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プリンスはつらいよ──あるベーシストの場合



 先日、NHK BSプレミアムでプリンスの〈Lovesexy〉ツアーのライヴ映像が約28年ぶりに再放映された('16年6月26日、23:00〜24:30)。'88年9月9日、西ドイツ、ドルトムント公演の模様を完全収録したこの映像は、当時、ヨーロッパで放映/VHS発売されたもの。一大音楽絵巻のような豪華絢爛なショウは、まさに'80年代のプリンスの集大成と呼ぶに相応しい。パフォーマンスだけでなく、カメラ/編集も優れたこの映像は、数あるプリンスのライヴ映像の中でも、映画『サイン・オブ・ザ・タイムズ』や、'86年6月7日のデトロイト公演映像と並んで、最高峰のひとつに数えられる名作中の名作である。当時、日本ではNHK衛星第二でノーカット放映され、私も録画したビデオを夢中で繰り返し観たものだった。今回の再放映は、残念ながら、2時間のオリジナル版を90分に刈り込んだ短縮版だったが、久々に再見して、その内容の濃さや、神懸かり的なパフォーマンスに改めて感動を覚えた(情報量が多すぎて、観ていてかなり疲れるショウだが)

 今回は小ネタとして、見所が満載すぎるこのライヴ映像の中で、私が個人的に好きな場面をひとつ紹介することにしたい。



プリンスのバンドはつらいぜ!──無理な姿勢でベースを弾かされるリーヴァイ

 ショウの終盤「When Doves Cry」でのひとコマ。ベーシストのリーヴァイ・シーサー・Jr(後にNPGでギターを担当)が、腿の下にネックを通し、片脚ケンケン状態で飛び跳ねながら演奏している。かなり苦しそうだ。何故にこんな体勢で演奏しなければならないのだろう。この場面の直前には、彼がこの体勢のままピョコピョコと飛び跳ねてステージ上を横断する様子も見られる。一体、どういう訓練をしているのだろうか。

 プリンスのバンドでは、一般的なポップ/ロック・バンドよりも遙かに高い演奏能力が要求される。普通に演奏するだけでも大変なのに、更には、演奏しながら細かい振付をこなしたり、時には、こうして明らかに無理のある姿勢で演奏することを強いられる。'88年当時、この場面を見たとき、私は子供ながらに“プリンスのバンドって大変だなあ”とつくづく思った。

 腿の下にネックを通してギターを弾く人間などそれまで見たことがなかったので、私はリーヴァイ・シーサーのこの姿に大層驚いたのだが、実は、この“片脚ケンケン奏法”をやったのは彼が最初ではない。〈Lovesexy〉ツアーの53年前の時点で、既に同じことをやっていたギタリストがいることをあなたはご存じだろうか?

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ファイヴ・ラケッティアーズの演奏(『An All-Colored Vaudeville Show』より)

 '35年の黒人映画『An All-Colored Vaudeville Show』。計4組の黒人パフォーマーたちが順に登場し、歌やダンスを披露するボードビル仕立ての10分間の短編音楽映画。その最後に登場するファイヴ・ラケッティアーズ Five Racketeers というグループの一人が、リーヴァイと同じ“片脚ケンケン奏法”をやっているのだ。

 ファイヴ・ラケッティアーズ──ギター4人+ドラム1人の5人組──は、劇中でまず、ユーニス・ウィルソンという女性歌手のサポートで1曲を演奏した後、「Tiger Rag」(ミルズ・ブラザーズの'31年のヒットで有名なポピュラー曲)を高速アレンジで披露する。途中で、左端にいるギタリストがネックを腿の下に通し、リード・ヴォーカルの男と軽妙に掛け合いをしながら陽気にギター(チャランゴ?)を弾く様子が見られる。笑顔でとても楽しげだ。その後、ドラマーがドラムセットから離れ、ステージの壁や床をあちこちスティックで叩いて廻るというハチャメチャなパフォーマンスを繰り広げる。実にファンキー。

 これを観ると、サウンドはちょっと違うが、やっていることは昔も今もそれほど変わらないような気がしてくる。そして、〈Lovesexy〉ツアーで「Things Ain't What They Used To Be」「Billie's Bounce」、あるいは、〈Sign "O" The Times〉ツアーで「Now's The Time」「Take The "A" Train」といった古典曲が演奏されるのも、ごく自然なことのように感じられてくる。プリンスの音楽には、黒人音楽の長い歴史がぎっしり詰まっているのだ。

 この短編映画にはニコラス兄弟も出演している。以前、“The Nicholas Brothers (part 1)”で紹介した作品なので、暇な人はそちらもどうぞ。20世紀前半の黒人芸能には、現在の黒人芸能のルーツをたくさん発見することができる。プリンスやJBの得意技だったスプリットも、マイケル・ジャクソンのムーンウォークも、遥か昔から存在していたものである。

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うぎゃあ〜!

 プリンスのバンドって大変だなあ、と思ったことは他にもある。例えば、'94年のプリンスのテレビ特番『The Beautiful Experience』。ペイズリー・パークでの最新ライヴ映像/音楽ヴィデオなどで構成された劇仕立ての1時間の映像作品。当時、日本ではWowowで放映され、異様にテンションの高い新曲群に“プリンスがスゴいことになってる!”と大興奮したものだった。ライヴ映像が撮影された'94年2月13日のフル・ライヴ音源を収録したブートレグCD『Welcome 2 The Beautiful Experience』(KTS)も、当時の私の愛聴盤だった。

 その中の1曲「Days Of Wild」のパフォーマンス中、プリンスがおもむろにバリカンを取り出し、観客の前でキーボードのモリス・ヘイズの髪の毛を問答無用でジョリジョリと刈り上げる場面がある。たまらない(笑)。メンバーたちはこんなことにも耐えなくてはいけないのだ。プリンスのバンドでやっていくのは本当に大変なことなのである。



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