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Andre Cymone──アメリカの黒人



 十代の頃、家出したプリンスを自分の家の地下室に居候させ、共に切磋琢磨した竹馬の友であり、'81年〈Dirty Mind〉ツアーまでベーシストとしてプリンスのバンドに在籍した後、Columbiaから3枚のソロ作『Livin' In The New Wave』(1982)、『Survivin' In The 80's』(1983)、『A.C.』(1985)を発表してミネアポリス・ファンクの一翼を担い、'80年代後半には、後に奥方となるジョディ・ワトリーの一連のヒット作(「Looking For A New Love」「Real Love」他)を手掛けてプロデューサーとして成功を収めるも、ソロ・アーティストとしては'80年代をサバイブすることなく姿を消し、すっかり“あの人は今”状態となって久しかった'12年9月、バラク・オバマの大統領再選を支持する新曲「America」を突如発表、およそ30年ぶりの4thアルバム『The Stone』(2014)でブラック・ロッカーとして劇的復活を果たしたのみならず、トレイヴォン・マーティン射殺事件を歌った「Trayvon」(2013)、中間選挙を前に人々に政治参加を呼びかけた「Vote」(2014)、ジョン・レノンのカヴァー「Give Peace A Chance」(2015)等、アメリカの現代社会を意識したメッセージ色の強いシングルを精力的に発表し続け、プリンスの死後、ミネアポリスで行われたザ・レヴォリューションの再結成コンサート('16年9月1〜3日)にゲスト参加した際も、老化とメタボ化が進む仲間たちの中でただ一人、プリンス並みの異様な現役感を漂わせていたことが記憶に新しいアンドレ・シモン

 彼の最新EP『Black Man In America('16年9月30日発売)の表題曲「Black Man In America」は、ファレル「Freedom」とケンドリック・ラマー「Alright」に対するイギリスからの返答のようだったマイケル・キワヌーカ「Black Man In A White World」に対する、アメリカからの更なる返答のような作品だ。聴けば分かるが、まるでプリンス(「Baltimore」)とディアンジェロ(「The Charade」)が合体してジミヘンが憑依したような、とんでもない曲である。EPには、ずばり「Black Lives Matter」と題された露骨にボブ・ディラン風のフォーク・ロック曲、レナード・コーエン「Hallelujah」のロック版なども収められているが、この表題曲のテンションがとにかく凄い。プリンスの死で完全にスイッチが入ってしまったのか。これにはDもビラルもヴァン・ハントも(ついでにアンソニー・ハミルトンも!)“参りました”と平伏すはず。必聴、という言葉はなるべく使わないようにしているが、これは赤文字で必聴と書きたい。

 アンドレ・シモン、プリンスと同じ'58年生まれである。信じられない!


AC_BMIA2.jpg

 Black Man In America
 
 No Justice No Peace
 No Justice No Peace
 What do we want? Peace!
 When do we want it? Now!
 
 正義なくして平和なし
 正義なくして平和なし
 何が欲しい? 平和!
 いつ欲しい? いま!
 
 One people world
 two sides of life
 one in hell
 one paradise
 that's waiting for you
 in the promised land
 Brothers gettin' shot
 no hesitation
 a way of life for a generation
 yes its all true
 you don't understand
 Now I lay me down to sleep
 I pray the Lord my soul to keep
 and if I should die before I wake
 I pray the Lord my soul to take
 We been strugglin' 50 years
 sacrifice through blood and tears
 just tryin' to break through
 to this here promised land
 
 世界はひとつ
 人生はふたつ
 地獄か
 天国か
 それが約束の地で
 与えられる場所さ
 問答無用で
 撃たれる兄弟たち
 それが日常茶飯事
 事実だともよ
 あんたに分かるか
 俺は眠りにつきながら
 生かしてくれと主に祈る
 目覚める前に死ぬのなら
 魂を召してくれと祈る
 俺たち50年も闘ってきた
 血と涙の犠牲を払い
 この約束の地へ
 なんとか辿り着こうと
 
 You don't know what its like
 to be a Black Man
 in America
 
 どんなもんか分かるまい
 アメリカで
 黒人であることが
 
 Protect and Serve don't apply
 if you ain't white
 then you're born to die
 you know they used to hang you
 right where you stand
 History Hollywood
 image of the Black Man
 ain't no good
 that's how they $ell you
 it's they masterplan
 I cross the street
 you lock your door
 clutch your purse
 and then pray the Lord
 won't let me see you
 What did I do wrong?
 Try to get a job
 on the application
 when you check "Black"
 for the information
 they don't call you
 Hey Hey
 
 “保護と奉仕”は受けられない
 白人でなけりゃ
 死ぬ運命
 奴らはそこら中で
 人を首吊りにしてたんだ
 ハリウッドの歴史を見ろ
 黒人の描かれ方は
 散々だ
 黒人を売り物にする
 それが奴らの魂胆さ
 俺が通りを渡りゃ
 みんなドアをロックし
 財布をしっかり握って
 祈るのさ
 俺に構われないようにと
 俺が何したってんだ?
 職に就こうと
 申込書の
 “黒人”の欄に
 チェックを入れれば
 連絡は来ない
 やれやれ
 
 You don't know what its like
 to be a Black Man
 in America
 
 どんなもんか分かるまい
 アメリカで
 黒人であることが
 
 No Justice No Peace
 No Justice No Peace
 What do we want? Peace!
 When do we want it? Now!
 
 正義なくして平和なし
 正義なくして平和なし
 何が欲しい? 平和!
 いつ欲しい? いま!


promised land 約束の地:旧約聖書で神がアブラハムの子孫に与えると約束した土地(カナン=現パレスチナ)のことだが、ここで言う“約束の地”は、'68年4月3日、マーティン・ルーサー・キング牧師が死の前日にメンフィスで行った最後の演説「私は山頂から眺めた(I've been to the mountaintop)」── “私はただ神のご意志を実現したい。神は私が山に登るのを許された。頂から眺めると、約束の地が見えた。私は皆さんとそこに行けないかもしれない。だが、今夜、皆さんに知ってほしい。私たちは、ひとつの民として、必ずや約束の地へ辿り着くのだ!(I just want to do God's will. And He's allowed me to go up to the mountain. And I've looked over. And I've seen the promised land. I may not get there with you. But I want you to know tonight, that we, as a people, will get to the promised land!)”──と呼応している。それから50年後、やっと辿り着いた“約束の地”がこれなのか? という、アメリカの変わらぬ現状に対する幻滅感が歌われている。

Protect and Serve 保護と奉仕:'15年3月、丸腰の黒人ホームレス男性を射殺する事件も起こしたロサンゼルス市警のモットー。





 アンドレ・シモンのEP『Black Man In America』が発表される2ヶ月前には、プロデューサーのジャジー・フェイとスヌープ・ドッグによって見出されたインディアナ州サウスベンド出身の新進R&B/ソウル歌手、オクトーバー・ロンドン October London が「Black Man In America」という同名異曲を発表している('16年7月20日発売)。同様にアメリカ社会で黒人として生きることの辛さを歌った曲だが、こちらはよりオーセンティックなソウル感を湛えたブルージーなスロー。ごく普通の黒人市民がやがて囚人となり、最終的に奴隷船で運ばれるイメージへ繋がっていく音楽ヴィデオは強烈だ。

 アメリカで黒人であることがどういうことか、私には分からない。次々と発表されるこうした作品に触れながら、人種差別の根深さにただただ驚き、彼らの現実が本当にこちらの想像を絶するものだと思い知らされるばかりである。


※アンドレ・シモン「Black Man In America」の原詞は、本人がインスタグラムに投稿したテキストを参照した。'16年10月11日現在、この曲はYouTube上に音源、または動画がない。公式な音楽ヴィデオが公開されれば、追って本記事に埋め込みで貼り付けたい(曲はBandcampの他、SoundCloudでも試聴可)。



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