの地下鉄の改札を
 ボトル片手に飛び越えているだろう
 
 Sparkling, Sparkling water mixed with
 Peaches and rhum
 Honestly I don't drink but if I did this sure will
 Be my favorite punch, he said
 
 ピーチとラムのソーダ割り
 酒はやらないが そんなのがあれば
 きっと僕のお気に入りの飲み物になるよ
 彼はそう言った
 
 Walk out the door with her
 And he could see everyone
 Dressed in black a class
 That seems too far too fetched
 
 彼女と外に出てみると
 みんな黒ずくめの
 立派な身なりをしていた
 まるで別世界の人々
 
 She said, "Look at you, look at you, the game is over,
 The cup is full, stop praying for more exposure"
 
 彼女は言った「自分をよくご覧 ゲームはおしまい
 あんたは限界 売れようなんて思わないことね」
 
 "It is obvious that you are trying,
 Dubious stop or you will die here,
 You're pretending but no one is buying"
 
 「いくら頑張っても芽が出ない
 このままじゃ野垂れ死によ
 格好つけても見向きもされない」
 
 London is calling you, what are you waiting for,
 What you searching for?
 London is all in you, why are you denying the truth?
 "Well I might be boring you" he said
 "Although it's not clear as the morning due,
 When my preferred ways are not happening,
 I won't under estimate whom
 I am capable of becoming"
 
 ロンドンがお前を呼んでる お前は何を待ってる?
 何を探してる?
 ロンドンがお前に染みついてる なぜ事実を認めない?
 「お粗末かもしれない」と彼は言った
 「朝露ほどに瞭らかではないけれど
 望み通りにいってなくても
 僕は自分の器を
 小さく見るつもりはない」
 
 History will be made today is written
 Boldly on his face
 So clear you could hardly miss it,
 You could hardly miss it.
 
 歴史は今日作られる
 彼の顔に大きくそう書いてある
 はっきりと 誰が見ても分かるほど
 誰が見ても分かるほど
 
 For transcending the barriers of you
 Yesterday was and is the dream
 On a road where Cleopatra comes and goes
 Like fishes caught in ponds then thrown back for fun
 
 自分の限界を超えるには
 昨日という日は夢でしかない
 路上をクレオパトラが行ったり来たり
 戯れに釣っては放される池の魚のように
 
 She said, "Look at you, look at you, just pick a fleet
 Your cup is full, what have you not yet achieved?"
 
 彼女は言った「自分をよくご覧 打つ手もない
 あんたは限界 何がまだ実現できていない?」
 
 "It is obvious that you are trying, dubious stop
 Or you will die here, you're pretending
 But no one is buying"
 
 「いくら頑張っても芽が出ない
 このままじゃ野垂れ死によ
 格好つけても見向きもされない」
 
 London is calling you, what are you waiting for,
 What you searching for?
 London is all in you, why are you in denial of the truth?
 "I might be boring you", he said,
 "Although it's not clear as the morning due,
 When my preferred ways are not happening,
 I won't underestimate who I am capable of becoming"
 
 ロンドンがお前を呼んでる お前は何を待ってる?
 何を探してる?
 ロンドンがお前に染みついてる なぜ事実を認めない?
 「お粗末かもしれない」と彼は言った
 「朝露ほどに瞭らかではないけれど
 望み通りにいってなくても
 僕は自分の器を小さく見るつもりはない」
 
 
 パリで路頭に迷いながらも、自分の可能性を頑なに信じ続ける主人公。“彼”という三人称を使って客観的に自分の心象を描いている。“彼”につきまとい、厳しい忠告を与える“彼女”は、ベンジャミンの心の中のもうひとつの声、あるいは、故郷であるロンドンそのものを表しているのだろう。内省的な自問自答の歌ながら、擬人法と壮麗なメロディで実にドラマチックに聴かせる。

 「London」はもともと'13年のデビューEP『CORNERSTONE』に収録されていた曲。そこではピアノの弾き語りによる素朴な演奏だったが、'15年1月発表のデビュー・アルバム『AT LEAST FOR NOW』には、ストリングスを伴ったフルバンド編曲の再録音版で収録された。ベンジャミンの歌唱も力強さを増し、よりドラマチックな作品に生まれ変わっている。

 同曲の音楽ヴィデオ('15年6月17日公開)は、歌の内容通り、パリでホームレス暮らしをしていた頃のベンジャミンを描いている。ボトルの水で身体を洗い、コート姿でタイプライターに向かう彼の姿は猛烈にフォトジェニックだ(実際には過酷な生活だったと思うが)。ベンジャミンのボヘミアン的な佇まいは、同様に路上から現れたジャン=ミシェル・バスキア、キザイア・ジョーンズといった過去の黒人アーティストたちを彷彿させる。監督は、リアン・ラ・ハヴァスLost & Found」「Elusive」「Gone」、オキシモ・プッチーノArtiste」「Pam Pa Nam」などを手掛けていたフランスの音楽ヴィデオ作家、コリン・ソラル・カルド Colin Solal Cardo。ヌーヴェルヴァーグ的な即興撮影でYouTube時代の新たな音楽ヴィデオのスタイルを作ったLa Blogothèqueの〈A Take Away Show〉シリーズでお馴染みの監督だ。同シリーズで彼が撮ったリアン・ラ・ハヴァス(「No Room For Doubt」「Forget」)やアロー・ブラック(「 Hey Brother / I Need A Dollar」「You Make Me Smile / Use Me」「Green Lights」)の街頭ライヴ映像は、いずれも忘れがたい名作である。



 〈A Take Away Show〉にはベンジャミン・クレメンタインも出演し、カルド監督によって素晴らしいライヴ映像が撮られた('15年1月20日公開)。誰もいないパリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館の広間で、ベンジャミンが「Condolence」「St Clementine On Tea And Croissants」の2曲を歌う。十代の頃、学校をサボって図書館に入り浸り、ウィリアム・ブレイクやT・S・エリオットらの詩を読み耽っていたという文学青年のベンジャミンに、図書館という場所はいかにも似つかわしい。静寂の中、無数の書物に囲まれながら、新たな言葉を紡ぎ出していくベンジャミンの姿を、カルド監督は長回し撮影で丹念に捉える。詩的情緒に溢れた大変に美しい作品なので、「London」とあわせて是非ご覧いただきたい。



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