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『サイン・オブ・ザ・タイムズ』追悼上映@渋谷HUMAXシネマ



 プリンスの映画『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の追悼上映を渋谷で観た。'14年のリバイバル上映の再映。ファンの気持ちを汲んだ素晴らしい企画である。

 上映期間は'16年4月30日(土)〜5月7日(土)の8日間、'14年リバイバル上映時と同じ渋谷HUMAXシネマにて、連日20時40分から1回のみのレイトショー。料金は1,500円。“あなたが一番好きなプリンスのLP、CDをご持参でご鑑賞料金が1,000円に!”というナイスな割引サービスもあったが、202席分しかない鑑賞券は、連日、上映日3日前から始まるオンライン予約(割引対象外)で即日完売になったので、このサービスを利用できた人は実際にはほとんどいなかったと思われる。202人×8日間で、延べ1616人動員。他界直後とはいえ、単なる旧作映画の上映でこれだけのチケットを瞬く間にソールドアウトにするのだから、やはりプリンスである(1ヶ月くらいやればいいのに!)

 '09年秋、新宿ピカデリーで『THIS IS IT』を観た時の記憶がちょっと蘇ったりもしたが、あの時はMJファン以外の人も多く劇場に詰めかけた。中には上映中に席を立つ観客もいたが、今回はさすがに違う。劇場に集まった人たちは、恐らくほぼ全員プリンス・ファン、もしくは熱心な音楽ファンばかりである。見ず知らずの200人の仲間と共に、プリンスの永遠の名作を心置きなく楽しんだ。


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劇場入口の看板は通常上映の『スポットライト』ではなく、きちんと『サイン〜』になっていた

 私が行ったのは、最終日前日の5月6日(金)の回。当日の夜はしとしとと小雨が降り続いていて、何となくプリンス日和だった。

 劇場に行く前、レコファン渋谷店に立ち寄った。試しにプリンスのコーナーを覗いてみると、案の定、ほとんど空。あったのは、先日CD発売されたばかりの最後の新譜『Hitnrun Phase Two』(私のもとにはアマゾンから5月1日に届いた)とサードアイガール『Plectrumelectrum』の2つだけ。渋谷のレコファンに来ると、いつも『Chaos And Disorder』やら『N.E.W.S.』やら『The Beautiful Experience』やらが大量にあった気がするが、全部消えている。僅か30cmくらいの幅になったプリンス・コーナーを見ると、まるで彼が寡作家にでもなったような奇妙な錯覚に陥る。店内には新譜の『Hitnrun Phase Two』がずっと流れていた。プリンスのことを話している客が周囲に何人もいる。マイケルの時に較べるとプリンスの死は一般世間であまり話題にされていないが、こうして音楽と関係のある場所に来ると、やはりその影響を強く感じる。持っていないプリンス関連作を何でもいいからゲットしたいところだったが、何もないので、代わりに出たばかりのクール&ザ・ギャング『Emergency』2枚組デラックス版を購入。店内に流れる「Big City」をしみじみと聴きながら、渋谷HUMAXシネマへと向かった。


EVEN BETTER THAN THE REAL THING──本物よりも優れもの

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「The Cross」

 『サイン・オブ・ザ・タイムズ(Sign "O" The Times)』は、'87年5月〜6月に行われたプリンスの同名欧州ツアーの様子を収めたコンサート映画('87年11月アメリカ公開/'89年2月日本公開)。プリンスの劇場公開作としては3本目、監督作としては2本目に当たる。パフォーマンス自体の素晴らしさについては言うまでもないと思うので、ここでは最も重要な点だけを書くことにしたい。

 このコンサート映画の一番の特徴は、ライヴ・ステージの熱狂が──「Housequake」のスタジオ録音版と同じように──人工的に作り出されている点である。一応、ツアー終盤のロッテルダムとアントワープ公演の映像を基にしているものの、映画全体の8割(と言われる)は、後にペイズリー・パーク・スタジオで撮影された“疑似ライヴ映像”である。

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「I Could Never Take The Place Of Your Man」

 劇中には、通常のコンサート撮影では絶対に撮れないようなショットが頻出する。最も分かりやすいのは、例えば、「Sign "O" The Times」でマーチング・ドラムを叩くメンバーたちの隊列を正面からドリー撮影した画。このような大胆なアップショットは、編集時にカメラが画面内に写り込む可能性が高いので、通常のライヴ映像ではまずあり得ない。また、映画冒頭には、キャットとグレッグ・ブルックスによる路地裏でのちょっとした寸劇場面(男女間の価値観の対立が描かれる)が挿入されるが、このいかにもフィクション的な要素は、中盤の「I Could Never Take The Place Of Your Man」の際、グレッグ、キャット、ウォリー・サフォードの3人がステージ後方のバーカウンターで会話をするという形で、実際のライヴ・ステージ上にそのまま紛れ込んでくる。ドキュメンタリー(現実)とフィクション(幻想)の境界の曖昧さは、キャットの部屋の窓の外にステージ空間が広がる場面(「If I Was Your Girlfriend」)でも顕著だ。“プリンスが楽屋で見る夢”という設定で展開される「You Got The Look」のパフォーマンス場面に至っては、両者の境は完全に消失している。ぶっちゃけた話、このコンサート映画は徹頭徹尾“作り物”なのである。

 にもかかわらず──と言うか、だからこそ──この作品は実際のライヴ・ステージの熱狂を正確に捉えることができた。コンサート映画は“ドキュメンタリー”の一種として分類されるが、そもそもドキュメンタリーというものは作り物である。そこには必ず作為がある。ドキュメンタリー映画のことを“現実を捉えた映画”だと勘違いしている人は多いが、映画に現実を捉えることは原理的にできない。どんな撮り方をしても、情報の取捨選択、作者の任意の視点によって、物事の極限られた一側面しか提示することができないからである。ドキュメンタリー映画も、結局は劇映画と同様、“私はこう思いました。私には世界がこう見えました”というだけのものでしかない。

 『THIS IS IT』の鑑賞記でも書いたが、映画は現実を捉えるものではなく、真実を描くものである。プリンスは卑小な現実性に囚われることなく、映画の特権を存分に行使した自由な視点で、彼自身が思うところの自分のコンサートの真の様相を鮮やかに描き出した。彼のステージで一体何が起きているのか。例えば、演奏中にオフマイクで彼がキャットをデートに誘い、“Fuck off!”と言い返される瞬間、私たちはそれをはっきりと知るだろう。プリンスが自分のステージに望むもの、そこで見せたいもの、聴かせたいものが、実際のコンサート会場にいる観客の視点を遥かに超える形で、ひとつひとつ丁寧に力強く描き込まれている。『サイン・オブ・ザ・タイムズ』は、言うなれば、コンサートという形式をとった一種のミュージカル映画である。“ドキュメンタリーか? フィクションか?”という問いは全く意味がない。ペイズリー・パークで撮影されているから純粋なコンサート映画ではない、という批判もおかしい。これぞまさしくプリンスのコンサートであり、まさしく“映画”と呼ぶべきものである。

 “現実”と“幻想”の間を自由に行き来する映画的視点を、プリンスは恐らくフェリー二から学び取ったと思う。彼が監督した前作『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』(1986)には、『』(1963)からの影響がはっきりと見受けられるからである(翌年、モンディーノはジル・ジョーンズ「Mia Bocca」のヴィデオできちんとそれに返答している)。映画自体は見所に溢れたZ級の駄作だったが、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』でプリンスは、賢明にも自分の本職である“ライヴ・パフォーマンス”をテーマに選び、映画作家としての自らの可能性を極めた。監督業では大成できなかったが、この映画を観る限り、映像表現に対する彼の勘そのものは決して悪かったように思えない(が、映画作家としての彼の野心は、もっぱら“カッコいい自分”を描くことにあり、純粋にミュージシャン/ライヴ・パフォーマーとして自分を捉えない限り、監督作は自撮り写真のようなナルシスティックな代物に終始する宿命にあったと思う)

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「Housequake」

 高校の頃、私はレンタルビデオ店でこの映画を借り、長年、ダビングしたテープで楽しんでいた。DVD時代になり、より良い画質を求めてLD落としのブートレグや再発版DVDを入手し続けたせいで、手元にはいくつもの『サイン・オブ・ザ・タイムズ』映像があるのだが(多くのファンがそうだろう)、映画館で観たことはこれまで一度もなかった。'14年のリバイバル上映にも行かなかったので、今回の追悼上映は、私にとっては願ってもないチャンスだった。

 まず、正直に感想を書くと、音響に関しては不満が残った。“渋谷HUMAXシネマの劇場最高音響で上映”と曖昧に謳われていたのは、要するに、近年流行りの“爆音上映会”(コンサート用の音響機材を使った大音量の映画上映)ではない、ということだろう。通常の映画作品としては十分な音量だったが、実際のコンサート会場に較べると、やはり音が小さい。リモコンであと2つぐらい音量レベルを上げたくなるような感じである。曲によってバスドラの音が振動で歪んでいたので、定員202名のミニ・シアターの音響設備ではあれが限界だったのかもしれない。この作品に関しては是非とも爆音上映会をお願いしたいところだ(あと、劇場のロビーには絶対にプラズマボールを置くべき。みんな喜んで触るぞ)

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「If I Was Your Girlfriend」

 とはいえ、初めて劇場の大画面で鑑賞する『サイン・オブ・ザ・タイムズ』はやはり圧巻だった。もちろん全曲が素晴らしいが、劇場で観て個人的に最も感動したのは、意外にも「If I Was Your Girlfriend」だった。ああいう極私的な歌を、大勢の観客の目の前で歌うというのはスゴいなと単純に思った。劇場の大画面で観ると、その異様さが際立つのである。白眉は何と言っても、プリンスとキャットがステージ上段のハート型台座で交わる“儀式”場面。階段を昇っていく2人を追うクレーン撮影の美しさ(ちょっと『第七天国』を思い出させる)にはいつ観ても息を呑む。この曲ではプリンスのディープな表現にどっぷり浸かることができた。

 上映中、「Housequake」「Now's The Time」「It's Gonna Be A Beautiful Night」といったホットなナンバーが終わると、場内には自然と拍手が沸き起こった。別にパフォーマーがその場にいるわけではないし、単なる映画に過ぎないのだが、とにかく拍手せずにはいられないのである。最後にエンド・クレジットが流れ、インスト版「Sign "O" The Times」がフェイドアウトすると、満場の拍手喝采になった。本当にコンサートが終わった時のような大拍手だった。やったぜ、やっぱ最高だ!──誰もが同じ思いだったに違いない。この拍手は、実際に興行を行っている映画館のスタッフはもちろん、その場にいないバンドのメンバーたち、映画に関わったすべての制作者たち、そして、誰よりも天国にいるプリンスに対して贈られたものである。訃報に触れてずっと気持ちが沈んでいたが、劇場に集まった見ず知らずの人たちと思いを共有することができて、私は少し元気が出た。

 日本人はシャイなので、上映中、演奏に合わせて歌ったり手拍子をする人まではいなかったが、この映画は実際のコンサートと同じように皆で騒ぎながら観た方が絶対に楽しい。『ロッキー・ホラー・ショー』のように観客が自ら参加して楽しむパーティー映画として、世界中でずっとレイトショー上映されていけばいいなと思う。




Live at First Avenue, Minneapolis, March 21, 1987
Housequake / Girls & Boys / Slow Love / Hot Thing / Now's The Time / Strange Relationship / Forever In My Life / Kiss / encore: It's Gonna Be A Beautiful Night

 だらだらとつまらないことを書いてしまったが、今回、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』追悼上映のことを記事にしたのは、このとんでもないライヴ映像を紹介したかったからである。'87年5月8日にストックホルムでツアーが開幕する1ヶ月半前の3月21日(アルバム発売の10日前)、プリンスは地元ミネアポリスのファースト・アヴェニューで公開リハーサルを行った。ファースト・アヴェニューは、映画『パープル・レイン』の舞台にもなったプリンスの聖地と言うべきライヴハウス。彼はフルバンドを従え、約1,600人の観客を前に、70分近くにわたってツアーのレパートリーを披露した。その時のフル映像が残っているのである。そして、それは現在、YouTubeで観ることができる。

 このショウのライヴ音源は『4 Those Of U On Valium』というブートレグCDを通して'90年代後半に広く出回り、ファンの間ではよく知られたものだったが、私が映像を観たのは今回のYouTube投稿が初めてだった。これがもう、半端でない。

 まず、プリンスが普通にステージに登場し、観客に向かってショウの趣旨を説明する。“やあ。実はまだリハーサル中なんだ。君らはリハに招かれたってわけ。いくつか新曲をやって手応えを試してみたいんだ”。メンバーを一通り紹介した後、軽いギャグを挟んで、いきなり「Housequake」が始まる。鬼だ(笑)。公開リハとはいえ、手加減は一切ない。衣装も気合いが入っているし、演奏、ダンス、演出も本番さながらである。プラズマボールもきちんとドラムセットの脇に置いてある。この時点で、後に映画として記録されるパフォーマンスはほとんど完成されている。最大の目玉は、映画に収録されなかった「Strange Relationship」の激ファンキーな長尺パフォーマンス。「It's Gonna Be A Beautiful Night」も、プリンスがドラムを叩き終わった後の展開が映画版と全然違って面白い(ダンス大会になっている)。わずか1,600人を相手にこの密度。信じられない。

 ショウは複数のカメラで撮影され、きちんと編集もされている。余裕でソフト化できるクオリティだ。先日、ペイズリー・パークの金庫がドリルで開けられ、アルバム100枚分にも相当する未発表音源が眠っていたことがニュースになったが、ライヴ映像に関しても、これまでブートとして出回っていたものやテレビ放映されたものも含め、発売に値するものが無数にあると思う。57年の短い生涯で、プリンスは並のアーティストの一生涯分以上の仕事をした。こちらがどんなに長生きしようと、そのすべてを把握することは恐らく不可能だろう。プリンスはこれからも私たちを驚かせ続けるに違いない。まったく、何という男だろう。


■プリンスの音源/映像は、これまでNPGによってYouTubeへの投稿が厳しく取り締まられていたが(あまり大きな文字では書けないが、私もかつて'85年グラミーや「A Love Bizarre」のライヴ映像をアップしてチャンネルごと吹っ飛んだ経験がある)、彼の他界後、アップロードのあまりの多さに削除が追いつかず、現時点では事実上のイマンシペーション(解放)状態になっている。とはいえ、この'87年ファースト・アヴェニュー公演映像('16年4月25日投稿)はいずれ削除される可能性があるので、未見の方には今のうちに鑑賞、またはダウンロードしておくことをお勧めする。尚、上に埋め込んだ“Prince - 4 Those Of U On Valium (Full Live Show 3/21/87)”の他に、同映像は“Ultimate Live ~ Sign O' The Times Warm-Up @ First Ave ~ 1987-03-21 MPLS Prince”や“Prince - LIVE Concert 1987! Sign O the Times REHEARSAL GIG with Kiss, Girls and Boys and more”のタイトルでも投稿されている。


追記('16年5月13日):
 '16年5月21日(土)、28日(土)の2日間、立川シネマシティ(シネマ・ツー/aスタジオ)で『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の“極上音響上映”があるそうだ。通常スタイルでの上映に加え、スタンディング、歓声をOKとした“ライブスタイル上映”も。これは凄そうだ(残念ながら私は行けないが)。詳細はシネマシティHPで。




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