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Lizz Wright @ Cotton Club 2015



 リズ・ライトのコンサートを観た(……去年の秋に)

 '03年にVerveからアルバム・デビューした米ジョージア州出身のシンガー・ソングライター。カサンドラ・ウィルソンをゴスペル寄りにしたような雰囲気の人で、凛とした物憂げな歌声はミシェル・ンデゲオチェロを彷彿させたりもする。

 私はこの人のことを常々“教会育ちのシャーデー”だと思っていた。むちゃくちゃ歌がうまいシャーデー、と言い換えても良い。教会など通ったことがなく、ヴォイス・トレーニングも続いた試しがない究極のヘタウマ歌手であるシャーデー・アデュが、あの声で、あの謙虚さと優美さを保ったまま、アレサ・フランクリンやメイヴィス・ステイプルズ、あるいはマヘリア・ジャクソンのように力強く歌うことができたら、一体どれだけ素晴らしいだろう。リズ・ライトは、その理想を実現したような歌手なのである。

 '15年9月に発売された5thアルバム『Freedom & Surrender』は、ゴスペル色を前面に出した5年前の前作とは打って変わり、制作にラリー・クライン(ジョニ・ミッチェル、トレイシー・チャップマン、マデリン・ペルー、メロディ・ガルドー)を迎え、ブルース、ゴスペル、ジャズ、フォークなどを折衷したそれまでの音楽性を引き継ぎながらソウル色を強めることで、よりポップで間口の広い傑作になった。先行曲「Lean In」は、シャーデーの新曲かと思うようなグルーヴィーで官能的なダンス・ナンバーだったりする。新譜発売から2ヶ月後という絶好のタイミングで実現した来日公演を、半ばシャーデー的なものも期待しつつ、私は大喜びで観に行ったのである。


LIZZ WRIGHT'S HANDS PLAYED THE TAMBOURINE SO WELL
──リズ・ライトの手はタンバリンを上手に叩いた


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 今回のリズ・ライト来日公演は、'15年11月12日(木)〜18日(水)の期間、ブルーノート名古屋/東京、丸の内コットンクラブで計5日(各日2公演、全10公演)行われた。彼女はソロ・デビュー前の'02年4月にジョー・サンプルのバンドのゲスト歌手として初来日し、その後、'03年9月と'04年12月に単独で来日公演を行っている。1年前の'14年9月には、女性ジャズ・ドラマーのテリ・リン・キャリントンとの合同来日公演もあったが、私は見送ってしまったので、リズの歌を生で聴くのは今回が初めてだった。私が観たのは11月17日(火)、コットンクラブ公演の2ndショウ。公演数が多すぎたのか、客の入りは残念ながら5〜6割程度だった。

 午後9時の定刻通りに4人の男性メンバーたちがステージに現れると、ドラムのイントロに導かれ、ゆっくりと地を這うようなワンコードのブルージーな前奏が始まった。程なくして、黒ジャケット、黒ロング・スカートに身を包んだリズ・ライトが登場。細く編まれたドレッドの髪は後ろで綺麗に束ねられていた。3日前のブルーノート東京公演初日は青いロングドレス姿だったが(ブルーノート東京HPのライヴレポ参照)、私が観た公演はシックな黒ずくめの衣装。その佇まいには、思わずこちらが背筋を正してしまうような気品があった。

 オープニングは前作の表題曲「Fellowship」。ボブ・マーリー「Get Up, Stand Up」の歌詞を部分的に引用して書かれたミシェル・ンデゲオチェロの曲(『Comfort Woman』に収録)のカヴァーだ。ミシェルの原曲はレゲエ/ダブ編曲だが、リズはアーシーなゴスペル解釈でこれを完全に自分のものにしている。ドスの利いたリズの低い歌声には、一発でその場の空気を変えるような強烈な“気”がある。と言っても、押しつけがましさや暑苦しさはまったくない。強い意志の力と同時に、深い哀しみや慈しみを感じさせる、包容力に満ちた本当にディープな歌声だ。冒頭曲では、途中からブルージーなギター・ソロがフィーチャーされ、リズの鳴らすタンバリンと共に演奏がどんどん熱気を増していった。ゴスペル的な高揚感の中でも、彼女のヴォーカルは決してタガが外れない。内にじっと熱いものを秘めているような、ストイックなブルース感がシャーデーによく似ていると思う。リズのヴォーカルは1曲目から私の心をがっちり掴んだ。

 バンドは、ドラム、ベース、ギター、キーボードというオーソドックスな4人編成。中でも、ハモンド・オルガンとピアノを兼任したシェドリック・ミッチェルが光っていた。特にオルガン演奏が素晴らしく、2曲目の「Old Man(2nd『Dreaming Wide Awake』に収録のニール・ヤングのカヴァー)などでフィーチャーされた彼の扇情的なソロは、今回の大きな聴きもののひとつだった。非和声音を巧みに使いながら、聴き手をじわじわと恍惚の境地へ誘う。聴いているうちに、目の前が光で満ちていくような錯覚に陥る。あんなに凄いオルガン演奏を生で聴いたのは初めてだった。また、リズ自身も歌いながら頻繁にタンバリンを叩いて演奏に加わった。教会出身者らしく、リズはタンバリンをとても上手に叩く。彼女のタンバリン演奏は、シェドリック・ミッチェルの弾くオルガンと共に、彼女のゴスペル・ルーツを強く印象づけるものだった。

 中盤では新譜から立て続けに3曲を披露。フォーキーな「Somewhere Down The Mystic」「Real Life Painting」での繊細で柔和な表現、ゴスペル・ソウル「The New Game」でのしなやかなヴォーカル、いずれも聴き応えがある。個人的に期待していた「River Man」(新譜収録のニック・ドレイクのカヴァー。ベンジャミン・クレメンタインもライヴで取り上げていた)がセットリストに入っていなかったのは残念だったが、以上の新曲群に続けて、各メンバーのソロ演奏を交えつつ、しっとりとしたジャジーな編曲で旧曲「Stop(2nd収録のジョー・ヘンリーの名曲のカヴァー)を聴かせてくれたのは嬉しかった。

 新曲の中では、後半に披露された「Freedom」がひときわ輝いていた。以前からリズと共作を続ける米ブルース/フォーク歌手のトシ・リーゴン(ジョーン・アーマトレイディングに似た女傑)が提供したこの曲は、昨今の“Black Lives Matter”運動にも呼応する軽快で力強い自由讃歌。新譜の冒頭に収められ、アルバム全体のソウル色を強く印象づけている。キャッチーなメロディや、シンコペーションの利いたファンキーなリズムが魅力的で、見事に今回のショウのハイライト曲になった。

 終盤には、1st『Salt』収録のトラディショナル「Walk With Me, Lord」が登場。ディアンジェロ「Brown Sugar」からゴスペル要素だけを抽出したようなこの必殺曲は、途中からグルーヴィーなウォーキング・ベースがグイグイと演奏を引っ張り(スティーヴィー「I Wish」ばりのスウィング感!)、11分にも及ぶ熱演で観客を大いに沸かせた。ハモンド・オルガンがうねりまくり、リズの歌声にも一層熱がこもる。地面を蛇行するうち、気づいたら空を飛んでた、みたいな凄まじいドライヴ感と高揚感があった。最高。こんなに素晴らしいのに、会場にはたったの100人くらいしか観客がいない。ホワイ、ジャパニーズ・ピーポー?!

 ロバータ・フラックの「The First Time Ever I Saw Your Face」をしっとりと歌った後、最後は前作収録のグラディス・ナイト&ザ・ピップスのカヴァー「(I've Got To Use My) Imagination」で再び盛り上げた。リズはタンバリンの代わりに、マイクスタンドの横に設置してあったジェンベを叩きながら熱唱。アフロ乗りの豪快なゴスペル・ファンキー・ソウルでコンサートは幕となった。

 最後の「(I've Got To Use My) Imagination」はもともとアンコール予定曲だったようだが、演奏を始める前、“靴下履きで(ステージと楽屋を)行ったり来たりする代わりに、このままもう1曲やってもいいかしら?”とリズのMCがあり、楽屋には下がらずそのまま続けて披露された(ロングスカートに隠れて見えなかったが、リズは靴を履いていなかったようだ)。全10曲、76分。あっという間の素晴らしいショウだった。

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私が観た公演はこの衣装だった(最初は上に黒いジャケットを着ていた)

 リズにエンターテイナー的な素振りはまったくなく、時たま穏やかな口調で曲紹介をする程度で、ショウは終始、淡々と進行した。ごく普通にステージに立ち、ただ良い歌と演奏を聴かせるという、地味と言えば地味なショウだが、内容は本当に素晴らしいものだった。生で観てひとつ興味深かったのは、ゴスペルに根差した人でありながら、ゴスペルに付き物のコール&レスポンス(観客との掛け合い)を一切やらなかったこと。リズ・ライトの歌は集団的な熱狂には向かわない。自分自身の心や信仰とじっと向き合うような、内省的で真摯な表現がとても印象的だった。

 敢えて不満を挙げるとしたら、バック・ヴォーカルがいなかったことか。女性ヴォーカリストが後ろに1人か2人いれば、ゴスペル調の曲は更に迫力を増していただろう。一応、ギタリストとベーシストがバック・ヴォーカルを兼任していたが、明らかに役不足だった。あと、新譜の最後を飾っていた壮麗なバラード「Surrender」や、3rd収録の代表曲「My Heart」(いずれもトシ・リーゴンとの共作曲)が聴けなかったのも残念。'90年代にカサンドラ・ウィルソンを成功に導いたクレイグ・ストリートが制作を手掛けた2nd『Dreaming Wide Awake』(2005)と3rd『The Orchard』(2008)は、いずれもリズの個性を築き上げた傑作である。私は特に後者が好きなのだが、今回はそこから1曲も歌われなかった(時間が短すぎる!)。

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リズ・ライトの1st〜5thアルバム(2003〜15)

 結局、私が釣られたシャーデー風の新曲「Lean In」も披露されなかったのだが(がっくし。ブルーノート東京公演でもやっていない。ツアーのレパートリー自体に入っていないのかも)、ああいうセクシーでポップなネオ・ソウル調の曲は、彼女にとってはさほど重要なレパートリーではないのかもしれない。シャーデー的なものを望む私の期待は見事に外れたわけだが、変に大衆受けを狙うことなく、ひたむきに自分の歌を歌うリズの姿を見て、私は逆に一層彼女のファンになってしまったのだった。

  おばあちゃんの手は日曜の朝の教会で鳴り響いた
  おばあちゃんの手はタンバリンを上手に叩いた

 
 公演中、タンバリンを上手に叩くリズ・ライトを見ながら、私はビル・ウィザーズの「Grandma's Hands」を思い出していた。厳格でありながら、慈愛深く、優しく聴き手を包み込むようなリズの歌声。年を取ったら、彼女はあの歌で描かれているようなおばあちゃんになるのかもしれない。


01. Fellowship
02. Old Man
03. Somewhere Down The Mystic
04. The New Game
05. Real Life Painting
06. Stop
07. Freedom
08. Walk With Me, Lord
09. The First Time Ever I Saw Your Face
10. (I've Got To Use My) Imagination

Live at Cotton Club, Tokyo, November 17, 2015 (2nd show)
Personnel: Lizz Wright (vocals, tambourine, djembe), Shedrick Mitchell (keyboards), Chris Rosser (guitar), Nicholas D'Amato (bass), Brannen Temple (drums)

Lizz Wright: Japan Tour 2015
November 12 - Blue Note Nagoya (2 shows)
November 14 - Blue Note Tokyo (2 shows)
November 15 - Blue Note Tokyo (2 shows)
November 17 - Cotton Club (2 shows)
November 18 - Cotton Club (2 shows)



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Lizz Wright──踏み込んで(2015.11.14)

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