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【号外】『ニッポンのうた〜“歌う旅人”松田美緒』を録画せよ



 日本テレビで日曜深夜に放映されている〈NNNドキュメント〉。このドキュメンタリー番組を私は毎週欠かさず、と言うほどでもないが、割と毎週、無意識的に観ている。10月2日の深夜も、いつものように何となくテレビをつけ、何となく4チャンネルに回し、画面に映し出される見知らぬ人の人生の断片を、食事をしながら何となく見始めた。最終的に私は、飯を食うのも忘れて画面に見入っていた。

 その回は同番組には珍しい音楽ネタで、主人公は松田美緒という30代の日本人女性歌手だった。彼女は某クイズ番組の“ミステリーハンター”のような感じで様々な土地を訪れ、そこで歌い継がれてきた日本の古い伝承曲──今では歌う人もいなくなり、この世から消えかかっている──を発見・採取していく。そして、クイズを出すかわりに、現代の音楽人としてそれらの歌に取り組み、自ら伝承曲の伝え手となる。歌という媒体を通して昔の日本人の生活や風俗の断片が謎解きのように浮かび上がる様が感動的で、途中から番組を見始めた私は、その“ディスカバー・ジャパン”な内容にどんどん引き込まれていった。私はこれまで松田美緒という歌手の存在を知らなかったが、番組を観ながら、音楽人としての彼女の姿勢に強く共感したし、伝承曲に対する彼女自身の解釈も大変に素晴らしいと思った。

 番組名は『ニッポンのうた〜“歌う旅人”松田美緒とたどる日本の記憶』。一週間後の10月9日(日)にBSとCSで再放送がある。もしあなたが日本人で、三度の飯より音楽が好きな人なら、絶対に観る価値のある番組だ。


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クレオール・ニッポン〜うたの記憶を旅する
CD+Book:アルテスパブリッシング、2014年12月15日発売

山子歌(秋田県・鹿角)木びき唄(徳島県・祖谷)木負い節(ヨイヤラ節)(祖谷)花摘み歌(長崎県・伊王島)アンゼラスの歌(伊王島)こびとの歌(伊王島)原釜大漁歌い込み(福島県・相馬)トコハイ節(福岡県・行橋)レモングラス(小笠原諸島父島〜ミクロネシア)移民節(ブラジル)子牛の名前(ブラジル)五木の子守唄[ブラジル版](熊本県・五木)ホレホレ節(ハワイ)祖谷の草刈り節(祖谷)

プロデュース:松田美緒、宮田茂樹
ミュージシャン:松田美緒(vo)、鶴来正基(p)、渡辺亮(per)、沢田穣治(b)、早坂紗知(sax)


 松田美緒がただ者でないことを知った私は、番組が終わるとすぐに情報収集を始めた。調べてみると、彼女はファドに魅せられて音楽の道を志し、これまでポルトガル、カーボベルデ、ブラジルなどを渡り歩きながら、主に大西洋周辺のクレオール音楽に取り組んできた歌手だということが分かった。'05年にビクターから『Atlantica』でレコード・デビューし、現在まで7枚ほどアルバムを発表している。

 CDブックという形式で発売された'04年の最近作『クレオール・ニッポン〜うたの記憶を旅する』は、それまで海外の伝統的な音楽をやってきた彼女が、日本の伝承曲に取り組んだ野心作。〈NNNドキュメント〉で放映された『ニッポンのうた』は、このアルバムの制作ドキュメンタリーのような内容だった。



 『クレオール・ニッポン』で松田美緒は、日本国内だけでなく海外にも足を延ばし、かつて大日本帝国の植民地だったミクロネシアや、多くの日本人が移民として渡ったブラジルやハワイでも日本語の古い歌を発掘している(上の埋め込み動画は、ブラジルで生まれた「移民節」のMV)。数年間のフィールドワークを経て完成された彼女の伝承曲集は、私たちに“そんな歌があったのか”という驚きと同時に、“日本人にそんな歴史があったのか”という驚きをもたらす。ちょっとした民族考古学のようでもあるが、しかし、学究的な堅苦しさは全くない。音楽作品として純粋に優れているからである。

 松田美緒はもともと日本の民謡歌手ではなく、ラテン諸国の様々な伝統音楽を吸収し、ひどく大回りをした後、グローバルな視点で外側から“日本”を発見している。なので、彼女の歌う日本の伝承曲には、ちっとも土着的(ドメスティック)な閉鎖性がない。ファド、サンバ、ボサノヴァ、ラテン、アフリカ音楽など、様々な土地の血が混じり合った歌と演奏はとても間口が広く、日本の古い伝承曲の魅力を私たち現代人に鮮やかに伝える。土着的であると同時に、世界に向かって大きく開かれている。そこが素晴らしい。“伝える”とは、まさにこういうことを言うのではないか。



 YouTubeには『クレオール・ニッポン』の簡易ドキュメンタリー動画がアップされている(約9分)。日本テレビで放映された『ニッポンのうた』は、これの拡大版のような感じである。

 私が見始めたときは既に番組半ばで、ちょうど「トコハイ節」という福岡県行橋市の伝承曲が紹介されているところだった。そこで数十秒流れた松田版「トコハイ節」を耳にして、私は食べていた冷凍チャーハンを危うく口から吹き出すところだった。それは、笠置シヅ子「買い物ブギー」並みに激クールな歌と演奏だった(上のドキュメンタリー動画の最後でちょっと聴ける)。服部良一のリズム歌謡、阿木燿子+宇崎竜童のカタカナ・エンカ、あるいは、ちあきなおみの'80年代以降の諸作などが好きな人なら、『クレオール・ニッポン』は間違いなくツボにハマる作品だと思う。番組を観ながら、私は松田美緒の姿に30代の“幻の山口百恵”を見出したりもした。21歳で引退していなければ、彼女はいずれこういう歌に取り組んでいたかもしれない。ああ、日本のどこかに私を待ってる歌がある……?

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 番組を観た後、私は速攻で『クレオール・ニッポン』を注文した。アルバムはまだ手元に届いていないし、番組自体も後半しか観ていないのだが、素晴らしい作品であることは明らかなので、少しでも多くの音楽ファンに知ってもらうため、すぐに記事を書くことにした。10月9日(日)の番組再放送をお見逃しなく!


松田美緒 「クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する」
開かれた先人たちへの、おおらかさと気骨あふれるオマージュ

(タワレコの情報誌、intoxicate'14年12月号掲載のインタヴュー記事)

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