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Ms. Lauryn Hill @ Zepp Tokyo 2016



 イタリアの高級ブランド、エミリオ・プッチのロゴ入りセーター。ランウェイにも登場した'16年秋冬アイテム。プッチのアメリカ公式サイトでは1,080ドル、日本公式サイトでは137,000円で販売されている。13,700円ではなく、137,000円。

 イトーヨーカドーで買った4,000円のセーター(なかなか良い)を着ている私には全く縁のない代物だが、先日、このプッチのセーターをカッコ良く着こなしている女性を見かけた。'16年10月27日(木)、場所はゼップ東京。その女性とは、アメリカのラッパー/歌手、ローリン・ヒルさんである。


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'16年10月27日、ゼップ東京のローリン・ヒルさん(撮影:どこかの素敵な人)

 というわけで、ゼップ東京でローリン・ヒルを観たのだが、これがもう……2時間ひたすらトップ・ギア、ステージ炎上しっぱなし、全曲ハイライト、みたいな、とにかく凄まじいショウだった。あの熱量はいったい何だ!

 '13年に所得税滞納で服役しながらも2つの新曲「Neurotic Society (Compulsory Mix)」「Consumerism」を発表し、'15年にはニーナ・シモンのV.A.トリビュート盤『Nina Revisted... A Tribute To Nina Simone』に、まとまったスタジオ新録音としては『The Miseducation Of Lauryn Hill』以来17年ぶりとなる6曲を提供、同時にコンサート活動も活発化させるなど、着実に完全復活へ向かいつつあるローリン・ヒル、'99年1月、'07年3月、'15年9月に続く4度目、1年ぶりの来日公演。

 彼女は今回、横浜赤レンガ野外特設ステージで開催されたブラック・ミュージックの新たな音楽フェス〈One Live〉にTLCらと出演するために来日し、それに伴って東京/大阪のゼップで1日ずつ単独公演を行った。フェス出演のついでに単独公演というのは、前々回、前回の来日時と同じパターン。昨年9月、別のブラック・ミュージック系フェス〈Soul Camp〉出演時に行われたビルボードライブ東京/大阪での単独公演は、チケット代がカジュアルエリア40,000円(大阪は40,500円)、サービスエリア42,000円という超プレミアム価格で、イトーヨーカドーで買った4,000円のセーターを着ている私には笑って無視するしかないものだったが、今回のゼップ公演は12,000円(2階指定席16,000円)。セーター3着分、これならぎりぎり行ける!というわけで、初の生ローリン・ヒル鑑賞となった。


READY OR NOT, HERE I COME?──もういいかい? まあだだよ!

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冷静に場を繋ぎ続ける前座のDJランペイジ

 '15年8月のディアンジェロ&ザ・ヴァンガード公演以来、14ヶ月ぶりに訪れたゼップ東京(「The Charade」のDシャツ着てる人がいた!)。整理番号400番台だった私は、ステージから5〜6メートルの位置を楽々ゲット。が、18時15分頃に入場してから、結局、ローリン登場まで立ちっぱなしで丸2時間も待つはめになった。まあ、想定内のことではあったが……。

 ローリン・ヒルは遅刻の常習犯として悪名高い。ディアンジェロのゼップ東京公演の43分遅れなどはまだ可愛いもので、彼女の公演はいつも平気で2時間、酷いときには3時間くらい遅れたりする。遅刻の理由には“集中力を高めていた”、“服を選んでいた”、“運転手が道に迷った”などいくつかのパターンがあるが、いずれにせよ、彼女の公演が定刻通りに始まることは300%あり得ない。2日前の大阪公演も1時間押しという情報だったので、私は最初から60〜90分くらい待つつもりで、ポケットにスニッカーズを携帯して臨んだ(場内の熱気でチョコがベトベトに溶けてしまったのは想定外だったが……)

 開演予定時刻の19時が近づくと、ステージに照明用のスモークが大量に焚かれ始めた。えぇっ、まさか時間通りに始まる? ローリン、もう会場入りしてる?! と驚いていると、19時2分頃、デニム・シャツにニット帽を被ったラスタ風情の男が一人で現れ、ステージ右隅のターンテーブルに向かった。'10年からずっとローリンのバンドに参加しているDJランペイジだ。客電が落ちると、大音量で彼のDJプレイが始まった。

 KRSワンに始まり、USヒップホップ〜ダンスホール・レゲエ〜アフリカン・ヒップホップ〜レゲエという大まかな流れで、彼は次々と色んな曲を回していった。ローリンの音楽性や嗜好ともばっちり合ったナイス・プレイだったと思う。分かる範囲でざっと曲目を書き出しておく。

DJ Rampage: Opening DJ at Zepp Tokyo
KRS One - Step Into A World (Rapture's Delight)
Eric B & Rakim - Microphone Fiend
Biz Markie - Nobody Beats The Biz
A Tribe Called Quest - Electric Relaxation
LL Cool J - Around The Way Girl
Jay-Z feat. Foxy Brown - Ain't No Nigga
Jay-Z - I Just Wanna Love U (Give It 2 Me)
Notorious B.I.G. - Hypnotize
Snoop Dogg feat. Pharrell Williams - Drop It Like It's Hot
Dr. Dre feat. Snoop Dogg - Still D.R.E.
Snoop Dogg - Gin And Juice
Dr. Dre feat. Snoop Dogg, Kurupt, Nate Dogg - The Next Episode
Nas feat. Lauryn Hill - If I Ruled The World (Imagine That)
Junior Reid - One Blood
Stephen Marley feat. Damian Marley - The Traffic Jam
Tory Lanez - Luv
Drake feat. Kyla & Wizkid - One Dance
Charly Black - Gyal You A Party Animal
※近年のダンスホール・レゲエが3曲続く
Fat Joe, Remy Ma feat. French Montana, Infared - All The Way Up
Kendrick Lamar - The Blacker The Berry
Drake - Back To Back
※近年のアフリカン・ヒップホップ(Yemi Alade「Johnny」含む)が10曲くらい続く
Damian Marley - Welcome To Jamrock
Collie Buddz - Come Around
Bob Marley & The Wailers - Exodus
Chronixx - Out Deh
Damian Marley - Nail Pon Cross

 中盤〜後半にかけてかかったダンスホールものとアフリカン・ヒップホップは、恐らく有名なヒット曲ばかりだと思うが、モグリの私にはほとんど分からず。序盤のUSヒップホップ・コーナーはローリン・ヒル世代のツボを突きまくる内容で、特にスヌープ・ドッグ〜ドクター・ドレーの流れや、ローリン客演のナズ「If I Ruled The World」あたりは会場もかなり盛り上がった。

 “Are you ready for Ms. Lauryn Hill?!”、“You people up there, get off of your seat!!”などとマイクで叫びながら観客を煽るDJランペイジ。30分くらい経ったあたりで、“これからステージにバンドを呼ぶぞ! それからMs. ローリン・ヒルの登場だ!”と叫んだが、結局、観客はそこから更に40分近く待たされることになった。最初の30分くらいは矢継ぎ早に曲を繋ぎ、コスりなども入れながらまともにプレイしていたランペイジだったが、そのうち、曲をかけたままバックステージに下がり、終わりそうになると戻ってきて次の曲に繋ぐ、ということを繰り返すようになった。ローリンがあとどのくらいで出てこられそうか、確認しに行っていたのだろう。彼はステージとバックステージを無表情で行き来し、彼女の準備ができるまで、曲──と言うよりは、場──を延々と繋ぎ続けた。さすがローリンのお抱えDJ。そのせいで、7分以上あるボブ・マーリー「Exodus」を大音量でたっぷり聴けたのが個人的には嬉しかった。

 DJ開始から丸1時間が経過した20時6分頃、ダミアン・マーリーの最新曲「Nail Pon Cross」が流され、同時にバンド・メンバーたちがぞろぞろとステージに現れた。ランペイジのDJは前座としてもともと予定されていたものだろうから、開演予定時刻を1時間ちょっと過ぎたとはいえ、実際には、長く見ても30分押し程度で済んだということになる。ローリン、優秀! ランペイジがマイクで観客を煽り、20時09分、「Nail Pon Cross」がフェイドアウトすると、ドラムの力強いタムタム・ビートと共に遂にショウが始まった。


WHILE YOU'RE IMITATING AL CAPONE, I'LL BE NINA SIMONE
──ヒップホップ時代のニーナ・シモン


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総勢12人のローリン・ヒルのステージ(撮影:どこかの偉い人。私も写ってる!)

 まず演奏されたのは、シャッフル・ビートのインスト・ジャム曲。テーマ・メロディも何もなく、トランペットがいきなり血管がブチ切れそうな高音ソロをカマし、続いてサックスが「My Favorite Things」('12〜14年にかけてローリンがツアーで披露していた新曲「Black Rage」は、これの替え歌だった)のメロディを挿入しながらコルトレーン風のヘヴィーなソロをブリブリ吹きまくる。前略、いきなりレッド・ゾーン。普通、イントロとか前戯とかあるだろ! そこから唐突にギアチェンジし、今度はフェラ・クティっぽいアップテンポのアフロビート曲が始まった(もしかすると実際にフェラの曲だったかも)。ホーン隊が勇ましいテーマ・メロディを吹き、オルガンの熱いソロが続いた後、アフロ・フューチャリスティックなキーボードのリフで曲が別次元に突入すると、ステージ左袖からエミリオ・プッチの鮮やかな水色セーターを着たローリン・ヒルが登場した。

 宇宙世紀アフリカ、みたいな衣装で来るかと思いきや、意外にも超カジュアル。セーターの首からブラウスの白い襟を覗かせ、ボトムスは白黒チェック柄のワイドパンツ、その上にデニム生地を継ぎ接ぎしたような謎の腰巻き。紺のベレー帽を斜めに被り、(すぐに外したが)ピンクのサングラスをかけて観客の前に現れた。ハローキティのポシェットでも持たせたくなる可愛らしい恰好だが、ネックレスなども含めると、多分、余裕で100万円超えの衣装である。おっかない。小柄であることは分かっていたが、生ローリンのあまりの小っちゃさにも驚いた。実寸は恐らくプリンスと同じくらい。まるで貫禄を増したジャネール・モネイみたいだ。

 “トーキョー! どうよ?(What's happening?)”と軽く挨拶した後、彼女が歌い始めたのは、『The Miseducation』からの3rdシングルだった「Everything Is Everything」。が、アップテンポの攻撃的なアレンジで、曲調はがらりと変わっている。カリンバみたいな音色の単調なキーボード・リフを軸にしたトリッピーな高速アフロ・ファンク・サウンド。ドラム、ベース、ギター、オルガン、キーボード、テナー・サックス、トランペット、ターンテーブル、女性バック・ヴォーカル×3という11人編成の白黒混合バンドが、大音量の分厚いアンサンブルで暴走機関車のようなカオティックなグルーヴを生み出す。プッチのセーターを着たローリンが、ドスの利いたハスキーな声でそこにハイテンションな歌&ラップを乗せ、鬼のような形相でバンドをガンガン引っ張っていく。衣装と音が全然合ってねー!

 6分超えの激烈なオープニング・ナンバーから、間髪入れずにスローテンポのブルースに突入。「It's A Man's Man's Man's World」にそっくりな6/8拍子の伴奏で歌い出されたのは、同じく『The Miseducation』収録の「When It Hurts So Bad」。これまた原曲と全然違うアレンジ。途中からジェイムズ・ジェマーソン風の躍動的なベースが引っ張るアップテンポの演奏にギアチェンジし、どんどん熱気を増していく。渾身の力で感情を絞り出すようなローリンのヴォーカルは、まさに“ソウル!”としか言いようがないもの。とにかく、何もかもが異様なまでに熱い。

 ステージから受けるカオティックな印象は、スタッフに執拗に指示を出すローリンの所作によって更に強まった。彼女は歌いながら、ステージ右袖でモニター卓を操作しているPAスタッフに向かって、“自分の音をもっと上げろ”という指示を、上を指差すジェスチャーでひっきりなしに出していた。コンサート序盤で同様の指示を出すアーティストは珍しくないが、普通は1〜2回で済む。ところがローリンの場合、信じられないことに、2時間のコンサート中、最初から最後まで延々とこの指示を出し続けていた。そのため、彼女はマイクスタンドを掴みながら、常にステージ右袖のPAスタッフの方を向いて半身の姿勢で歌っている。観客に向かって歌っているのか、スタッフに向かって歌っているのか分からない。音だけ聴いている分には問題ないが、実際にステージを眺めながら聴いていると、まるで公開リハーサルを見せられているような気がしてくる。正直、これには辟易した。多分、会場でのリハはバンドのみで、ローリンは本番まで現れないのだろう。目の前に観客がいるのに、ローリンが傍若無人にスタッフに指示を出し続けるので、ステージは常にバタバタとして落ち着きがない。ガミガミと忙しなく注文をつけ続ける小柄なローリンが、私には泉ピン子に見えて仕方なかった。

 8分に及ぶ「When It Hurts So Bad」の熱演が終わると、ローリンがアコースティック・ギターを持ってイスに腰掛け、アンプラグド・コーナーへ移行。準備をしている最中、“I love you!”という女性客の声援にニコッと指差しジェスチャーで応えるローリン。スタッフやバンドには厳しいが、観客には愛想がいいようだ。機嫌が読めないあたりもちょっとピン子っぽい(ローリン信奉者に殴られるかもしれないが、マジで“丘ピン子”というあだ名をつけたいと思った)

 アンプラグド風コーナー(アコギを弾きながら歌うローリン+フルバンド)では、依然として彼女の最新アルバムである『MTV Unplugged No. 2.0』(2002)から3曲を披露。ローリンによるアコギのアルペジオで穏やかに始まり、ファンキーなホーンやゴスペル・コーラスを伴って最終的に熱血ソウルと化す「I Gotta Find Peace Of Mind」、絨毯爆撃のような演奏に乗ってローリンのラップが炸裂する「War In The Mind(別名:Freedom Time)」、そして、カニエ・ウェスト「All Falls Down」からフックを奪還する圧巻のフルバンド版「Mystery Of Iniquity」。いずれも凄まじい。『MTV Unplugged』でアコギ一本で披露されていたこれらの曲は、フォーキー・ソウルにファンクとロックのダイナミズムを加えたド迫力サウンドで見事に完成されていた。RCA時代のニーナ・シモン('67〜74年)がラップを覚えて攻撃的になったようにも聞こえる。ひとつ面白かったのは、「Mystery Of Iniquity」のエンディング。一度演奏が収束した後、少し間を置いて、この曲にはトラップ風のエレクトロニックなコーダ部分が付け足された。完成版のスタジオ録音がない『MTV Unplugged』楽曲が、今なお進化中であることを窺わせる場面だった。

 続いて、再び『The Miseducation』から3曲。ジミヘン「Little Wing」へのオマージュを含み、ジャネール・モネイ「Neon Valley Street」への影響も莫大なミディアム・スローの人気バラード「Ex-Factor」は、昨年のツアーとは別アレンジ。コードやピアノの美しい響きは原曲通りだが、今回は3-3-2の変則的な8拍子で演奏された。終盤のギター・ソロ部分でのドラムの爆裂ぶり、ドラマチックなストリングスをバックに展開されるローリンとバック・ヴォーカル隊の掛け合いが凄い。オリジナル版を遙かに凌ぐ巨大スケールの演奏にただただ圧倒される。この辺りからPAスタッフへの指示出しも少なくなり、ようやくローリンの意識が本格的に観客の方へ向かうようになった。歯車が合ってくると、パフォーマンスの爆発力はとにかく尋常でない。

 余韻に浸る間もなく、エレピのファンキーな高速リフで始まった「Final Hour」は、冒頭の「Everything Is Everything」と同じく、原曲の面影を全くとどめないアフロビート版での演奏。闘争的なホーン・リフに乗ってイントロでローリンがバック・ヴォーカル隊の女性3人と揃って踊ると、場内はドッと沸いた。高速ビートに乗ったローリンの機関銃のようなラップは圧巻のひとことに尽きる。何というスキル。スゴすぎる! 彼女の仁義なき高速ラップを浴びながら、ステージにいるのは泉ピン子ではなく、紛れもなくローリン・ヒルなのだと確信した。

 マシンガン・ラップで観客を皆殺しにした後、間髪入れずに始まったのは「Lost Ones」!!!! 生で一番喰らいたかった必殺曲が、一番ヤバいところで来た。鬼ファンキーなビートに乗ってローリンがアジテーションのようなライムを繰り出した瞬間、私は半狂乱になった。くそヤバい。とにかく、くそヤバいとしか言いようがない。オリジナル版のファンク度を人力で数倍上げた殺人的パフォーマンスがしばらく続いた後、突然、ギターの高速カッティングで演奏が断ち切られ、「Lost Ones」はそこから怒濤のアフロビート・モードに突入した。ローリンが観客にソウルクラップを促し、彼女の“1, 2, 3, 4!”のカウントで始まったのは、フェラ・クティ「Zombie」。そこに「Lost Ones」のヴォーカルを乗っけるという、昨年のツアーでもやっていたマッシュアップ・アレンジである。これが激アツ。ディアンジェロがやっていた「Brown Sugar」+フレッド・ウェズリー「Four Play」のマッシュアップも最高だったが、ヒップホップとアフロビートを掛け合わせたローリンのこのパフォーマンスの熱量には敵わないかもしれない。これを聴いて、彼女はやはり女王だと思い知らされた。全曲ハイライトと言うべき本当に凄まじいショウだったが、どれかひとつだけベスト・パフォーマンスを選べと言われたら、この「Lost Ones」しかない。これは本当にヤバかった。

 披露された全21曲中、8曲目「Lost Ones」までが61分で、ショウの前半に当たる。この8曲の密度はとにかく尋常でなかった。これだけでライヴ盤を作ってほしいくらい。このあと更に13曲、誰もが知る有名曲が連打され、ショウは怒濤の盛り上がりを見せることになる。

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フージーズ・ナンバーで会場は大盛り上がり(撮影:どこかのドープな人)

 後半戦は、フージーズ「How Many Mics」「Fu-Gee-La」「Ready Or Not」「Killing Me Softly With His Song」の4連発でスタート。これらは生バンド用アレンジで熱を増しつつも、比較的オリジナル版に忠実に演奏され、観客の期待にしっかり応えるようなパフォーマンスになっていた。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンばりの爆裂サウンドにローリンのブチ切れたマシンガン・ラップが乗る「How Many Mics」──実際にマシンガンの効果音で締め括られた──が特に強烈。イントロで“Tokio”のフレーズをローリンが節つきで繰り返した「Fu-Gee-La」では、始まった瞬間、私のいた1階フロア前方はモッシュが起きるくらい爆発的に盛り上がった。「Fu-Gee-La」以降の3曲で、DJランペイジがハンドマイクで観客を煽りながらステージを歩き回り、フージーズ感を出していたのも良かった。旧曲を新アレンジで更新する一方、こうしてこちらの聴きたいものを確実にやってくれるのが嬉しい。

 フージーズ・コーナーの後はカヴァー大会。1小節のドラムのイントロに続き、“パララ〜”というほんわかとしたテナー・サックスのメロディが流れた瞬間、私は思わず仰け反った。シャーデー「Your Love Is King」! フージーズのレパートリーでもあるデルフォニックス「Ready Or Not Here I Come」、ロバータ・フラック「Killing Me Softly With His Song」を除くと、これがこの晩、ローリンが初めて歌った他人の曲だった。サックスのイントロ、そして、ローリンの歌い出しで、会場の1/3くらいの観客から“ぬお〜!”という驚き混じりの歓声が上がった。そして、続けざまに今度は「The Sweetest Taboo」! バンザーイ! ローリンのシャーデー・カヴァーは、いずれも原曲に忠実なアレンジ。メロディを歌い崩さない丁寧な歌唱からも、シャーデーに対する愛着がよく伝わってくる。昨年のツアーで彼女は、やはり原曲に忠実なアレンジで「Love Is Stronger Than Pride」をカヴァーしていたが、'15年9月の来日公演ではカットされていた。なので、今回、シャーデーを歌ってくれたのは本当に嬉しかった。もしかして、ローリンは私が会場にいることを知っていたのだろうか(んなわけない)。ローリン、ありがとうー!

 シャーデー2連発の次は、ボブ・マーリー3連発。「Jamming」「Is This Love」、そして「Could You Be Loved」! イエーイ!!! これまた原曲に忠実なアレンジだが、ローリン流の歌唱で自然とソウル度が上がっているのが良い。自分のオリジナル曲はアレンジをガンガン変えるローリンだが、他人の作品のカヴァーに関しては驚くほどストレートだったりする。彼女にとってカヴァーという行為は、何よりそのアーティストに対する憧れやリスペクトの表明なのだろう。また、どうでもいい話だが、拙ブログで過去に取り上げたことのあるボブ・マーリー楽曲4曲のうちの3曲が、偶然にもこれだった。どれも大好きな曲だ。最後の「Could You Be Loved」では、ステージを見るのも忘れて踊り狂った。シャーデー〜ボブ・マーリーと続いたカヴァー大会は、私にとって本当に至福のひとときだった(ちなみに、「Jamming」が終わった後、ローリンが口頭で出した指示をギタリストが聞き取れず、“えっ、なんすか?”と慌て気味に聞き返す場面があった。数秒、変な間が空いた後に始まったのが「Is This Love」。もしかすると、その場でセットリストが変更されたのかもしれない)

 ローリンのカヴァー大会はまだ続くのだが、ここで『The Miseducation』から1曲、彼女のオリジナル作品「To Zion」が登場。約束の地“ザイオン”(ラスタにとってはエチオピアを指す)と同時に、ボブ・マーリーの息子、ローハン・マーリーとローリンの間に最初に生まれた子供、ザイオン・デヴィッド('97年生まれ。ローリンとローハンの間には計5人の子供がいる)のことを歌ったこの曲は、ボブ・マーリー作品のカヴァーからごく自然に繋がるものだった。スパニッシュ風味のオリジナル版とは異なる、しっとりとした6/8拍子のスロー・バラードにアレンジされ、「To Zion」は、母なる海や大地を思わせる荘厳でスピリチュアルな歌に生まれ変わっていた。すごいスケール感だ。母親としての人生経験がこの歌に更なる包容力や深みを与えたのだろうか。ローリン・ヒルという女性の十数年間の成長をはっきりと示す感動的なパフォーマンスだった。

 シャーデー、ボブ・マーリーに続いてローリンのカヴァー大会を締め括ったのは、もちろんニーナ・シモン作品。彼女の最新スタジオ録音作でもある『Nina Revisted...』から、まずは「Black Is The Color Of My True Love's Hair」。これが凄い。『Nina Revisted...』ではシンセ主体のエレクトロニックなサウンドだったが、ライヴではアコースティック・ピアノを前面に出し、ホーンで厚みを加えながらスパイス的にシンセ音を加えるという、より立体的なアレンジが施されていた。更に、終盤のリフレインをバック・ヴォーカル隊に任せることでローリンの自由度が増し、歌がよりエモーショナルになった。スタジオ版から格段に進化している。観客を全員黙らせた7分間の圧巻のパフォーマンス。私は途中で涙が出そうになった。ニーナのレパートリーとして有名なこの民謡の題名は、コモンの最新作『Black America Again』収録の「A Bigger Picture Called Free」でも引用されている(“黒はわが愛しき人の魂の色(Black is the color of my true love's spirit)”)。また、コモンの新譜と同日('16年11月4日)に発表されたアリシア・キーズの新譜『Here』で、真っ先に登場するのがニーナ・シモンの名前でもある(“私はセントラル・パークのニーナ・シモン、暗闇のハーレム(I'm Nina Simone in the park and Harlem in the dark)”)。ニーナ・シモンは、ブラック・パワー運動の現代版であるブラック・ライヴズ・マター運動の最大の音楽的アイコンと言っていい。

 そして、とどめは「Feeling Good」。アカペラ歌唱で始まったこの曲は、『Nina Revisted...』と同じく、'65年のニーナ・シモン版に忠実なアレンジで披露された。'60年代の録音を再現した彼女のカヴァーは、ここ10年くらい氾濫している懐古的で趣味的なヴィンテージ・ソウル作品と似ているようで全く異なる。自由を賭けたニーナ・シモンの音楽、彼女の精神、闘争を、敢えてオリジナルのサウンドを踏襲することで、恐らく、ローリンは本気でそのまま背負い込もうとしている。ニーナ・シモンの完コピなど、よほどの度胸と覚悟がなければできないことだ。ローリンがいまニーナ・シモンを歌う理由、そして、ブラック・ライヴズ・マターに対する彼女の思いは、この1曲に集約されていると言っても過言ではないと思う。この日、彼女が歌った渾身の「Feeling Good」は、それらをすべて背負いきる壮絶なものだった。ニーナの魂が乗り移っているとしか思えない。“あんたがアル・カポネを気取ってる間に、あたしはニーナ・シモンになってやる”という20年前の宣言(「Ready Or Not」)を証明する圧巻のフィナーレだった。

 「Feeling Good」の絶唱が終わると、それまで曲間で全く喋らなかったローリンが観客に向かって改まって謝辞を述べた。一息ついた後、アカペラによるファルセットのスキャットを導入に始まった最終曲は、誰もが待っていたアンセム「Doo Wop (That Thing)」。『The Miseducation』からの曲はすべて大幅にアレンジを変えた新ヴァージョンだったが、これだけはオリジナル通りに披露され、会場中を熱狂の渦に叩き込んだ。これはローリンから観客への感謝を込めたプレゼントだったのだろう。ローリンのショウは最高のパーティーで締め括られた。

 ローリンが去ってから数十秒後、ステージに残されたバンドが演奏を終えると、あっという間に客電が点いた。アンコールはなかったが、最後の「Doo Wop (That Thing)」がそれに相当するものだったので、この点に不満を持った観客はいなかっただろう。終演は22時8分。119分、全21曲。入場してから終演まで4時間ずっと立ちっぱなしだったが、私は少しも疲れを感じなかった。全くダレ場のない、とんでもなく濃密でハイエナジーなコンサートだった。

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とにかくヤバかったローリン・ヒルのゼップ東京公演(撮影:どこかのアツい人)

 2時間のショウは、新アレンジの『The Miseducation』楽曲を全編に散りばめながら、『MTV Unplugged』の部→フージーズの部→カヴァー大会(シャーデー、ボブ・マーリー、ニーナ・シモン)という流れで進行した。私が最も感銘を受けたのは、現在の彼女の方向性が明快に示された61分にわたる前半8曲。中でも印象的だったのは、「Everything Is Everything」「Final Hour」「Lost Ones」で見られたアフロビートへの接近である。もともと持っていたレゲエ志向にアフロビートが加わることで、彼女の表現はアフリカ回帰主義的な傾向を一層強めていた。アフロビートからの影響は、いつ出るか知れない彼女の2ndアルバムにもはっきり表れることだろう(もし完成すれば、ローリンと似た音楽的バックグラウンドを持つナイジェリアの女性歌手、ネカに近い音楽性になるかもしれない)。レゲエやアフリカ音楽は、後年のニーナ・シモンが積極的に取り組んでいたものでもある。実際にニーナのレパートリーも交え、自分の土台であるヒップホップを軸に、ソウル、ジャズ、フォーク、ロック、レゲエ、アフロビートを自然と結びつけたパフォーマンスは、まさに“現代版ニーナ・シモン”という感じだった。

 歌と演奏が素晴らしかっただけに、ローリンがリハーサルのように終始スタッフに指示を出し続けていたのが残念だ。あのこだわり方は、はっきり言って異常だと思う。完璧主義者と言うより、彼女は恐らく、自分の周りのことを何でも思い通りにしないと安心できないコントロール・フリークなのだろう。同じ俺様主義でも、ジェイムズ・ブラウンやプリンスのような秩序立った統率力、冷静なショウマンシップは、彼女からは感じられなかった。まるで何かに取り憑かれたように、細かいことにこだわり続ける。明らかに普通じゃない。ニーナ・シモンも同じように気難しい人で、ステージで言動がおかしかったり、傍若無人に振る舞うことがよくあった。ニーナは後年になって躁鬱病と診断されたが、実際にステージを見ながら、私はローリンからも似たような精神的な不安定さを感じた。そうした危うさが、彼女のショウに常軌を逸したテンションをもたらしていたこともまた事実だろう。終演後、ディアンジェロのゼップ東京公演や、マックスウェルのスタジオ・コースト公演を観た後のような充足感や爽快感はなかった。得体の知れない異様な熱に触れ、正直言って、私は当惑していた。ショウと言うよりは、何か事故や事件を目撃してしまった感覚に近い。

 何にせよ、ローリン・ヒルが今なお並外れた歌手/アーティストであることをまざまざと見せつける公演だったことは間違いない。ブラック・ライヴズ・マター運動が広く浸透し、アメリカの黒人音楽界で歴史的な傑作が次々と生まれている今、ローリン・ヒルが復活する土壌は完璧に整っている。ここで示されたポテンシャルが2ndアルバムという形で無事に実を結び、“完全復活”と断言できる日が一日も早く訪れることを願うばかりである。


01. instrumental intro - Everything Is Everything
02. When It Hurts So Bad
03. I Gotta Find Peace Of Mind
04. War In The Mind (Freedom Time)
05. Mystery Of Iniquity
06. Ex-Factor
07. Final Hour
08. Lost Ones + Zombie [Fela Kuti mashup]
09. How Many Mics
10. Fu-Gee-La
11. Ready Or Not
12. Killing Me Softly With His Song
13. Your Love Is King [Sade cover]
14. The Sweetest Taboo [Sade cover]
15. Jamming [Bob Marley & The Wailers cover]
16. Is This Love [Bob Marley & The Wailers cover]
17. Could You Be Loved [Bob Marley & The Wailers cover]
18. To Zion
19. Black Is The Color Of My True Love's Hair [Nina Simone cover]
20. Feeling Good [Nina Simone cover]
21. Doo Wop (That Thing)

Live at Zepp Tokyo, Tokyo, October 27, 2016
Personnel: Ms. Lauryn Hill (vocals, acoustic guitar), DJ Rampage (DJ, MC), and others (drums, bass, guitar, organ, keyboards, tenor sax, trumpet, backing vocals)

Ms. Lauryn Hill: Japan Tour 2016
October 25 - Zepp Namba, Osaka
October 27 - Zepp Tokyo, Tokyo
October 29 - One Live, Yokohama Red Brick Warehouse, Kanagawa


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MS. LAURYN HILL: LIVE AT AUSTIN CITY LIMITS
Recorded: Moody Theater, Austin, 7 November 2015
Broadcast: 6 August 2016 (US)
Performance: Ex-Factor / Final Hour / Lost Ones / How Many Mics / Fu-Gee-La / Ready Or Not / Killing Me Softly With His Song / Feeling Good / Doo Wop (That Thing)

 おまけ。アメリカのライヴ・コンサート番組〈Austin City Limits〉で'15年11月に収録されたローリン・ヒルのライヴ映像。会場で演奏された31曲中、9曲がテレビ放映された。54分の番組フル映像が一般人によってYouTubeにHD画質で投稿されているので、削除されないうちに保存しておくことをお勧めする。〈Austin City Limits〉の公式YouTubeチャンネルでは、「Ready Or Not」「Doo Wop (That Thing)」に加え、テレビ未放映曲「Mystery Of Iniquity」「Jamming / Master Blaster」の映像も公開されている。今回の来日公演は、これを更にパワーアップさせたような内容だった。





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