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Prince──ヒトデとコーヒー



 『Sign "O" The Times』(1987)の6曲目「Starfish And Coffee」。“ヒトデとコーヒー”なる奇妙なタイトルを持つこの曲は、シングル曲ではないが、同アルバム収録の「The Ballad Of Dorothy Parker」と同じく、昔からプリンスのファンの間でとりわけ人気の高い1曲だろう。

 NHK〈みんなのうた〉で流れてもおかしくない、ほのぼのとしたムードを持つこの歌は、プリンスと、当時、彼の恋人でもあったスザンナ・メルヴォイン──ウェンディの双子の妹──によって共作された。歌詞は、スザンナの小学校時代の同級生だったシンシア・ローズという実在の少女について書かれている。シンシア・ローズは、クラスの他の子たちとは全く違う、まるで別の星からやって来たような変わった子だった。プリンスは、その子に関するスザンナの回想をもとに「Starfish And Coffee」を書き上げた。

 '15年末、スザンナは「Starfish And Coffee」が書かれた詳しい経緯を、プリンスのファン・サイト、Housequake.com(かつて世界的な人気ファン・サイトのひとつだったが、権利問題でプリンス側から通告を受け、'09年に閉鎖。現在はフェイスブックへ移転)に語っている'15年12月16日投稿。その「Starfish And Coffee」誕生秘話は、半月後にスザンナ自身のフェイスブックに転載され'16年1月2日投稿、更にその後、テキストに若干の手直しを加え、'16年6月、スザンナが開設した「Starfish And Coffee」グッズの通販サイト(後ほど詳述)に掲載されることになった。シンシア・ローズに関するその話は大変面白く、同時に、静かな感動を読み手に与える。この話を読んで、私はこの歌が一層好きになった。プリンスのファンでなくとも一読の価値がある素晴らしい文章だと思う。

 以下、スザンナの通販サイトに掲載されている「Starfish And Coffee」誕生秘話の全訳に加え、同曲の歌詞を訳出する。あなたもきっとこの歌が更に好きになるはずだ。


Starfish & Coffee〜ヒトデとコーヒー
スザンナ・メルヴォイン

 ミネアポリスの秋ははっきりと覚えている。水と土が匂ってくる空気、市内全土に広がる湖はひっそりと静まり返り、まだ秋だというのにでっぷりしたジャケットで、ありえないほど厚着した人たちがほとりを歩いている。大好きだったそんな季節に、私は人生でひときわ素晴らしいときを過ごすことになった。長々と話すかわりに、1986年──87年だったかな?──の秋のある一日に話を絞ることにしよう。それは、私がプリンスと一緒に「Starfish And Coffee」を書いた日だった。

 台所のテーブルを囲んでいたのは、プリンス、エンジニアのスーザン・ロジャーズ、そして、私。
 その頃、スーザンと私は毎日、彼とレコーディングをしたり、互いに交流をしていた。プリンスと私は多くの時間を共に過ごした。スタジオで作業したり、でなければ、ミネアポリスをドライブしながら2人でお喋りしたり、音楽を聴いたり。私たちは自分の生い立ちや秘密について話したが、そこで私が、シンシア・ローズという12歳の女の子のことを彼に聞かせたことがあった。姉のウェンディと私は、シンシアと6年間クラスが一緒だった上、同じバスで学校に通っていたので、彼女のことをとてもよく知っていた。私はバス通学をきっかけにシンシアと親しくなった。
 シンシアはほとんど自分の世界にしか興味のない子だった。端から見ていると、まるで彼女の頭の中で起きていることが未編集ヴァージョンでそのまま伝わってくるようだった。仮に彼女が現代の小学校にいたとしても、当時と同じく、ET並みに不思議な存在であるに違いない。シンシアはとんでもない世界観と共に別世界から迷い込んできたのだと思う。シンシアにしか分からない意味を持った世界観と共に。
 長年、彼女のお気に入りの数は12だった。と言うのも、彼女はいつもイスを前後に揺らしながら、「今日の私のお気に入りの数はなんでしょう?」と人に尋ねていたから。お気に入りの数が12だと他人が知っていることは、彼女にとっては常に驚くべきことだった。私が「12かな。でしょ、シンシア?」と言うと、彼女は当てられたことにびっくり仰天して大はしゃぎだった。当てるも何もないのに。私はそうやって嬉々として世界と接する彼女の姿を見ていた。
 12という数がいかにすごくて重要かということを、シンシアは何度も繰り返し話してくれた。理由を訊けば、決まって同じ答えが返ってくる。答えはいつも「うれしくなるから」。そう言って、彼女は湿気で曇ったバスの窓に指で大きなニコニコ顔を描いていた。通学バスの中では大抵、シンシアは座って身体を揺らしながら、お気に入りの数を繰り返しつぶやいていた。シンシアは朝ご飯に何を食べたかもよく話してくれた。それは毎日“ヒトデとしーしー(Starfish and Pee Pee)”だった。私にはその組み合わせがさっぱり理解できなかった。はっきり言って誰にも分からなかったし、そのせいで周りの子たちとも溝ができてしまう感じだった。そもそも、同級生たちはシンシアの朝ご飯の話になど興味がなかった。私はほのぼのとして面白いと思い、彼女が話したがることには何でも耳を傾けていた。それが果たして地球上のことなのか、それとも、数字や、ニコニコ顔を描くのが好きな心優しい人たちが住む彼女の星の話なのかはともかくとして……。

 6年は私たちが同じクラスで過ごす最後の年だった。シンシアの様子がちょっと違ったのは、その年の最初のバス通学のときのことだ。彼女は窓の外をじっと見ながら黙って座っていた。学校に着き、バスが駐車場に入っていくと、シンシアはこちらを振り向き、私の目を見つめて訊いてきた。「すごいこと教えてあげようか?」
 なんだろう?!
 一緒にバスから降り、何歩か歩いたところで、彼女は私の顔を覗き込んで言った……「私のお気に入りの数、知りたい?
 私は「12でしょ?」と言った。
 シンシアは何と答えたか?……なんと20だった!!!!
 そして、彼女らしい火星人っぽい素敵な仕草で両手に微笑みかけると、「だって、とってもうれしくなるから!」
 グルーチョ・マルクスか火星人のような趣で走り去りながら、20という数を繰り返し唱える彼女なのだった。
 その年はシンシアと私にとってとてもおかしなものになった。あるとき、私が授業中にトイレに行ったことがあった。トイレから出ようとすると、個室の中から水がパチャパチャする音とクスクス笑う声が聞こえる。何となくシンシア・ローズのような気がした。その笑い声は普通の人間っぽくなく、何かに熱中し、まるで上着の中に顔をうずめて喚いているような、くぐもっていて素っ頓狂な響きだった。私は個室のドアを叩き、シンシアなのかと尋ねた。クスクス笑い声がするだけで、返事はない。ドアの下から覗いてみると、シンシアの靴が見えた。「何してるの?」と訊くと、ドアがパッと開き、口に大きな赤いリンゴをくわえ、髪も顔もびしょ濡れになっている彼女がいた。リンゴを一口かじって彼女は言った。「トイレでリンゴくわえやってたの。すっごく楽しい!」
 彼女のやっていたことに私はひきつった……。
 シンシアは私を見たが、それを最後に私たちが目と目を合わせて話すこともなくなってしまった。彼女は浮かない顔をして考え込むようになった。それまでの彼女には見られないことだった。びしょ濡れのシンシアを拭くためにトイレットペーパーを必死にかき集めているとき、彼女は私の手を握った。拭かれている間、彼女は私の手をじっと黙って見つめていた。
 これがシンシア・ローズという変わった子の話。ケヴィン、クリストファー、ウェンディ、スザンナといった25人の子どものうちのひとりで、6年間、私たちは毎日一緒に過ごした。加えて、その6年の間、私たちの毎日は、教室の外でキャスリーン先生に挨拶することから始まっていた。廊下でみんな一列に並び、先生がドアを開け、一人ひとり先生と握手と挨拶を交わしてから席につくというのが毎朝の習わしだった。シンシア・ローズを除けば、私たちはみんな普通の子だった。

 私はこの実話を、プリンスから訊かれると時おり話して聞かせた。彼女は歌になる、ということで2人とも意見が合った。シンシアはとても感受性の強い子だった。私たちは思った──シンシア・ローズは今も元気だろうか、今も数字に夢中だろうか? 数字は彼女を“うれしくさせる”からだ。
 ミネソタの秋の日の午後、スタジオから出て階段を上がってきたプリンスが、台所のテーブルで私の隣に座り、シンシア・ローズのことを全部話してくれないかと訊いてきた。数時間後、彼はその話を紙に書いてほしいと言った。
 話の執筆を頼まれたその日の午後、階下のスタジオで何が起ころうとしているのか私には知る由もなかった。プリンスは、曲が出来上がるまで下には来ないでほしいと私に頼んだ。スタジオに下りていく前、彼は台所で私に「“しーしー(おしっこ)”はマズいな」と言い、代わりに“コーヒー”でどうかと尋ねた。いいわ、いいわ、もちろんよ……。
 10時間後、スーザンが私を呼びに上がってきた。スタジオに入ると、コンソールの前にプリンスが疲れた顔に笑みを浮かべて立っていた。そして言った。「出来たよ!」

 あとはご存じの通り。

 スザンナ



Starfish And Coffee
(Prince/Susannah Melvoin)

It Was 7:45, We Were All In Line ● 2 Greet The Teacher Miss Kathleen ● First Was Kevin, Then Came Lucy, Third In Line Was Me ● All Of Us Were Ordinary Compared To Cynthia Rose ● She Always Stood At The Back Of The Line ● A Smile Beneath Her Nose ● Her Favorite Number Was 20 And Every Single Day ● If U Asked Her What She Had 4 Breakfast ● This Is What She'd Say. ● Starfish And Coffee ● Maple Syrup And Jam ● Butterscotch Clouds, A Tangerine ● And A Side Order Of Ham ● If U Set Your Mind Free, Baby ● Maybe You'd Understand ● Starfish And Coffee ● Maple Syrup And Jam ● Cynthia Wore The Prettiest Dress ● With Different Color Socks ● Sometimes I Wondered If The Mates Were In Her Lunchbox ● Me And Lucy Opened It When Cynthia Wasn't Around ● Lucy Cried, I Almost Died, U Know What We Found? ● Starfish And Coffee ● Maple Syrup And Jam ● Butterscotch Clouds, A Tangerine ● And A Side Order Of Ham ● If U Set Your Mind Free, Baby ● Maybe You'd Understand ● Starfish And Coffee ● Maple Syrup And Jam ● Starfish And Coffee ● Cynthia Had A Happy Face, Just Like The One She'd Draw ● On Every Wall In Every School ● But It's All Right, It's 4 A Worthy Cause ● Go On Cynthia, Keep Singin' ● Starfish And Coffee ● Maple Syrup And Jam ● Butterscotch Clouds, A Tangerine ● And A Side Order Of Ham ● If U Set Your Mind Free, Baby ● Maybe You'd Understand ● Starfish And Coffee ● Maple Syrup And Jam

7時45分になると、みんな列んで●キャスリーン先生に朝の挨拶●最初にケヴィン、次にルーシー、3番目が僕●シンシア・ローズに較べたら僕らみんな普通の子●彼女はいつも列の後ろにいて●鼻の下に笑みを浮かべてた●好きな数は20、いつの日だって●朝ご飯なに食べた?と聞くと●決まってこう言う●ヒトデとコーヒー●メープルシロップとジャム●バタースコッチの雲、タンジェリンに●ハムをひと添え●心を自由にすれば、きっと分かる●ヒトデとコーヒー●メープルシロップとジャム●シンシアはいつも可愛らしい恰好●靴下の色は左右ちぐはぐ●ときどき彼女の弁当箱の中身が気になって●僕とルーシーはシンシアがいないときに開けたんだ●ルーシーは叫び、僕はひっくり返った、何が入ってたと思う?●ヒトデとコーヒー●メープルシロップとジャム●バタースコッチの雲、タンジェリンに●ハムをひと添え●心を自由にすれば、きっと分かる●ヒトデとコーヒー●メープルシロップとジャム●ヒトデとコーヒー●シンシアはニコニコ顔、彼女の落書きとおんなじ●学校中の壁に描いてた●でもいいさ、ちゃんと意味があるんだもの●がんばれシンシア、歌うんだ●ヒトデとコーヒー●メープルシロップとジャム●バタースコッチの雲、タンジェリンに●ハムをひと添え●心を自由にすれば、きっと分かる●ヒトデとコーヒー●メープルシロップとジャム


Lucy メアリーでもサリーでもスージーでもなく、プリンスはなぜ脇役の少女に“ルーシー”という名を与えたのだろう。クラスの25人の中に、実際にルーシーという子がいたのかスザンナに訊いてみたい。もしいなかったとすれば、ルーシーは一体どこから来たのか。“小舟で川に浮かぶ自分を想像してごらん/周りにはタンジェリンの木とマーマレードの空(Picture yourself in a boat on a river / With tangerine trees and marmalade skies)”。プリンスは、ビートルズ「Lucy In The Sky With Diamonds」(1967)──息子ジュリアンの描いた絵に触発されたジョン・レノン作品──を意識しながら「Starfish And Coffee」を書いたのではないか。

※“1986年の秋”というスザンナの記憶は残念ながら誤りで、「Starfish And Coffee」が録音されたのは、実際には'86年4月20日のことだった。録音場所は、チャンハッセン市ガルピン通りにあったプリンスのホームスタジオ。「Starfish And Coffee」は、'86年7月頃まで『Dream Factory』というプリンス&ザ・レヴォリューション名義の2枚組アルバムに収録予定だったが、'86年秋には、そこから発展したプリンスの3枚組ソロ・アルバム『Crystal Ball』の収録候補となり、'87年3月、最終的に『Sign "O" The Times』を通して世に出た。





 かつて私の小学校にもシンシア・ローズと似たような子がいた。W君(男子だった)は、何を考えているのか分からない面持ちで、いつもニコニコ……と言うよりは、ニタ〜とした笑みを浮かべていた。朗らかで優しい子だったが、こちらが話しかけても決して目を合わそうとしなかったことをよく覚えている。彼とは普通の会話がほとんど成り立たない。彼はひとりでよく意味不明なことをムニャムニャとつぶやいていた。

 W君は私と同じクラスではなかった。私の小学校は一学年にクラスが4組まであったが、彼は“5組”という特別学級の子で、給食の時間になると私のクラスにやって来た。給食は4〜5人の班ごとに机を合わせて食べるのだが、彼は日替わりで各班と一緒に給食を食べることになっていた。同級生たちは皆、W君に対して“特別な子(5組の子)”という認識を持っていたので、接し方はそれなりだった。誰もバカにしたりいじめるようなことはなかったが、かと言って、私を含め、積極的に彼と交流しようとする子もいなかった。

 シンシア・ローズやW君のような子は、一般的に自閉症と呼ばれる。人と目を合わさない、常に身体を揺らす、特定のことにこだわりを持つ、同じことを繰り返し尋ねる等は、その典型的な症例である。自閉症には様々な症状があり、人によって度合いも異なる。W君は特別学級の子だったが、シンシア・ローズの場合は社会適応能力が比較的高かったのか、あるいは、学校に特別学級がなかったのか、普通学級に通っていた。

 上に訳出したスザンナの述懐、そして、プリンスの「Starfish And Coffee」という歌に触れると、正直、“自閉症”という言葉で彼らを説明し、片付けることがためらわれる。彼らには確かに人と違ったところがあるが、人間として果たして本当に他と違うのか。人として私たちよりも絶対的に劣っているのだろうか。ここで私は彼らに同情し、障害は個性である、とか、障害の“害”の字は不適切だ、といった主張をするつもりはない。しかし、私たちの社会の中には、“健常者”でありながら、平気で人を傷つけるようなことを言ったり、(自分の方が社会的に立場が上だという理由で)人を見下したり、横柄に振る舞ったり、意地の悪いことをしたりする人たちがたくさんいる。そういう人たちに較べて、彼らは劣っているのだろうか。異常なのだろうか。そのような単純な疑問が湧く。

 但し、この世に自閉症という先天的な脳の発達障害が存在することは紛れもない事実であり、それを無いことにすることもできない。私自身は幼少時にW君と少し接した程度なので何も明言はできないが、自閉症の人と付き合うことには色々と困難があるだろうし、また、自閉症の家族を持つ人はさぞかし大変だろうと思う。自閉症には、やはり周囲の人々(私たち)の正確な理解が必要だろう。

 この世には様々な個性や特徴を持った人がいる。物の考え方、価値観、信仰も様々だ。「Starfish And Coffee」は、そういった表面的な違いを踏まえた上で、他者を理解しようとすることの大切さを歌っている。人間の価値というものは、その人の心根で決まると私は思う。ピアノの伴奏を軸にした3分足らずの小品ながら、私たちの誰にも関係あることを、子供にでも理解できるくらい分かりやすく歌った、とても大きな歌だ。


STARFISH & COFFEE OFFICIAL MERCHANDISE

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 '16年6月初頭にスザンナ・メルヴォインは「Starfish And Coffee」に因んだグッズを取り扱う通販サイト、Starfish & Coffee Official Merchandiseを開設した。そこでは、“Starfish & Coffee, Maple Syrup & Jam”という歌詞が大きくプリントされたTシャツ(歌詞の下にスザンナのサインのプリント付き)や、同様の歌詞、またはヒトデのイラストが入ったマグカップが販売されている。色はそれぞれ黒、白、紫の三種。プリンスのアーティストTシャツは非公式も含めて様々なものが出回っているが、個人的にはこの“Starfish & Coffee”Tシャツがずば抜けてクールだと思う。これらのグッズは現在、プリンス御用達のミネアポリスのレコード店、Electric Fetusでも取り扱われている。

 スザンナは自身のフェイスブック'16年6月13日投稿で、この通販サイトの趣旨について以下のように話している。

「〈Starfish And Coffee〉は、発達障害を持つ子どもや大人についての歌です。プリンスは僅かな数の慈善イベントを行いましたが、自閉症はその対象のひとつでした。なぜTシャツかと言えば、それは〈Starfish And Coffee〉がずばりそのこと……自閉症をテーマにしているからです。我々は、シンシアと同じような人生を経験している人たちのことをよく知ってもらいたいと思っています。この話を世界に伝えたい。“ヒトデとコーヒー、メープルシロップとジャム”は、いつでも私たちみんなにピッタリです。我々の目標は、自閉症協会、または、Autism Speaks(世界最大の自閉症支援団体)と団結して、シンシア・ローズのことを世界に紹介し、みんなで彼女と一緒に踊ることです。このTシャツのことを広めてください。我々の啓発活動はまだ始まったばかりです」

 グッズの売り上げの用途について、現時点では通販サイト内に何も説明はないが、スザンナのこのコメントを読む限り、そのすべて、もしくは一部は、将来的にどこかの自閉症関連団体に寄付されるか、啓発活動の資金に充てられるように思われる。こうして自分の曲が使われることを、恐らくプリンスは喜んでいるだろう。

 Tシャツは通常の大人サイズ(S・M・L)が29.99ドルで、日本からもPayPalで購入可能。但し、日本から買うと送料・手数料が25ドルもかかる。私はものすごく欲しいのだが、Tシャツ1枚で55ドルはちょっとハードルが高いか……。海外通販はなぜこんなに高くつくのだろう。ヒトデとコーヒー、海外送料と手数料で、+25ドル。心を自由にすれば、きっと分かる……のか?


【fDeluxe来日公演、スザンナ・メルヴォイン出演キャンセル】

 今回の記事は、'16年9月3日〜4日にビルボードライブ大阪/東京で行われるfデラックス(元ザ・ファミリー)の来日公演に合わせて用意したものだった。が、残念ながら、来日直前の8月25日、主要メンバーのひとりであるスザンナ・メルヴォインの出演キャンセルが発表された。もしかしたら「Starfish And Coffee」を歌ってくれるのではないかと期待していたのだが……本当に残念だ(公演は彼女なしで予定通り行われる)。彼女の出演キャンセルの理由は“個人的な家庭の事情”とされている。上記の通販サイトとも関係あることなので、これについて少し触れることにする。

 fデラックスの公式フェイスブックには、出演キャンセルに関するスザンナ自身の以下のコメントが掲載されている('16年8月25日投稿)。

「日本公演に参加できなくて本当に残念です。一緒に素晴らしい時間を過ごしたかったのですが。でも、私には家を空け、自分の子供たちの生活の安全や世話を置いて出掛けることができないため、出演ができません。またの機会があれば、子供たちを連れて行きたいと思います。プリンスが彼女たちを可愛がってくれたことも分かってもらえるでしょう。近いうちにまた公演ができることを願っています(Wanted you all to know how sorry I am for not being at these shows. I know we would have had a fantastic time together. But because I cannot travel without having my children's lives safely prioritized and taken care of while I'm away I cannot make these shows. I hope next time, I will bring them with me and you will know why Prince loved them so much. I hope we can do this again soon..)」

 あまり書きたくはないが、スザンナの現在の暮らし向きはあまり良くない。彼女は'97年に米ミュージシャンのドイル・ブラムホール二世と結婚したが、'10年に離婚し、それからは女手ひとつで2人の娘を養っている。が、生活はかなり苦しいらしく、今年1月には、友人の計らいによってクラウドファンディングのGoFundMeで、彼女の生活を支援するため(アーティスト活動をできるようにするため)の募金が行われていた。fデラックスの活動で稼げるのではないかと思いきや、その募金ページの説明によると、'15年11月にバンドの公演があった際、彼女は経済的な理由で参加することができなかった。受け取るギャラよりも、家を空けて出掛けていく方が高くついてしまうからだという。多分、彼女は生活のために普段何らかの仕事をしていると思うが、遠出して僅かな数のコンサート活動をするより、日々の仕事をしていた方が割が良いということなのだろう。それくらい彼女の生活は困窮しているし、逆に言うと、fデラックスのギャラは安いということである。今回の日本公演の出演キャンセルも、恐らく同じ理由なのだろう。来日する方向で努力していたが、やっぱり苦しい、ということだと思う。

 上記の通販サイトは、GoFundMeで集まった資金で立ち上げたものと思われる。グッズの売り上げは、現時点では彼女の家の生活費や子供たちの養育費に充てられる可能性が高い。チャリティと謳っているわけではないので問題はないが、“自閉症の子供の話をダシにして金儲けをしている”という批判は十分にあり得るだろう。もちろん、彼女にそんなつもりはないだろうし、グッズの売り上げを最終的には自閉症の人たちのために有効に利用したいと思っているはずである。自分の生活も含め、現在、彼女は“Starfish & Coffee”の活動を模索しているところだと思う。現時点で通販サイト内に“autism(自閉症)”という言葉が一切ないのは、そのせいもあるだろう。なので、グッズの購入を考えている人は、そのあたりも踏まえて購入するべきである。私自身は「Starfish And Coffee」という歌が好きだし、単純に商品として素晴らしいと思うので、スザンナの作ったTシャツが欲しいと思う。それで彼女が生活でき、やりたいことができるようになるのなら喜んで買う。ビルボードライブの会場で売られていなければ、高い送料を払って彼女のサイトで購入しようと思っている。


追記(2016年9月4日):
 '16年9月1日〜3日の3日間、プリンスの聖地であるミネアポリスのライヴ・ハウス、ファースト・アヴェニューで、ザ・レヴォリューション(ウェンディ、リサ、ブラウンマーク、ドクター・フィンク、ボビー・Z)の再結成コンサートが行われた(特別ゲスト:デズ・ディッカーソン、アンドレ・シモン)。事前の告知に名前がなかったので、まさか出演はないだろうと思っていたが、実際にショウが行われてみれば、ステージにはちゃっかりスザンナの姿があった(おいおい)。彼女はアンコールの「Baby I'm A Star」にアポロニアと共に顔を出している。来日ドタキャンの理由がこの同窓会に出席するためだったのかどうかは分からないし、ミネアポリスなら行ける、という理由で結果的にこうなったのかもしれないが、これでは日本のファンの顰蹙を買っても仕方ないか……。このショウにはビラルがゲスト出演して「The Beautiful Ones」「Private Joy」「When Doves Cry」「Kiss」等を歌っている他、プリンスの2人の元妻、マイテ・ガルシアとマニュエラ・テストリーニも姿を見せた。




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