2017 06123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 08

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Nina Simone meets Prince──時代の流れ



 Hurry before it's 2 Late
 Let's fall in love, get married, have a baby
 We'll call him Nate (if it's a boy)
 We'll call it Nina (if it's a girl)
 But if it's just healthy, we'll call it anyway

 手遅れになる前に早いとこ
 恋をして 結婚して 子供を作ろう
 名前はネイト(男の子だったら)
 名前はニーナ(女の子だったら)
 でも健康でさえあれば 何だっていいわ

 
 ──ニーナ・シモン「Sign "O" The Times」




Sign "O" The Times
(Prince)

Oh Yeah ● In France A Skinny Man Died Of A Big Disease With A Little Name ● By Chance His Girlfriend Came Across A Needle And Soon She Did The Same ● At Home There Are Seventeen-Year-Old Boys ● And Their Idea Of Fun Is Being In A Gang Called The Disciples ● High On Crack And Totin' A Machine Gun. Time, Time ● Hurricane Annie Ripped The Ceiling Off A Church ● And Killed Everyone Inside ● U Turn On The Telly And Every Other Story Is Tellin' U Somebody Died ● Sister Killed Her Baby Cuz She Couldn't Afford 2 Feed It And ● We're Sending People 2 The Moon ● In September My Cousin Tried Reefer 4 The Very First Time ● Now He's Doing Horse, It's June. Times, Times ● It's Silly, No? When A Rocket Ship Explodes And Everybody Still Wants 2 Fly ● Some Say A Man Ain't Happy Unless A Man Truly Dies ● Oh Why. Time, Time ● Baby Make A Speech, Star Wars Fly, Neighbors Just Shine It On ● But If A Night Falls And A Bomb Falls ● Will Anybody See The Dawn. Time, Time ● It's Silly, When A Rocket Blows And Everybody Still Wants 2 Fly ● Some Say A Man Ain't Happy Truly 'Til Man Truly Dies ● Oh Why, Oh Why, Sign "O" The Times ● Time, Time ● Sign "O" The Times Mess With Your Mind, Hurry Before It's 2 Late ● Let's Fall In Love, Get Married, Have A Baby ● We'll Call Him Nate (If It's A Boy) ● Time, Time ● Time, Time

Oh Yeah ●フランスで痩せこけた男が小さな名前の大きな病気で死んだ●たまたま注射をやったその彼女もじきに同じ道を辿った●こっちには17歳の少年たち●彼らの興味はディサイプルズというギャングに入り●クラックをキメてマシンガンを持つこと。時代、時代●ハリケーン・アニーが教会の天井を吹っ飛ばし●中にいた人たちを全員殺した●テレビをつければ人が死んだという話ばかり●赤ん坊を養えずに殺す母親がいる一方●人類は人を月へと送り●9月に初めてハッパを試したいとこは●6月の今、ヘロをやってる。時代、時代●おかしいよね? 宇宙ロケットが爆発しても人はまだ飛びたがる●人は死なない限り幸せになれないという●なんなのさ。時代、時代●誰かの演説、スターウォーズの話、みんな本気にしない●でも夜が来て爆弾が落ちたら●夜明けを迎えられるかな。時代、時代●おかしいよ、ロケットが爆発しても人はまだ飛びたがる●人は死ぬまで真に幸せになれないという●なんなのさ、なんなのさ、時代の流れ●時代、時代●時代の流れに呑み込まれる、手遅れになる前に早いとこ●恋をして、結婚して、子供を作ろう●名前はネイト(男の子だったら)●時代、時代●時代、時代


A Big Disease With A Little Name 小さな名前の大きな病気:'80年代から世界的に広まり始めたAIDSのこと。AIDSを引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、性液や血液を介して感染する。コンドームを使わない性交、注射針を共有する麻薬の回し打ちなどで急速に感染者が広まった。

Hurricane Annie Ripped The Ceiling Off A Church ● And Killed Everyone Inside ハリケーン・アニーが教会の天井を吹っ飛ばし●中にいた人たちを全員殺した:この曲が書かれた'80年代に“アニー”という名の大型ハリケーンがあったという記録は見当たらない。“ハリケーン・アニー”は、反社会的な危険分子(犯罪者、人種差別主義者、テロリストなど)、あるいは、“悪魔(Satan)”を示すメタファーと捉えることもできる。名前の由来は、似たような人物を描いた『Controversy』(1981)収録の「Annie Christian」(“Anti-Christ”のもじり)か?
 ちなみに、私はこの一節を訳しながら、プリンスがなぜ“屋根(roof)”ではなく“天井(ceiling)”と書いたのか気になった。ハリケーンが剥ぎ取るなら、“屋根”と書く方が自然ではないのか。しかし、“roof”に変えて歌ってみて、ここは“ceiling”でなければならないと気付いた。彼がそう書いたのは、直後の“killed(殺した)”と韻を踏むために違いない。

When A Rocket Ship Explodes And Everybody Still Wants 2 Fly 宇宙ロケットが爆発しても、人はまだ飛びたがる:'86年1月28日、発射直後に爆発したアメリカのスペース・シャトル、チャレンジャー号のこと。乗組員7人が死亡した。

Baby Make A Speech, Star Wars Fly, Neighbors Just Shine It On 誰かの演説、スターウォーズの話、みんな本気にしない:“Baby”は、当時のアメリカ大統領、ロナルド・レーガン。“Star Wars”は、彼が推進した戦略防衛構想=スターウォーズ計画のこと。“shine it on”は、“無視する、相手にしない、取り合わない”という意味の慣用句。人工衛星をたくさん打ち上げ、宇宙空間からレーザー兵器でソ連のミサイルを撃ち落とすというスターウォーズ計画は、当時、アメリカ国内でも荒唐無稽だと揶揄された。

Oh Why なんなのさ(どうなのさ):結びのこの2語の訳が難しい。こんな世の中は“解せない、納得できない”。“What's going on?”に近い驚きと疑問の表現である。“どぉなっちゃってんだよ”と訳そうかと思ったが、字数が多すぎる。“どないやねん”が最高にしっくりくるのだが(“なんでやねん”より“どないやねん”が良い)、ここだけ大阪弁はおかしいので断念した。



 プリンスの問答無用の名曲「Sign "O" The Times」(1987)。表題の“sign of the times”は、直訳すると“時代のしるし、時代の反映、時勢(時世)の表れ”という意味である。よそ者の排斥を訴え、差別的な発言を繰り返す人間がアメリカの大統領に選ばれる。それもひとつの“sign of the times”だと言える。このフレーズの“of”に、プリンスはピース・マークを当てた。平和こそ時代のしるしにしなければいけないというメッセージである。現代社会に対する彼のこの憂慮は、2年後の「The Future」(1989)へ繋がることになる。

Nina_Sign2.jpg
ソウルの女大司祭(High priestess of soul)、ニーナ・シモン

 晩年のニーナ・シモンが「Sign "O" The Times」をカヴァーしている。録音されたのは、彼女の遺作となったアルバム『A Single Woman』(1993)のセッション。ストリングス・オーケストラを伴ったジャズ・ファンク編曲で、プリンスのミニマル・ファンクを見事に解釈している(結果的に'00年代のプリンス版に近い仕上がり)。ラップに近い念仏のような歌メロを、シュプレヒシュティンメのスタイルで咀嚼したニーナの歌唱もさすがだ。“何でも来い!”的な懐の深さがすごい。やはり音楽的な読解力や包容力が違う。

 ニーナは編曲や歌い方を変えただけでなく、この歌に独自の歌詞を付け足している。“手遅れになる前に早いとこ、恋をして、結婚して、子供を作ろう。名前はネイト(男の子だったら)”という歌詞の後、まず、ユーモラスにこう続ける。

  We'll call it Nina (if it's a girl)
  But if it's just healthy, we'll call it anyway
  
  名前はニーナ(女の子だったら)
  でも健康でさえあれば 何だっていいわ
 
 サックス・ソロを挟んだ後に続く彼女の言葉は、歌詞と言うより、ほとんどアジテーションである。激しい口調で彼女はこう言う。

  And you there sitting on the goddamn fence, stop selling your dope!
  Stop sniffing cocaine and buying crack
  Stop using a needle, and for God's sake, stop killing each other
  This stuff is giving me nightmares!
  Let no man write your epitaph
  Don't let this be the sign of the time
  
  柵に座ってるそこのあんたたち、クスリを売るのをやめなさい!
  コカインを吸ったり、クラックを買うのをやめなさい
  注射針を使っちゃダメ 頼むから殺し合いはやめてちょうだい
  頭がおかしくなりそうだわ!
  誰にも自分の墓を立てさせるな
  こんな時代の流れにしちゃダメよ
 
 まるで近所のおっかないオバちゃんに怒られてるみたいだ。この迫力。さすがニーナ・シモンと言うしかない。

 ニーナの「Sign "O" The Times」は、当時、どういうわけか、お蔵入りした。この録音が初めて世に出たのは'08年、Rhino/Elektraから『A Single Woman』がボーナス・トラック付きで再発されたときだった。そこに収録された未発表アウトテイク7曲のうちのひとつに、この「Sign "O" The Times」がしれっと含まれていたのである。当時、レコード屋で17曲目に“Sign 'O' The Times”という曲名を見つけ、半信半疑でCDを購入した私は、家で実際にトラックを聴いて心底ぶったまげた。

 アルバムのアウトテイクには、ボブ・マーリー「No Woman, No Cry」、ビートルズ「The Long And Winding Road」、ボブ・ディラン「The Times They Are A-Changin'」のカヴァーも含まれており、いずれも素晴らしいのだが、とにかくこの「Sign "O" The Times」が、完成度の面でもインパクトの面でも突出している。彼女の選曲眼や作品解釈の鋭さが、晩年になっても衰えていなかったことを示す最高の例だ。メッセージの内容も含め、これはニーナ・シモンの音楽的な“遺言”とも言えると思う。プリンス作品は多くのアーティストがカヴァーしているが、私はこれを超えるものを知らない。これにはプリンスもひっくり返っただろう。

 今頃、ニーナとプリンスはこんな風にセッションを楽しんでいるのかもしれない。2人は現在のアメリカをどのように思っているだろうか?



関連記事:
誰のせいでもありゃしない(2014.07.24)
Screamin' Jay Hawkins──お前に魔法をかけてやる(2014.12.22)
Nina Simone──私は自由(2015.03.16)

Ms. Lauryn Hill @ Zepp Tokyo 2016(2016.11.14)
Ms. Lauryn Hill──黒人の怒り(2016.11.17)

プリンス関連記事◆目録

| Diva Legends | 05:45 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT