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King @ Billboard Live TOKYO 2016



 クイーンではない。プリンスでもない。プリンセスでもないし、プリンセス・プリンセスでもない。ずばり、キングのコンサートを観た。

 '11年3月発表のデビューEP『The Story』がプリンスに気に入られ、同年5月29日、彼のロサンゼルス公演(@ザ・フォーラム。“21 Nite Stand”と銘打たれたロサンゼルス21回連続公演の千秋楽)にいきなり前座として抜擢されたロサンゼルスの女性ユル&Bトリオ。その晩のショウでは御大と「Future Soul Song」で共演も果たした。

 プリンスのお墨付きを得た他にも、クエストラヴやエリカ・バドゥから賞賛を浴び、ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』(2012)でフィーチャーされるなど、以前から業界内での評判が高かった彼女たち。グループ名の検索しづらさもあり、噂ばかり先行して正体がいまいち分からなかったが、デビューから5年、'16年2月にようやく1stアルバム『We Are King』が発表され、5月初頭、日本の音楽ファンに顔見せにやって来てくれた。

 奇しくもプリンスの他界から10日後という巡り合わせになってしまった今回の初来日公演。当然、何らかのトリビュートがあることだろう。何でもいい、私はとにかく彼を失った悲しみを誰かと共有したかった。会場のビルボードライブ東京へ向かう私の心は、完全に紫色に染まっていた。


LOVE LIGHT IN FLIGHT──キングのときめき夢幻飛行


アンバー・ストローザー(左)、パリス・ストローザー(中)、アニタ・バイアス(右)

 キングの初来日公演は、ビルボードライブ東京/大阪で1日ずつ行われた。私が観たのは5月2日(月)、ビルボードライブ東京の2ndショウ。

 定刻を10分過ぎた21時40分に開演。サポート・メンバーがいるかと思いきや、まさかの3人のみ。キーボード4台+ラップトップ1台に囲まれたステージ中央の“コックピット”(という形容がまさに相応しい)にパリス・ストローザーが座り、向かって右側のマイクスタンドにアンバー・ストローザー、左側にアニタ・バイアスが立つ。恐ろしくシンプルなステージ。いかにもショウケース的な簡易ライヴという感じだが、彼女たちのショウはそもそもこういうものらしい。双子姉妹+親友の3人で作った宅録R&Bを、ライヴでもそのまま展開するのである。

 サウンド面で鍵を握るのは、キーボード演奏の他にプロデュースやエンジニアリングも担当するパリス。一応、彼女のもとにもマイクが設置されていたが、それはMC時に使用されるのみで、ヴォーカルは完全に他の2人の役目だった。打ち込みのビートに合わせてパリスがシンセでカラフルなサウンドを紡ぎ、1曲目「Mister Chameleon」ではアンバー、2曲目「The Greatest」ではアニタという具合に、2人のヴォーカリストが交互にリードをとりながら透明感のある美しいハーモニーを聴かせる。派手な振付で歌ったり、あちこち動き回って観客を煽るようなこともなく、それぞれが定位置でひたすら歌と演奏に専念するという非常にシンプルなパフォーマンスだ。

 彼女たちが聴かせるのは、'80年代風のシンセ音を多用した浮遊感溢れるドリーミーなエレクトロニックR&B。ステージ中央でパリスが操縦桿を握り、アンバー&アニタが両翼となって、キングの音は'80年代のジェットストリームに乗って気持ちよく飛翔する。驚いたことに、今回のショウでパリスは4台のキーボードを駆使しながら、ビート以外のほとんどすべてのパートを律儀に生で演奏していた。全体的に掴み所のないモワ〜ッとした音像のスタジオ録音とは趣が異なり、ライヴではエレピや生ピアノ系の音を軸に、かなりメリハリのついた演奏を聴かせる。特に印象的だったのは、スティーヴィー・ワンダー直系のファンキーなブギー・ベース。右手でコードを押さえて清涼感のあるシンセ音を出しながら、左手でブニョブニョ、ビヨンビヨンとぶっとい音色でベース・パートを自由自在に弾きまくる。アルバムを軽く聴いただけでは気づかなかったが、実際に生で聴いたキングの印象は、まさしく“スティーヴィー・ワンダーの子供”というものだった。よく聴くと、コード進行やメロディのセンスもそっくりだ。「In The Meantime」「Red Eye」あたりは、ライヴのアレンジで聴くとスティーヴィーのカヴァーかと勘違いしそうになるほど。アンバーとアニタはいずれも似たようなタイプのヴォーカリストで(アンバーの方がより可憐な歌声だが)、個性を競い合うのではなく、2人で1人多重録音のようなハーモニーを聴かせる。キーボードをパレットのように使い、ヴォーカルを積み重ねて夢幻的な“インナーヴィジョン”を描き出すスティーヴィーの作風とよく似ていると思う。

 「The Story」「Supernatural」と続いた後、ショウの後半でパリスが観客に向かって静かに語りだした。名前を聞かずとも誰の話かすぐに分かった。

「2011年に私たちは初のEPを出しました。〈The Story〉〈Supernatural〉〈Hey〉の3曲入りでした。リリースから間もなく、私たちにとってとても大切な人が声を掛けてくれました。彼は私たちをファミリーの一員として迎えてくれました。次の曲〈Hey〉を、プリンスの思い出に捧げます」

 大切な人が夜空の星となって自分のもとに留まり続ける様を歌った穏やかなスロー・ナンバー「Hey」。歌詞は故人に対する呼びかけのようにも聞こえる。エレピの伴奏だけでしっとりと歌われたこの曲は、まるでマイケル・ジャクソン「Gone Too Soon」のように私の心に響いた。キングの活動拠点はロサンゼルスだが、実はパリスとアンバーのストローザー姉妹はミネアポリス出身。さすがに感極まったらしく、演奏後にはちょっと涙を拭う様子も見られた。観客の拍手はしばらく止むことがなかった。

 コンサート終盤には、彼女たちにとってもうひとりの“ヒーロー”へのトリビュートがあった。スティーヴィー・ワンダー「All Day Sucker」(1976)のカヴァーだ。スティーヴィー好きであることはそれまでのパフォーマンスから十分に察せられたので、実際にMCで言及された時は思わず膝を叩いた。シンプルなビートのループをバックに、パリスはピアノ(ヴァース)+シンセ(サビ)+シンセ・ベースの演奏。アンバー&アニタの涼やかなハーモニーが冴え渡り、原曲とは一味違うクールなファンクネスで観客を大いに魅了した。

 「All Day Sucker」の演奏前、“7月にロンドンでスティーヴィーの前座をやるのですごく楽しみです”とパリスが嬉しそうに言っていた。調べてみると、7月初旬にロンドンのハイドパークで開催される〈ブリティッシュ・サマー・タイム〉という音楽フェスに、スティーヴィーは7月10日のヘッドライナーとして出演予定で、キングはファレル・ウィリアムズ、コリーヌ・ベイリー・レイ(新譜『The Heart Speaks In Whispers』にはストローザー姉妹が大きく関与)と共に同日のステージに立つことになっている(コリーヌとキャラが被るせいか、リアン・ラ・ハヴァスの参加がないのが実に残念)。スティーヴィーは今年で発表40周年を迎えた『Songs In The Key Of Life』の全曲演奏を行うそうなので、もしかすると「All Day Sucker」でキングと共演する場面も見られるかもしれない。

 アルバム『We Are King』の全曲+スティーヴィーのカヴァー1曲を披露した後、アンコールでは、ロバート・グラスパー『Black Radio』の客演曲だった「Move Love」を聴かせてくれた。終演は22時55分。3人だけで75分もやったのには驚いた。


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キングのEP『The Story』(2011)、アルバム『We Are King』(2016)

 良くも悪くも自分たちの中だけで世界が完結しているので、正直、色んな意味で広がりに欠けるパフォーマンスではあった。3人ですべてやる、というDIY精神は買いたいが、ライヴでの聴かせ方、観客の楽しませ方については、まだまだ多くの課題が残されていると思う。もう少し演奏に自由度や意外性が欲しいところだ。パッドでもいいので、サポート・メンバーでドラマーを入れてみてはどうだろうか。

 とはいえ、曲作り、編曲、プロデュース、演奏まですべて自分たちで行う彼女たちに、スティーヴィー・ワンダーやプリンスの精神がしっかり受け継がれているのを確認できたのは良かった。帰り道、彼女たちのフライトが順調に続くことを願うと同時に、スティーヴィーにだけは長生きしてもらいたいと改めて思った。


01. Mister Chameleon
02. The Greatest
03. The Right One
04. In The Meantime
05. Love Song
06. Red Eye
07. The Story
08. Supernatural
09. Hey
10. Carry On
11. Oh, Please!
12. All Day Sucker [Stevie Wonder cover]
13. Native Land
-encore-
14. Move Love

Billboard Live Tokyo, May 2, 2016 (2nd show)
Personnel: Paris Strother (keyboards), Amber Strother (vocals), Anita Bias (vocals)

King: Japan Tour 2016
May 2 - Billboard Live Tokyo (2 shows)
May 4 - Billboard Live Osaka (2 shows)



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