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Prince追悼和訳メドレー【1】──未来



 '16年4月21日、溢れる創造力と共に惜しくもこの世を去ったプリンス。'80年代に音楽に目覚めた私にとって、彼はマイケル・ジャクソンと並ぶ、掛け替えのない父親のような存在だった。彼を偲んで、今日から6日連続で全6回のちょっとした追悼特集を行う。'80年代の彼の名曲群から6曲を厳選し、その歌詞を1日ひとつずつ訳していくという何の捻りもない直球企画である。

 セクシャルなイメージが強いせいか、プリンスの歌詞は、社会的なメッセージ性が顕著なマイケル・ジャクソンに較べると、日本では一般的にあまり注目されることがない。日本においてプリンスは、もっぱら音楽面のみが語られるのみで、歌詞についてはほとんど評価されてこなかったように思う。ネット上でも、マイケルの歌詞を和訳するファンはいくらでもいるのに、プリンスの歌詞となるとさっぱりだ。私はそうした状況をずっと苦々しく思っていて、拙ブログではこれまで積極的に彼の詞作にスポットを当ててきた。プリンスの言葉は、その音楽と同じくらいファンキーで、スケベで、崇高で、シリアスである。それを直接的に享受している英語圏の音楽リスナーと、何となく雰囲気で音だけ鑑賞している日本の音楽リスナーの間には、やはり作品の理解や解釈の度合いに大きな差がある(例えば、他界に際して注目された「Sometimes It Snows In April」にしても、日本のファンの多くは“四月に降る雪”というイメージとリリカルな曲調だけで漠然と作品を捉えるのみで、あれがプリンスの自己追悼歌であることを理解していた人は少ないのではないか)。和訳という作業を通して、私はそうした差を少しでも埋めていきたいと思っている。

 第1回で取り上げるのは『Batman』(1989)の冒頭曲だったソリッドなエレクトロ・ファンク「The Future」。ここでプリンスは預言者に扮し、麻薬や銃が蔓延る現代社会に警鐘を鳴らしている。黙示録ムードを醸すクレア・フィッシャーの不穏なストリングス──未発表曲「Crystal Ball」('98年に蔵出し)から流用された──も素晴らしい効果を上げている。2年前の名曲「Sign "O" The Times」とも共鳴するシリアスなメッセージ・ソングだ。


 The Future
 (Prince)
 
 I've seen the future and it will be
 I've seen the future and it works
 If there's life after, we will see
 So I can't go...like a jerk
 
 俺は未来を見た それは来る
 俺は未来を見た それは迫る
 来世があるなら 知るだろう
 俺にはできない…馬鹿な真似は
 
 Systematic overthrow of the underclass
 Hollywood conjures images of the past
 New world needs spirituality
 That will last
 I've seen the future and it will be
 
 格差社会の構造的暴力
 ハリウッドは過去のイメージを蘇らせる
 新世界に求められるのは
 崇高な精神
 俺は未来を見た それは来る
 
 I've seen the future and it will be
 I've seen the future and it works
 If there's life after, we will see
 So I can't go...like a jerk
 
 俺は未来を見た それは来る
 俺は未来を見た それは迫る
 来世があるなら 知るだろう
 俺にはできない…馬鹿な真似は
 
 Yellow Smiley offers me X
 Like he's drinkin' seven up
 I would rather drink 6 razor blades
 Razor blades from a paper cup
 He can't understand, I say 2 tough
 It's just that I've seen the future
 And boy it's rough
 
 ニコちゃんが俺にX(バツ)を勧める
  セブンアップでも飲むように
 剃刀を6枚飲み込む方がマシってもの
  紙コップで剃刀をゴクリ
 分からないのか ヤバいのに
 未来を見たから言えるんだ
 キツいもんさ
 
 I've seen the future and it will be
 I've seen the future and it works
 If there's life after, we will see
 So I can't go...like a jerk
 
 俺は未来を見た それは来る
 俺は未来を見た それは迫る
 来世があるなら 知るだろう
 俺にはできない…馬鹿な真似は
 
 Pretty pony standing on the avenue
 Flashin' a loaded pistol - 2 dumb 2 be true
 Somebody told him playin' cops and robbers was cool
 Would our rap have been different if we only knew?
 
 ポニーちゃんが街角で
 実弾入りの銃を見せびらかす──ありえない
 泥警やろうぜと誘う奴もいる
 先が見えればラップも今とは違ったか?
 
 I've seen the future and it will be
 I've seen the future and it works
 If there's life after, we will see
 Don't go out...like a jerk
 
 俺は未来を見た それは来る
 俺は未来を見た それは迫る
 来世があるなら 知るだろう
 やめときな…馬鹿な真似は
 
 Systematic overthrow of the underclass
 Hollywood conjures images of the past
 New world needs spirituality
 That will last
 I've seen the future and it will be
 
 格差社会の構造的暴力
 ハリウッドは過去のイメージを蘇らせる
 新世界に求められるのは
 崇高な精神
 俺は未来を見た それは来る


Systematic overthrow of the underclass 格差社会の構造的暴力:“overthrow”は“転覆、打倒”という意味。“overthrow of the government(政府の打倒)”とか“overthrow of the society(社会の転覆)”なら分かるが、なぜ“〜of the underclass(下層階級の〜)”なのだろう。下層階級を更に貶める社会構造、つまり、貧富の差が拡大する格差社会のことを言っていると解釈し、このような訳をした。

Yellow Smiley offers me X ニコちゃんが俺にXを勧める:“X”は、興奮・幻覚作用のある合成麻薬“エクスタシー”(MDMA)を指す隠語。日本では“バツ”や“ペケ”などと呼ばれる。'80年代末、ヨーロッパを中心に興隆したレイヴ文化(大音量で音楽を聴きながら一晩中踊る野外イベント)を通して若者の間に急速に広まった。こうした文化現象は、'60年代末のヒッピー・ムーヴメントに準えて“第二のサマー・オブ・ラヴ”とも呼ばれた。黄色いニコちゃん(Yellow Smiley)はそのシンボルマーク。つまり、ここでプリンスは、若者に麻薬を広めるレイヴ文化を批判している。

cops and robbers 泥警(ドロケイ):“泥棒”と“警察”の2つのグループに分かれて行う、日本でもお馴染みの鬼ごっこの一種。地域によって“警泥(ケイドロ)”、“泥巡(ドロジュン)”など様々な呼び方があるようだが、東京っ子の私は“泥警”と呼んでいた。

rap ラップ:より具体的には、当時、強い影響力を持ち始めていたギャングスタ・ラップのことを指していると思われる。ヒップホップに対するプリンスの対抗意識(?)が垣間見られるようで面白い。



Prince_TheFuture2.jpg
THE FUTURE
7"/12"/CD: Warner Bros., 18 May 1990 (Germany)

The Future [remix] / Electric Chair [remix]

Remixed by Mark Moore and William Orbit at Guerilla Studios, London

 「The Future」は'90年5月に欧州のみでシングル発売された(私は12"とCD、両方持っている)。「The Future」「Electric Chair」の2曲が、オリジナル版ではなく、いずれもマーク・ムーア&ウィリアム・オービットによるアシッド・ハウス調のリミックスで収録されている。なぜこんな変なシングルを出したのだろう。欧州のみの発売で、しかも音がレイヴ仕様になっているのは、実際にレイヴ・パーティーでクスリをやっている若者たちに直接メッセージを届けたいと思ったからではないのか。他に理由があるだろうか? こういうところがプリンスはさり気なく偉いと思う。残念ながらイギリスでは振るわなかったが、このシングルはオランダのチャートで最高9位、ベルギーで22位、ドイツで39位を記録するまずまずのヒットとなった。

 ジャケット写真の撮影は、シャーデー「Turn My Back On You」(1988)なども手掛けているマシュー・ロルストン。どういうわけか、写真が裏焼きで使われている(デザイン上の都合とも思えない。なぜだろう?)。プリンスの顔は左頬にホクロがあるのが特徴。左右の瞳孔の大きさが違う誰かと同様、写真の裏焼きはすぐに分かる。


HE'D SEEN THE FUTURE──ジュリーは未来を見た!

Prince_TheFuture3.jpg
沢田研二「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」('81年11月30日放映、某有名歌番組)

 ひとつどうでもいいことを指摘しておくと、沢田研二も左頬の似たような位置にホクロがある(プリンスより少し内側寄り)。ネットでホクロ占いのサイトをいくつか参照すると、左頬にホクロがある人は“負けず嫌いで努力家”だとか“人気者タイプ”だとか、それらしいことが書いてある。その辺りの分析は暇な女性ファンに任せるとして、ここでは彼の'81年のヒット曲「ス・ト・リ・ッ・パ・ー(作詞:三浦徳子/作曲:沢田研二)を紹介しておきたい。これ、歌詞も曲も衣装もモロにプリンス的である。ほとんど“ひとりレヴォリューション”状態。ジュリーはまさに未来を予見していたのだ。黒い救世主の降臨を図らずも先駆けた、日本における秀逸なグラム・ロック解釈のひとつとして記憶にとどめておきたい。

 ちなみに、このネオロカ曲に触発され、山口百恵「プレイバック Part 2」(1978)への返歌として井上陽水が書いたのが中森明菜「飾りじゃないのよ涙は」(1984)だった……と私は思っているのだが、それは7年前の記事でも書いた(“え?”と思った人は、「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」のリフに合わせて“私は泣いたことがない〜”と歌ってみよう)

 “紫”で繋がるジュリーとプリンス。飾りじゃないのだ、ホクロは……。



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