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Crowded House──寝ぼけるな、終わっちゃいない



 前回、ルース・Bの「Lost Boy」を和訳しているときに、クラウデッド・ハウスの大ヒット曲「Don't Dream It's Over」(1986)をふと思い出した。曲やヴィデオのノスタルジックな雰囲気が似ていたせいだが、両者には“自由”について歌っているという共通点もある。

 「Don't Dream It's Over」は、リアルタイム世代はもちろん、カヴァーも多いので、音楽ファンなら誰でも一度は耳にしている曲だと思う。しかし、センチメンタルな雰囲気のこの曲が、自由に関する骨太なプロテスト・ソングだということを認識している人は意外と少ないのではないか。改めて歌詞を読み返したところ、今の時代にも通用する──と言うか、今だからこそ聴かれるべき歌だと強く感じた(特にアメリカ人に)。今回は、夏らしい爽やかさも湛えたこの名曲を和訳する。




 Don't Dream It's Over
 (Neil Finn)
 
 There is freedom within, there is freedom without
 Try to catch the deluge in a paper cup
 There's a battle ahead, many battles are lost
 But you'll never see the end of the road
 While you're traveling with me
 
 内に自由があり 外に自由がある
 紙コップで豪雨を受け止めてごらん
 行く手には闘い 闘いには敗北も
 でも 君が僕と歩むうちは
 道が終わることはない
 
 Hey now, hey now
 Don't dream it's over
 Hey now, hey now
 When the world comes in
 They come, they come
 To build a wall between us
 We know they won't win
 
 さあ 寝ぼけるな
 終わっちゃいないさ
 ほら 目を覚ませ
 現実に目をやれば
 彼らが来る やって来る
 僕らの間に壁を築こうと
 そんなことさせないさ
 
 Now I'm towing my car, there's a hole in the roof
 My possessions are causing me suspicion but there's no proof
 In the paper today tales of war and of waste
 But you turn right over to the T.V. page
 
 車を引いて進む僕 屋根には穴も
 先が思いやられるけどまだ分からないさ
 今日の新聞には戦争や荒んだ話
 でも 君はテレビ欄をめくる
 
 Hey now, hey now
 Don't dream it's over
 Hey now, hey now
 When the world comes in
 They come, they come
 To build a wall between us
 We know they won't win
 
 さあ 寝ぼけるな
 終わっちゃいないさ
 ほら 目を覚ませ
 現実に目をやれば
 彼らが来る やって来る
 僕らの間に壁を築こうと
 そんなことさせないさ
 
 Now I'm walking again to the beat of a drum
 And I'm counting the steps to the door of your heart
 Only shadows ahead barely clearing the roof
 Get to know the feeling of liberation and release
 
 ドラムのビートに合わせて僕はまた歩き出す
 君の心の扉まであと何歩だろうか
 目の前の夕闇にうっすら屋根が浮かぶ
 自由と解放がどんなものか知るんだ
 
 Hey now, hey now
 Don't dream it's over
 Hey now, hey now
 When the world comes in
 They come, they come
 To build a wall between us
 We know they won't win
 
 さあ 寝ぼけるな
 終わっちゃいないさ
 ほら 目を覚ませ
 現実に目をやれば
 彼らが来る やって来る
 僕らの間に壁を築こうと
 そんなことさせないさ
 
 Don't let them win
 (Hey now, hey now, hey now, hey now)
 Hey now, hey now
 Don't let them win
 (They come, they come)
 Don't let them win
 (Hey now, hey now, hey now, hey now)

 彼らに負けるな
 (さあ ほら さあ ほら)
 さあ ほら
 彼らに負けるな
 (彼らが来る やって来る)
 彼らに負けるな
 (さあ ほら さあ ほら)


There is freedom within, there is freedom without 内に自由があり、外に自由がある:“内なる自由”は精神的な自由、“外なる自由”は社会的な自由のことだろうか。観念的な言い回しは、悟りの境地を歌ったビートルズ「Within You Without You」(1967)──“やがて分かるだろう、我々は皆ひとつ/生命は己の内、己の外に流れる(And the time will come when you see we're all one / And life flows on within you and without you)” ──を少し彷彿させる。また、ティミー・トーマス『Gotta Give A Little Love (Ten Years After)』(1984)収録の「Freedom Within」と「Don't Dream It's Over」がそっくりなのは偶然なのだろうか。

Try to catch the deluge in a paper cup 紙コップで豪雨を受け止めてごらん:ビートルズ「Across The Universe」(1969)の冒頭の一節“言葉は降りやまぬ雨のごとく紙コップの中に溢れていく(Words are flowing out like endless rain into a paper cup)”を連想させる。それくらい世界には問題が溢れている──とても手に負えないが、それでも僕らは取り組まなければいけない、という意味か。

Don't dream it's over 何も終わっちゃいないさ:直訳すれば“終わったなんて(夢にも)思うな”。“Don't think it's over”と同じ意味だが、敢えて“dream”という語を使ったのは、“The dream is over(夢は終わった)”というフレーズに引っ掛けるためだろう。“The dream is over”という常套句は、例えば、ジョン・レノン「God」(1970)に登場する。“夢は終わった”を捻って、終わっちゃいない、諦めるな、頑張って世界を変えよう、と言っているところがこの歌の面白さである。

In the paper today tales of war and of waste 今日の新聞には戦争や荒んだ話:ビートルズ「A Day In The Life」(1967)の冒頭の一節“今日、ニュースを読んだ(I read the news today, oh boy)”を思い出させる。「Don't Dream It's Over」は、感傷的なムードも含め、いかにも'60年代後半のジョン・レノンが書きそうな歌だ。曲調や、ヴィデオのノスタルジックな雰囲気は「In My Life」(1965)にも通じる。

 

 先日、この歌詞を精読して私はびっくりした。人々の間に壁を築こうとする“彼ら”に、ドナルド・トランプ陣営(または、彼を大統領候補に指名した共和党)があまりにも自然に重なったからである。まるで反トランプ派のテーマ・ソングのように聞こえる。

 同じことを感じた人間が他にもいるはずだと思い、曲名と“Donald Trump”で検索してみたところ、作者であるニール・フィンのごく最近のインタヴュー記事が見つかった。「Don't Dream It's Over」が多くの人に共感を与え、数多くのカヴァーを生んでいるのはなぜだと思いますか、と訊かれて、彼はこう答えていた。

「ああいう流行歌ってつくづく不思議だよね。ものすごくヒットして、とてつもない広まり方をして、多くの人にとって大切な歌になってる。本当に嬉しく思ってるよ。僕の書く歌には時たまそういうことがあるんだよね。あの曲にしても、歌詞が何を指してるのか曖昧なところがあって。でも、その間口の広さゆえに普遍性があるっていう。
 ちょうど思ってたんだけど、あの歌は現在にも通じるものがあるよね。特に、壁を築くと言ってるドナルド・トランプのことにね。“僕らの間に壁を築こうとしてる/そんなことさせないさ(To build a wall between us / We know they won't win)”っていうサビの一節なんて、笑っちゃうくらい今の時代と重なるし。普遍的であり、不変的でもある。でも、そんなの狙って書いてるわけじゃないんだよ。時として、思いがけず時代を超えて響いてしまうものなんだ」(9 June 2016, Salon.com)

 政治や暴力によって“壁”を築こうとする人間はいつの時代にもいる。“壁”は、国家、人種、民族、宗教、性、貧富など、様々な単位で人々を分断する。“壁”は、人々の不信や不安を助長し、暴力の連鎖を生む。“壁”は、無知で出来ている。

 壁が一切存在しない、一面に地平線が広がるような世界。天国も地獄もなく、ただ頭上に大空が広がるような世界。国境も宗教もなく、誰かを殺したり、何かのために命を捨てなくてもいい世界。誰もが安らかな気持ちで暮らせる世界。そうした自由な世界は、私たち一人ひとりが真剣に想像し、望むことから始まるはずである。

 You may say I'm a dreamer
 But I'm not the only one
 I hope someday you'll join us
 And the world will be as one
 
 夢想家だと言うかもしれない
 でも 僕ひとりじゃない
 いつか君も加わってほしい
 そうすれば世界はひとつになる
 
 ──ジョン・レノン「Imagine」(1971)



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