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James Brown @ Tokyo International Forum 2006



 2006年3月5日(日)、午後6時。私は東京国際フォーラム ホールA、2階席最前列のど真ん中に座っていた。それは、私が生で体験する初めての(そして最後の)ジェイムズ・ブラウンのコンサートだった。

 6時10分頃に客電が落ち、ブルーの照明で染まった薄暗いステージに、鮮やかな赤いジャケットを着たバック・バンド、ソウル・ジェネラルズの面々が現れた。10人編成の大部隊。メンバーたちがぞろぞろと現れ、各自の持ち場についていく。その光景を見ただけで私は既に感動していた。'71年3月のオランピア公演と全く同じ扇情的なイントロが始まった瞬間、私は恍惚となった。

 その日のJB(72歳)は、全身黒ずくめのキラキラしたタキシード・スーツ姿だった。'04年12月に受けた前立腺癌の手術の影響か、晩年のJBは以前に比べると極度に痩せ細っていた。写真やライヴ映像ではかなりやつれた印象を受けるが、2階席から見たその立ち姿はとても美しかった。シルエットはほとんど'60年代のようだ。JBがちょっとしたステップを披露するだけで、客席からは大きな歓声が上がる。もちろん往年のように激しく踊ることはないが、時折見せるダンス・ムーヴは、まるで居合抜きのような鋭さだった。そして、張りのある力強い歌声。MCなどで聞く普通の喋り声はとてもしわがれていて、72歳相応……と言うより、むしろ80過ぎの老人のように弱々しいのだが、歌い出すと、あのJBの声になる。そのギャップが凄い。マイケルの『THIS IS IT』の記事でも書いたが、彼らには多分、オンにするだけで勝手に身体が動き出す特別なスイッチのようなものがあるのだと思う。プライベートで体力を充電しておいて、ステージに上がる時だけスイッチを入れる。それだけで何も意識せずとも自然と歌い踊ることができる。JBの肉体は“セックス・マシーン”という名の永久機関なのだと思った。

 バック・メンバーは総勢18名。ソウル・ジェネラルズ(10名)+ビタースウィート(女性バック・ヴォーカル隊/4名)+ルーズヴェルト・ジョンソン(ボビー・バード的な存在の男性ヴォーカリスト。通称RJ)+女性ダンサー(2名)+ダニー・レイ(MC)。この大所帯をJBが見事に仕切る。ステージ左側のドラマー(JBのショウにはドラムが2人いる)に向かって、JBが両手で“上げろ(Come on, come on)”という仕草を軽くするだけでビートが激しくなったりする場面を実際に目にして、私は猛烈に感動した。JBの華麗な舵取りで展開していくショウは、とにかく興奮の連続だった。

 どの曲も素晴らしかったが、個人的には、短いながらも生で聴けた「The Payback」、お馴染みの「Doing It To Death」、“Rock your body!”というコーラス(『Live At The Apollo 1995』では「Cold Sweat」〜「I Can't Stand Myself」に付け加えられていた)でダンサブルな新展開を見せた白熱の「I Feel Good」などが特に印象に残っている。確か「Sex Machine」の最中だったと思うが、JBが観客の一人を指差してステージに上げ(ドン勝本氏ではなく、普通の素人の男性客。JB指令は客席にも及ぶ!)、JB、男性客、RJの3人で揃ってランニングマン風ステップを踊った場面もよく覚えている。盛り上がったその直後、“俺も俺も”という感じで右脇から他の男性客が10人くらい次々と勝手にステージに上がって踊り出し、一時、かなりの混乱状態になった。中にはステージを走りながら横切って飛び降りるダイブ野郎までいた。そんな騒ぎにも全く動じることなく、落ち着いてショウを進めるJBは正真正銘のスーパーバッドだった。

 “日本でしか観れない、50年間の集大成のステージ!!”という公演チラシの謳い文句はいささか大袈裟だと思うが、JBのショウが毎回ちょっと違うのは事実だし、実際、私が観た日本ツアー最終日のステージは、いくつかの点で特別だった。まず、この日に限って、いつもはやらないアンコール(「Jam」)があったこと。そして、コンサート後半、「I Feel Good」が終わったところで、まだ時間に余裕があるのに“I wanna get up and do my thing!”と突然叫んでメンバー一同を狼狽させたこと。最終曲「Sex Machine」の合図を早々と出してしまったのだ。まだ時間があることを知らされ、気を取り直してJBが歌い始めたのは「It's A Man's Man's Man's World」。曲の途中で日本人通訳をステージに呼び入れ、観客に向かってJBは親密に語り始めた。

「今回も大変楽しいジャパン・ツアーでした。私は日本が大好きです。日本だけでなく、世界が大好きです。(中略)今まで日本だけでなく、世界中をツアーで回りました。これを最後に日本へしばらく来られなくなってしまうかもしれませんが、皆さんのことを愛しています。皆さん、本当にありがとうございました。そして、皆さんに神のご加護がありますように。
 今からちょっとお話することは、一番前に座っている小さな子供たちのために皆さんに聞いて欲しい話です。一番大切なことは、お互いが愛しあう、その愛しあうことを止めてはいけないことだと思います。現在、世界でいろんなことが起きているニュースを聞きますが、今夜だけは、あなたの右側に座っている人に“愛しているよ”と伝えてください。そして、左側に座っている人にも“愛しているよ”と伝えてください。あなたも、あなたも、あなたも、愛しています。そして、自分自身のことも愛しています。自分自身のことを愛さなければ、人のことは愛せません」

 自分の隣の人に向かって“愛している”と伝えてください、という観客へのメッセージは、以前からも「It's A Man's Man's Man's World」で語られていた。が、“これを最後に日本へしばらく来られなくなってしまうかもしれません”という発言は、日本ツアー最終日だけのものだったようだ。JBのこの言葉を聞いた時、私はかなり動揺した。普通、来日公演で誰もそんな消極的なことは言わないからである。集客数が減っているのを気にしているのかとも思ったが、後から思えば、この時点でJBは自分の体力の限界を強く感じていたのかもしれない。

 2時間弱の大興奮のコンサートが終わった後、私は前日の東京国際フォーラム公演も観ればよかったと激しく後悔した。JBのツアーを追っかけてアメリカまで行きたい気分だった。3ヶ月後にオーサカ=モノレールの招聘で実現したマーヴァ・ホイットニーの初来日公演('06年6月8日、渋谷クアトロ)にももちろん行った。早期の再来日を祈念しながらJBを聴く日々を過ごしていたが、その年の12月末、悲しい報せが届いた。



たまたま保管してあった東京公演のチラシ(裏面には何も印刷されていない)

 信じられないかもしれないが、JB最後の日本公演となった'06年3月5日の東京国際フォーラムの2階席は、ガラガラだった。ホールAの座席数は、1階席が約3,000、2階席が約2,000なのだが、私のいた2階席には観客が40〜50人くらいしかいなかった。飽くまで印象に過ぎないので、実際にはもうちょっといたかもしれないが、100人はいなかったと断言できる。2階席から眺める限り、1階席(前方)はほぼ埋まっていたが、2階席は本当にガラガラで、まるで閉鎖状態のような感じだった。2階席後方の観客たちは、誰もいないのに後ろに座っているのはバカらしいので、みんな前の方へ移動してショウを観ていた。日本における最晩年のJBの人気はそんなものだった。しかし、そのショウは、最後の最後まで本当に素晴らしいものだった。JBは死ぬまでハードワーキングで、スーパーバッドだった。

 それまで観る機会はいくらでもあったが、一身上の都合により、私はJBのコンサートに行くのが随分と遅れてしまった。たった一度しか観られなかったが、しかし、一度でも観られたことを、私は音楽ファンとして心から幸せに思っている。その体験と感動が、このブログを始める上での大きな原動力にもなった。この日の公演の記憶は今でも私の大切な宝物である。彼が残してくれた音楽は、これからも私の心の大きな支えであり続けるだろう。改めて感謝したい。ありがとう、JB。そして、デビュー60周年おめでとう!


01. Intro - Make It Funky
02. Cold Sweat
03. I Can't Stand Myself
04. The Payback
05. Blues In The Night
06. Doing It To Death
07. Heavy Juice
08. Every Beat Of My Heart incl. In The Midnight Hour - I Got A Woman
09. Night Time Is The Right Time feat. Cynthia Moore
10. I Got You (I Feel Good)
11. It's A Man's Man's Man's World
12. Living In America
13. Sex Machine
-encore-
14. Jam

Live at Tokyo International Forum Hall A, March 5, 2006
Personnel: James Brown (vocals, keyboards), Roosevelt Johnson (vocals), The Bittersweet: Cynthia Moore, Sheila Wheat, Amy Christian, Candice Hurst (backing vocals); The Soul Generals: Hollie Farris (trumpet, keyboards), Tony Cook, Robert Mousey Thompson (drums), Leroy Harper, Jeffrey Watkins (sax), Robert Watson, Daryl Brown (guitar), Fred Thomas, Ray Brundidge (bass), George "Spike" Neeley (percussion); Sara Raya, Yonna Kari (dance), Danny Ray (mc)


James Brown: Japan Tour 2006
【札幌公演】
2006年2月26日(日) 北海道厚生年金会館
開場17:30/開演18:00 SS席¥8,800/S席¥7,800/A席¥6,800/B席¥5,800
【大阪公演】
2006年3月1日(水) 大阪厚生年金会館大ホール
開場18:00/開演19:00 S席¥8,500/A席¥8,000
【名古屋公演】
2006年3月2日(木) 名古屋市民会館大ホール
開場18:00/開演19:00 S席¥8,500/A席¥8,000
【東京公演】
2006年3月4日(土) 東京国際フォーラム ホールA
2006年3月5日(日) 東京国際フォーラム ホールA
開場17:00/開演18:00 S席¥8,500/A席¥8,000


レコ漁日記(2006年2〜3月: JAMES BROWN来日スペシャル版)
(日本の老舗JBファンサイト“ESCAPE-ISM”内にある管理者、佐藤さんの'06年日本ツアー追っかけ記。バックステージでのJBの貴重な姿も少し見られる。「It's A Man's Man's Man's World」でのJBの語りは、ここに掲載されている起こしを参照しました)




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