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Michelle Gurevich──ロシアのバレリーナ



 かつてチャイナウーマンと名乗り、今年から本名で活動しているトロント出身/ベルリン在住の頽廃シンガー、ミシェル・グレーヴィチ。名前を変えた仕切直しの4thアルバム『New Decadence('16年9月28日発売)から「Russian Romance」を紹介した前回に続き、もう1曲、今からおよそ10年前の'07年1月に発表された彼女のデビュー曲「Russian Ballerina」の歌詞を和訳したい。

 ミシェル・グレーヴィチは、カナダ移民であるロシア人の両親のもとに生まれた。旧ソ連時代、彼女の父親はレニングラード(現サンクトペテルブルク)の技師、母親は、世界最高峰のバレエ団であるキーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)のバレリーナだった。「Russian Ballerina」は、その母親のことを歌った自伝的な作品である。とっくの昔に現役を引退し、カナダでおよそ芸術とは程遠い生活を送っている母親のことを、東欧的な哀愁を漂わせた脱臼気味のロックンロールに乗せて、へべれけな歌声でユーモアたっぷりに歌う。彼女の作品の中では私はこれが一番好きだ。私的でありながら普遍的な魅力を持つ、ミシェル・グレーヴィチの最高傑作のひとつである。




 Russian Ballerina
 (Michelle Gurevich)
 
 It takes ten years just to get your stinking leg up
 Then five more to make it not look like shit
 
 どうにか脚が上がるようになるだけで10年
 サマになるには更に5年かかる
 
 Soviet children form a crowd
 Sized and tested
 Who will be a star?
 Hero of passion of whom they'll say:
 She took her final breath in grand plie
 
 ソ連の子供が大集合
 審査を受けて
 スターを目指す
 踊りに人生を捧げ
 プリエで死んだと伝説になるのは誰?
 
 Oh! My mother! Russian Ballerina!
 You were a swan but now you're swimming in the Caribbean
 Oh! My mother! Russian Ballerina!
 Nobody knows how you can live without the love of your life
 
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 かつては白鳥 今じゃカリブ海で泳いでる
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 どうしてそこまで人生捨て切れるのかしら
 
 Everybody's asking me:
 Where is Mary?
 I don't see her at the theatre
 Or the parties
 
 みんな私に訊ねるわ
 メアリーはどこ?
 劇場では見かけない
 パーティーでも
 
 That's right,
 Because she's carving bamboo
 Far from the artistic milieu
 Never thought she'd live without
 Allegiance to a life of art
 
 それもそのはず
 彼女は竹細工をやってる
 芸術とは無縁の生活
 どこかでおかしくなった
 芸術一筋の人生
 
 Oh! My mother! Russian ballerina!
 You were a swan but now you're swimming in the Caribbean
 Oh! My mother! Russian ballerina!
 Nobody knows how you can live without the love of your life
 
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 かつては白鳥 今じゃカリブ海で泳いでる
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 どうしてそこまで人生捨て切れるのかしら
 
 La la la, la la la la la...
 
 ラララ、ラララララ……
 
 Life changes
 One day its eggshells and bread
 Married to an intellect
 The next you drive a corvette.
 
 人生色々
 食うや食わずの生活も
 インテリと結婚すれば
 たちどころに玉の輿
 
 Things change
 You live your life for the stage
 'Til your kidney floats away
 Throw in a car accident
 
 運命のいたずら
 舞台に賭ける人生も
 遊走腎にかかるまで
 おまけに交通事故
 
 A time for art
 A time for living
 Sometimes the two can be conflicting
 And mama I'll meet you at Caribana
 Together we're the highest form of art
 
 芸術を取るか
 生活を取るか
 時にふたつは相容れない
 ママ カリバナで会いましょ
 私たち二人揃えば最高の芸術よ
 
 Oh! My mother! Russian Ballerina!
 You were a swan but now you're swimming in the Caribbean
 Oh! My mother! Russian Ballerina!
 Nobody knows how you can live without the love of your life
 
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 かつては白鳥 今じゃカリブ海で泳いでる
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 どうしてそこまで人生捨て切れるのかしら
 
 Oh! My mother! Russian Ballerina!
 Too bad your pirouettes now look almost as bad as mine
 Oh! My mother! Russian Ballerina!
 Who needs that bullshit we can drink at the casino all night
 
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 自慢のピルエットも今じゃ私とどっこいどっこい
 嗚呼! 私の母親! ロシアのバレリーナ!
 そんなの忘れて二人でカジノで飲み明かそうよ
 
 Everybody now!
 La la la, la la la la la...
 
 ご一緒に!
 ラララ、ラララララ……


She took her final breath in grand plie プリエで死んだと伝説になるのは誰?:プリエはバレエの基本的な姿勢のひとつ。背筋を伸ばしたまま、膝を曲げて垂直に身体を落とす。膝を浅く曲げるものをドゥミ・プリエ(demi plie)、深く曲げるものをグラン・プリエ(grand plie)と呼ぶ。

Caribana カリバナ:トロントで毎年夏に開催される北米一の大規模なカリブ・フェスティバル。

Too bad your pirouettes now look almost as bad as mine 自慢のピルエットも今じゃ私とどっこいどっこい:ピルエットはバレエの基本的な回転技。片脚を軸にコマのように回る。映画『ホワイトナイツ』(1985)には、ミハイル・バリシニコフがグレゴリー・ハインズの前で見事なピルエット(11回転!)を披露する印象的な場面があった。



 ダークな歌声やロックンロール調の曲は、1stアルバムの表題にもなったミシェルの代表曲「Party Girl」と同じく、初期のPJ・ハーヴェイからの影響を強く感じさせる。が、'80年代風のチープなシンセ使いや、うらぶれた東欧感覚のメロディには、それとはまた違った趣きがある。レナード・コーエンとPJ・ハーヴェイの間に娘が生まれたら、まさにこんな感じではないだろうか。

 歌詞によれば、ミシェルの母親の名前はメアリー、バレエ一筋だった彼女の人生は、遊走腎(痩せた女性に多い病気)と交通事故によって転換を余儀なくされた。結婚してカナダに移住し、そこで生まれた娘のミシェルは、ミュージシャンとして、母親が諦めた芸術の道を歩んでいる。ジャケット画像に使われている写真(本記事冒頭参照)は、恐らくバレリーナ時代の母親だろう。この歌は母親への誕生日プレゼントとして作られたという。

 芸術を捨て、生活を取った母親(ちょっと山口百恵の人生を連想させる)。ユーモラスな歌詞には、そんな母親に対するミシェルの同情と愛情が滲んでいる。“私たち二人揃えば最高の芸術よ(Together we're the highest form of art)”という一節がしびれる。印象的な“ラララ、ラララララ……”のコーラスは、母親のみならず、あらゆる人たちの脱線人生を祝福しているように聞こえる。

  たったこれだけ? たったこれだけなの?
  たったそれだけのことなら さあ 踊り続けましょう
  羽目を外して 楽しもうじゃないの
  たったそれだけのことなら

 「Is That All There Is?」(1969)で、ペギー・リーはこう歌って人生に乾杯した。人生には幻滅することなどひとつもない。「Russian Ballerina」は、「Is That All There Is?」と全く同じ、力強い人生賛歌なのである。



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