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Common feat. Stevie Wonder──黒人のアメリカを再び



 黒人に対する不当な暴力への抗議として始まったアメリカのブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大切だ)運動は、'16年の黒人音楽界にも引き続き大きな影響を及ぼした。人種差別に対する苛立ち、社会への不満、黒人としての誇りや尊厳を表現した作品が前年以上に目立つ一年だった。大統領選挙直前の11月4日、ドナルド・トランプへの明らかな対抗意識と共に発表されたコモンの新譜『Black America Again』は、そうした意味で今年を代表する一枚と言えると思う。

 参加メンバーが強力だ。客演歌手にはスティーヴィー・ワンダー、ビラル、マーシャ・アンブロージアス、ジョン・レジェンド、シド・ザ・キッド、BJ・ザ・シカゴ・キッド、PJ(ロサンゼルスの新進女性R&B歌手)、ターシャ・コブズ、エレーナ・ピンダーヒューズ(テリ・リン・キャリントンやクリスチャン・スコット作品に参加していた若手ジャズ・フルート奏者/歌手)、演奏者にはジェイムズ・ポイザー、ロイ・ハーグローヴ、ロバート・グラスパー(3曲でプロデュース兼任)、バーニス・アール・トラヴィス二世、セオ・クロッカー、エスペランザ・スポルディングといった、ソウル/R&B、ゴスペル、現代ジャズ界の実力派たちが世代を超えてずらりと名を連ねる。コモン作品をはじめ、エリカ・バドゥ、スラム・ヴィレッジ、キザイア・ジョーンズらを手掛けてきた敏腕プロデューサー/ドラマーのカリーム・リギンズが全面的に制作を担い、ヒップホップを軸に、ニュー・ソウル〜ネオ・ソウル、ゴスペルから、昨今の新世代ジャズ、オルタナティヴR&Bまでを取り込んだ、非常に包括的で間口の広い黒人音楽になっているのが特長だ。サウンドの現代性と歴史的なスケール感が、アメリカで黒人であることに今一度向き合おうとする主役コモンのラップに重みと強い緊張感を与えている。

 ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』に似たところもあるが、昨年からの繋がりという点では、ソウル寄りの本作は、むしろロバート・グラスパーとローリン・ヒルが中心になったニーナ・シモンのV.A.トリビュート盤『Nina Revisited...』と共通する部分が多いかもしれない。また、ソウルクエイリアンズ人脈(ビラル、ジェイムズ・ポイザー、ロイ・ハーグローヴ)の起用、ジャケットを飾るローナ・シンプソン(ブルックリンの黒人女性写真家)による黒人女性のモノクロのイメージからは、ゴードン・パークスの写真を掲げたコモンのかつての傑作『Like Water For Chocolate』(2000)の現代版といった印象も受ける。硬派ラッパー、コモンの面目躍如たる入魂作である。

 今回はその中から表題曲「Black America Again」の歌詞を和訳したい。歌詞の面でもサウンドの面でも、まさにアルバムを代表する1曲と言えると思う。カリーム・リギンズとロバート・グラスパーの共同プロデュース曲で、グラスパーがピアノ、エスペランザ・スポルディングがベースを担当。更には、J・ロックのスクラッチでジェイムズ・ブラウンが生き返り、最後の最後にリビング・レジェンド、スティーヴィー・ワンダーが登場して決定的なフレーズを歌う。まさに総力戦といった感じだ。




Black America Again
(Lonnie Lynn/Emmanuel Riggins/Robert Glasper/Stevie Wonder/Kenny Clarke/Rita Greene/Jake Riley/George Clinton/Carlton Ridenhour/Eric Sadler/Hank Shocklee/James Brown)

[Common]
Here we go, here, here we go again
Trayvon'll never get to be an older man
Black children, they childhood stole from them
Robbed of our names and our language, stole again
Who stole the soul from black folk?
Same man that stole the land from Chief Black Smoke
And made the whip crackle on our back slow
And made us go through the back door
And raffle black bodies on the slave blocks
Now we slave to the blocks, on 'em we spray shots
Leaving our own to lay in a box
Black mothers' stomachs stay in a knot
We kill each other, it's part of the plot
I wish the hating will stop (war!) and the battle with us
I know that Black Lives Matter, and they matter to us
These are the things we gotta discuss
The new plantation, mass incarceration
Instead of educate, they'd rather convict the kids
As dirty as the water in Flint, the system is
Is it a felony or a misdemeanor?
Maria Sharapova making more than Serena
It took Viola Davis to say this
The roles of the help and the gangstas is really all they gave us
We need Avas, Ta-Nehisis, and Cory Bookers
The salt of the Earth to get us off of sugar
And greasy foods; I don't believe the news
Or radio, stereotypes we refuse
Brainwashed in the cycle to spin
We write our own story, black America again

始まった また始まった
トレイヴォンはもう年を取れない
黒人の子供たち 奪われた少年時代
我々の名前と言語を奪い また奪った
黒人たちから魂を奪ったのは誰だ?
原住民から土地を奪ったのと同じ人間だ
俺たちの背中を鞭で打ち
裏口から出入りさせ
奴隷競売で黒人を売り飛ばした連中だ
いま俺らは貧民街に繋がれ 銃を撃ちまくり
自分たちで死人を出してる
黒人の母親たちは胸を痛めてる
殺し合う俺たち 完全にハメられてる
終わってくれ 憎しみ(戦争!)俺たちの争い
黒人の命だって大切だ 俺たちには重大
皆で話し合うべき大問題
新たな奴隷労働 大量の投獄
教育する代わりに子供たちを断罪
フリントの水質なみに汚染された体制
重罪? それとも軽罪?
セリーナより稼ぐマリア・シャラポワ
ヴィオラ・デイヴィスはこうこぼした
黒人に回されたのは使用人とギャングの役ばかり
エヴァ タナハシ コリー・ブッカーに続け
地の塩で砂糖と油っこい食い物にお別れ
俺はニュースもラジオも信じない
固定観念も受けつけない
洗脳がぐるぐる渦巻いてる
俺たち自身の物語を書くんだ 黒人のアメリカを再び

[James Brown]
You know, one way of solving a lot of problems that we've got is lettin' a person feel that they're important. And a man can't get himself together until he knows who he is, and be proud of what and who he is and where he come from.

我々が抱える様々な問題を解決するひとつの方法は、自分は重要だという実感を皆が持てるようになることだ。自分が何者か知り、自分自身と自分の生まれに誇りを持ってこそ、人はまともに生きられる。


[Common]
Hot damn, black America again
Think of Sandra Bland as I'm staring in the wind
The color of my skin, they comparing it to sin
The darker it gets, the less fairer it has been
The hate the hate made, I inherited from them
But I ain't gon' point the finger
We got annointed singers, like Nina, Marvin, Billie, Stevie
Need to hear them songs sometimes to believe me
Who freed me: Lincoln or Cadillac?
Drinkin' or battle raps? Or is it Godspeed that we travel at?
Endangered in our own habitat
The guns and dope, man, y'all can have it back
As a matter of fact, we them lab rats
You build the projects for, now you want your hood back
I guess if you could rap, you would express it too
That PTSD, we need professionals
You know what pressure do, it make the pipes bust
From schools to prison, y'all, they tryna pipe us
Tell your political parties invite us
Instead of making voting laws to spite us
You know, you know we from a family of fighters
Fought in your wars and our wars
You put a nigga in Star Wars, maybe you need two
And then, maybe then we'll believe you
See black people in the future
We wasn't shipped here to rob and shoot ya
We hold these truths to be self-evident
All men and women are created equal
Including black Americans

よっしゃ 黒人のアメリカを再び
風に吹かれてサンドラ・ブランドを想う
俺の肌の色は罪と結びつけられる
色が濃いほど強まる差別
憎悪が生んだ憎悪 俺もそいつを受け継いだ
だが咎めない 俺たちには輝ける歌手がいる
ニーナ マーヴィン ビリー スティーヴィー
嘘だと思ったら彼らの歌を思い出せ
俺を解放したのはリンカーンかキャデラックか?
酒かラップ合戦か? それとも神のご加護か?
俺たちの住処は危険だらけ
銃にクスリ ほれ 返してやるぜ
マジな話 俺たち実験用ラット
公営住宅に入るとチンピラに飢える
ラップできる奴は言ってやれ
PTSDってやつさ 俺たちにはプロが要る
圧力がかかればパイプは破裂
学校から刑務所まで 奴ら俺たちを射殺
俺らをいびる法律を可決させる前に
あんたの政党に駆けつけさせろ
そうとも 俺たち戦士の家柄
あんたの戦争 俺らの戦争で戦った
スター・ウォーズに黒人を出すが 2人は出しな
そしたら信じてやるかもな
未来の黒人たちの姿を見ろ
俺たちゃ強盗や人殺しするために運ばれてきたんじゃない
我々は以下を自明の理と信じる
全ての人間は生まれながらにして平等である
黒人アメリカ人を含めて

[James Brown]
You know, one way of solving a lot of problems that we've got is lettin' a person feel like somebody. And a man can't get himself together until he knows who he is, and be proud of what and who he is and where he come from.

我々が抱える様々な問題を解決するひとつの方法は、自分は一角の人間だという実感を皆が持てるようになることだ。自分が何者か知り、自分自身と自分の生まれに誇りを持ってこそ、人はまともに生きられる。


[Stevie Wonder]
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story
We are rewriting the black American story

僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ
僕らでアメリカ黒人の物語を書き直すんだ


Black America Again 黒人のアメリカを再び:ドナルド・トランプ(とロナルド・レーガン)の選挙スローガン“Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)”をもじっている。

here we go again また始まった:パブリック・エナミー「Bring The Noise」(1987)からの引用。サンプリングされたチャック・Dの声がコモンの声と重ねられている。チャック・Dはこの一節だけでわざわざ“background vocals”としてクレジットされた。

Trayvon'll never get to be an older man トレイヴォンはもう年を取れない:'12年2月26日、フロリダ州サンフォードで、黒人高校生のトレイヴォン・マーティン(17歳)が、ヒスパニック系自警団員のジョージ・ジマーマン(28歳)に射殺された事件のこと。夜7時頃、コンビニから帰宅中だったトレイヴォン・マーティン(フードを被っていた)を不審に思ったジョージ・ジマーマンが警察に通報。警察の抑制を無視して追跡を続け、取っ組み合いの喧嘩になった末、身の危険を感じて射殺した。人種差別によるヘイトクライムだとして全米で抗議が起こり、ジョージ・ジマーマンは起訴されたが、'13年7月、正当防衛が認められて無罪となった。ブラック・ライヴズ・マター運動の発端にもなった事件。

As dirty as the water in Flint, the system is フリントの水質なみに汚染された体制:ミシガン州フリント市の水道水は、市の財政難のため'14年4月に水源を切り替えたことが原因で高濃度の鉛で汚染され、市民生活に甚大な被害を及ぼしている。鉛汚染に対する行政の対応の遅さを、同市の人口の多くを占める黒人貧困層に対する差別意識と結びつけて非難する向きもある。'16年1月、ミシガン州に非常事態宣言が出され、被害地域に公的資金が投入されるようになったが、復旧の目処は全く立たず、市民はペットボトルの水で生活を続けている。

Maria Sharapova making more than Serena セリーナより稼ぐマリア・シャラポワ:セリーナ・ウィリアムズはシャラポワに対して過去19勝2敗('16年末現在)で圧倒的に勝ち越しているが、広告契約料も含めた年収ではシャラポワがセリーナを上回り、'15年までは女子アスリートで最も稼いでいた。ドーピング違反によりシャラポワが出場停止処分を受けたことで、'16年の女子アスリート長者番付ではセリーナが1位、シャラポワが2位となっている(フォーブス誌調べ)。

Viola Davis ヴィオラ・デイヴィス:アメリカの黒人女優(1965〜)。公民権運動時代のミシシッピを舞台にした映画『ヘルプ〜心がつなぐストーリー(The Help)』(2011)でメイド役を演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。同作では、同じくメイド役を演じたオクタヴィア・スペンサー(『Hidden Figures』でジャネール・モネイと共演)が助演女優賞を獲得している。

Ava エヴァ:エヴァ・デュヴァネイ Ava DuVernay(1972〜)。カリフォルニア州リンウッド(コンプトンの隣町)出身の黒人女性映画監督。コモンがジョン・レジェンドと共に主題歌を担当した映画『グローリー/明日への行進(Selma)』(2014)で黒人女性監督として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされた。アメリカの黒人差別の歴史を追った同監督のドキュメンタリー映画『13th −憲法修正第13条−(13th)』(2016)にコモンが楽曲を提供したり(『Black America Again』最終曲「Letter To The Fire」)、「Black America Again」の短編映画(後述)をデュヴァネイが制作するなど、両者の結託は以後も続いている。

Ta-Nehisi タナハシ:タナハシ・コーツ Ta-Nehisi Coates(1975〜)。メリーランド州ボルティモア出身の黒人ジャーナリスト/作家。アメリカの老舗月刊誌、The Atlanticで政治・社会論評を担当。アメリカ社会での黒人の生き方について14歳の息子に語りかける形で書かれたエッセイ『Between The World And Me』(2015)がベストセラーとなり、同年の全米図書賞ノンフィクション部門を受賞。同書は、'93年に黒人として初めてノーベル文学賞を受賞したトニ・モリソン(ディランの前のアメリカ人受賞者)や、バラク・オバマも推薦図書に挙げた。Time誌の'16年版“世界で最も影響力のある100人”に選出。“新たなジェイムズ・ボールドウィン”と言われ、アメリカの人種論議で現在最も注目されている論客の一人。

Cory Booker コリー・ブッカー:アメリカの黒人政治家(1969〜)。'06年に36歳の若さでニュージャージー州ニューアーク市長に当選('13年まで在任)、'13年に同州初の黒人上院議員になった。'16年の大統領選で民主党の副大統領候補の一人と目されていた人物。

You know, one way of solving a lot of problems that we've got is... 我々が抱える様々な問題を解決するひとつの方法は……:ジェイムズ・ブラウンのこの肉声のサンプル元は、'68年8月26日のダラス公演のライヴ盤『Say It Live And Loud: Live in Dallas 08.26.68』(1998)。「Say It Loud」前のJBの語りの一部が使われている。

Hot damn よっしゃ:MCライト「10% Dis」(1988)からの引用。サンプリングされたMCライトの声(“Hot damn, here we go again”)がコモンの声(“Hot damn, black America again”)と重ねられている。ライトはこの一節だけでチャック・Dと共に“background vocals”としてクレジットされた。

Sandra Bland サンドラ・ブランド:'15年7月10日、テキサス州で車を運転中、車線変更の際にウィンカーを出さなかった黒人女性サンドラ・ブランド(28歳)が警察に停車させられ、警官と口論の末に逮捕、3日後に独房内で死亡しているのが発見された事件。死因はゴミ袋を使った首吊り自殺で、検死では彼女の体内から多量のTHC(大麻の主成分)が検出されたが、警察の対処を巡って全米で反発が起きた。遺族は群を相手に不法死亡起訴を起こし、'16年9月、190万ドルの示談金が支払われることで和解した。

Nina, Marvin, Billie, Stevie ニーナ マーヴィン ビリー スティーヴィー:ニーナ・シモン(1933〜03)、マーヴィン・ゲイ(1939〜84)、ビリー・ホリデイ(1915〜59)、スティーヴィー・ワンダー(1950〜)。ニーナ・シモンの命日がプリンスと同じ4月21日であること、そして、彼女が「Sign "O" The Times」をカヴァーしていることは、一般的に意外と知られていないかもしれない。

PTSD PTSD:心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)。いわゆる“トラウマ”。過去の強いショック体験や精神的ストレスから起こる様々な障害のこと。

We hold these truths to be self-evident / All men and women are created equal 我々は以下を自明の理と信じる/全ての人間は生まれながらにして平等である:アメリカ合衆国独立宣言(1776)からの引用。この一文は、マーティン・ルーサー・キングの有名な演説“私には夢がある(I Have A Dream)”(1963)でも引用された──“私は夢見る。いつかこの国の国民が立ち上がり、その信条である、全ての人間は生まれながらにして平等であるという自明の理を真に実現する日が来ることを(I have a dream that one day this nation will rise up and live out the true meaning of its creed: We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal.)”。アルバムには“私には夢がある”演説の使用クレジットがあるので、キング牧師の音声もサンプリングされていると思われる。

※アルバム・ブックレットに歌詞不掲載のため、原詞はネット上の聞き取りを参照しました。部分的に誤りがある可能性があることを御了承ください。





 「Black America Again」には22分の短編映画が作られた(アルバム発売日と同じ'16年11月4日公開)。製作総指揮は『グローリー/明日への行進』のエヴァ・デュヴァネイ、監督は、同作で撮影監督を務めていたブラッドフォード・ヤング。撮影場所はメリーランド州ボルティモア。黒人霊歌を歌いながら町を歩く黒人女性(フレディ・グレイを追悼するグラフィティがある場所から歩き始める)、路上でラップするコモン、屋外で授業を受ける黒人児童たち、老若男女の様々な黒人たちのポートレートなど、現代のアメリカに生きる黒人の姿が、モノクロを基調とした映像で詩的に美しく描かれていく。中でも、路上で黒人たちが霊歌「Swing Down, Chariot」(パーラメント「Mothership Connection (Star Child)」ヴァージョン)を歌いながらリング・シャウト(奴隷制時代から続く黒人の宗教的行為。集団で輪を作り、反時計回りに歩きながら歌い踊る)を行う場面は力強く、とても感動的だ。冒頭に登場する芋虫の映像は、ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』への応答か。『2001年〜』のモノリス(叡智の象徴)を引用したさり気ないSF感も面白い。コモンのリリック、サウンドトラックとして全編に散りばめられた表題曲の断片が、これらのイメージに明確な意味を与える。重苦しい緊張感の中に、人々の瑞々しい命の輝きを捉えた傑作短編だ。

 この短編映画の他に、「Black America Again」には、曲のオリジナル音源(短縮版)を使った通常の音楽ヴィデオも作られている('16年9月22日公開)。そちらは、'16年7月5日にルイジアナ州バトンルージュで起きた白人警官による黒人射殺事件──コンビニの前でCDなどを売っていた黒人男性アルトン・スターリング(37歳)が、警官2人に地面に押さえつけられた上で射殺された──の凄惨な現場映像を冒頭に置き、黒人に対する警察の終わりなき暴力を糾弾する全く別の内容になっている。


WHAT REALLY MATTERS TO BLACK AMERICAN LIVES


ブラック・ライヴズ・マターの行進('04年12月13日、ニューヨーク)

 こうして拍車がかかり続けるブラック・ライヴズ・マター運動だが、日本で暮らす日本人である私個人は、この抗議活動に対して少し複雑な思いを抱いている。私は黒人音楽が好きなので、当然、彼らの主張に興味があるし、彼らのことをよく理解したいと思う。しかし──偽善的に響くのを承知の上で書くが──私はブラック・ライヴズ・マターという運動を、芸術的には支持するが、政治的には全面的に支持する気にならない。と言うのも、警察への強い怒りと不信感を伴った一連の激しい抗議活動は、暴力の連鎖と新たな偏見を生み、事態を良くするどころか、悪化させているようにしか見えないからである。

 例えば、上記のルイジアナ州バトンルージュで起きたアルトン・スターリング射殺事件の翌日の'16年7月6日には、ミネソタ州セントポールで、恋人女性とその4歳の娘を同乗させて車を運転中だった黒人男性フィランド・カスティール(32歳)が、後部ライトが壊れているという理由でラティーノの警官に停車させられ、銃を携帯していることを告げた上でポケットから免許証を取り出そうとしたところ、7発撃たれて射殺されるという悲惨な事件が起きている。これら2つの事件を受けて、翌7月7日、テキサス州ダラスで市民の抗議デモが行われていたところ、警備に当たっていた警察隊を、今度は黒人の男が狙撃し、警官5人が死亡、警官7人(黒人警官1人を含む)と市民2人が負傷するという惨事が起きた。立てこもりの末に爆殺された元陸軍予備役兵士のマイカ・ジョンソン容疑者(25歳)は、警察との交渉中に“白人を殺したい”と話していたという。更に、それから10日後の7月17日には、ルイジアナ州バトンルージュで、アルトン・スターリング射殺事件に怒ったギャヴィン・ロング(29歳)という黒人の男が、警官3人を射殺する事件を起こした。抗議ではなく、もはや単なる報復になっている。

 フレディ・グレイ事件に対するボルティモアの抗議デモが大規模な暴動に発展したことは、プリンス「Baltimore」の記事でも書いた。同様の黒人暴動は、'16年8月にウィスコンシン州ミルウォーキー、9月にノースカロライナ州シャーロットでも起きている。もちろん、そうした過激な暴力行為に走る人間は全体の一部に過ぎないが、ブラック・ライヴズ・マターの巨大な波が、警察に対する不信感や敵意を煽り、非黒人に対する黒人の逆差別や暴力を誘発し、その結果、黒人の立場を更に不利にしていることも重く受け止めなければいけないと思う。抗議をするなと言うわけではないが、アメリカの人種問題のアリ地獄のような様相を見るにつけ、解決の糸口はもっと別のところにあるのではないかという気がしてくるのである(お前はアメリカ黒人じゃないからそんなことが言えるんだ、と言われればそれまでだが……)

 そうした中で、ブラック・ライヴズ・マター運動に異を唱える面白い黒人もいる。タリブ・スタークス Taleeb Starkes という黒人が書いた“Black Lives Matter”ならぬ『Black Lies Matter(黒人の嘘が問題だ)』という本が'16年4月にアメリカで出版され、かなり反響を呼んでいる。保守派のアメリカ黒人であるスタークスは、そこで具体的な数字や例証を挙げながら、ブラック・ライヴズ・マター運動を冷静に批判しているようだ。私は未読だが、その本を紹介している日本語記事(“白人警官殺しは黒人にとってのジハードだ!”)があるので、アメリカの人種問題に興味がある人には一読をお勧めしておきたい。賛否はともかく、ブラック・ライヴズ・マターを声高に叫び続けるアメリカの黒人社会の中に、彼のように全く別の視点を持った人間がいることは健全なことに違いないだろう(タリブ・スタークスの意見は別の機会に改めて紹介したい)。

 昨今のアメリカの人種問題を見ていて部外者ながらに私がつくづく思うのは、長年の差別が残した傷痕の尋常でない深さである。400年にも及んだアメリカの黒人差別と抑圧の歴史、その記憶と傷は、たとえ黒人が大統領になろうと、ウィル・スミスがいくら地球を救おうと、そう簡単に癒えるものではない。ちょっとしたことで脳裡に歴史的な記憶が蘇り、黒人は“ああ、やっぱり差別されてる”と思ってしまう。白人は白人で黒人に対して後ろめたい気持ちがあり、同時に“いつ復讐されるかもしれない”という恐怖心をどこかで抱えている。人種差別はアメリカ社会にとって完全にトラウマなのである。アメリカで黒人への差別や偏見が完全になくなるには、同じくらいの長い年月(400年)がかかるのかもしれない。



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