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アメリカの黒人が抱える5大問題



 ドナルド・トランプの大統領当選と、それによって浮き彫りになったアメリカ社会の分断は世界に大きな衝撃を与えた。大統領就任直後のトランプ支持率は45%、不支持率も同じく45%で、アメリカ国民の考えはまさに真っ二つに分裂している。日本の多くのメディアはトランプのハチャメチャぶりを強調し、彼を支持するアメリカ国民が半数もいることを“信じられない”、“馬鹿じゃなかろうか”と言わんばかりの調子で報道しているが、そういった人々──もっぱら“低学歴・低収入の白人労働者層”と説明されている──の実態や意見が注視されることは極めて少ないように思う。彼らトランプ支持者の目に、アメリカ社会は一体どのように映っているのだろうか?

 今回はそのひとつの例として、トランプを支持する保守派のアメリカ人であるタリブ・スタークス Taleeb Starkes という人物の意見を紹介することにしたい。マイノリティに対して差別的な姿勢を見せるトランプは黒人層から絶大な不人気を獲得しているが(11月の大統領選挙ではアフリカ系アメリカ人の88%がクリントンに投票)、トランプ支持の保守派の中には、少数ではあるが黒人も含まれている。スタークスはそのうちの一人だ。

 過去記事“Common feat. Stevie Wonder──黒人のアメリカを再び”でも少し紹介したタリブ・スタークスは、フィラデルフィアの著述家/映画製作者。これまでに『The Un-Civil War: BLACKS vs NIGGERS: Confronting the Subculture Within the African-American Community(自滅戦争:黒人 vs ニガー〜アメリカ黒人社会の病巣に迫る!)』(2013)、『Black Lies Matter: Why Lies Matter to the Race Grievance Industry(黒人の嘘が問題だ:被差別商法の欺瞞を暴け!)』(2016)という2冊の本を上梓し、アメリカ黒人社会の病理をあぶり出す冷静な分析と批評で注目を集めている。その書籍名(私が思い切り超訳しているが)からも、彼が普通の黒人とはかなり違った考えの持ち主であることが窺い知れるだろう。

 今回は、YouTubeのプレガー大学(Prager University)で行われたスタークスの講義を紹介する。“プレガー大学”というのは実際の大学ではなく、デニス・プレガーという保守派の白人作家(『ユダヤ人はなぜ迫害されたか』等の邦訳書もあり)が主宰するウェブ上の仮想大学。様々な著名人を講師に招き、時事問題について分かりやすく論じる5分間の講義動画を発信している。スタークスは'16年9月にそこに出演し、“アメリカの黒人が抱える5大問題(The Top 5 Issues Facing Black Americans)”というテーマで講義を行った。その5分間の講義内容を以下に全訳する。

 意外にも、彼が挙げる5大問題の中に“人種差別”は含まれていない。警察による黒人への不当な暴力が相次ぎ、“ブラック・ライヴズ・マター”が声高に叫ばれる現代のアメリカ黒人社会において、人種差別こそは最大の問題ではないのか? タリブ・スタークスの視点は全く異なる。あなたは彼の見解をどう思うだろうか。




アメリカの黒人が抱える5大問題
タリブ・スタークス
19 September 2016, Prager University, YouTube

 アメリカの黒人が抱える5大問題とは何でしょう? 順に挙げます。


第5の問題──被害者意識

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 自分自身を被害者と見なすことは何の足しにもなりません。なぜか? 被害者というものは自分の立場に責任を持たないからです。悪いのは全部他人。それでは一向に生活は改善されません。他人に足を引っ張られていては前へ進めませんよね? これによって被害者は不満、苛立ち、怒りを抱くわけです。

 実に多くの黒人たちがそのように自分を見なしています。自分は被害者だと。それゆえ被害者という地位は、彼らの根本的なアイデンティティや思考原理にもなっています。私はこれを“被害者学”と呼びます。残念ながら、多くの黒人教会がこの“被害者学”を説き、それをまた多くの黒人の親が子に伝え、貧困地域の学校が生徒に教え、さらに黒人メディアが助長します。一方で、NAACPやその他の黒人苦情団体はそこから資金を得ています。


第4の問題──寛容性の欠如

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 黒人はことあるごとに“人種についての真摯な対話や議論”を要求します。しかし、黒人と黒人の間に真摯な対話など事実上ない状況で、黒人と白人の間で人種についての真摯な対話など成り立つでしょうか? 不純ですよね。そして、“黒人が抱える問題に対して白人は根本的に責任がある”と考えない黒人がいると、“裏切り者”、“アンクル・トム”、“白人迎合”と決めつけるのです。

 こうした集団思考が存在する限り、アル・シャープトンやジェシー・ジャクソンのような黒人教祖は礼賛され続け、トマス・ソーウェル教授やウォルター・ウィリアムズ教授といった在野の黒人思想家は忌避されることになります。

 真摯な人種議論や対話は、黒人と白人の間よりも、まず黒人と黒人の間で行われなければなりません。私たちは他人に寛容性を求めますが、考え、意見、政治的立場といった肝心な部分で、自らそれを身につけることが必要なのです。


第3の問題──都市テロリズム

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 ほとんどの人が知っているにもかかわらず、大っぴらにはほとんど語られないことですが、黒人が多くを占める都市部では、黒人による黒人への凶悪犯罪が後を絶ちません。司法省による1980年から2008年までの調査では、全国の殺人事件の被害者のほぼ半数に当たる47.4%を、また、加害者の過半数に当たる52.4%を、アメリカの人口の13%に過ぎない黒人が占めています。

 タスキーギ大学は、1882年から1968年の間に起きた分かる限りの黒人リンチについて調査を実施しました。その86年間、実質的には南北戦争後から公民権時代へ到るまでの期間、3,446人の黒人が記録上リンチに遭いました。現在、黒人による黒人の殺人は、80年以上の間にリンチで殺された黒人の数を、おおよそ6ヶ月ごとに上回っています。

 信じられないことに、この不釣り合いな数の暴力を引き起こしているのは、実は黒人庶民のうちの僅か2〜3%の危険分子です。私は彼らを“都市テロリスト”と呼びます。彼らはまさしく第2の問題の所産であるがゆえに、黒人社会は彼らのことを擁護します。


第2の問題──未婚の母の激増

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 核家族の崩壊は母子家庭の桁外れの増加を招きました。モイニハン報告によれば、1965年には25%近くの黒人の子供が未婚の母親から生まれています。報告書をまとめたダニエル・パトリック・モイニハンは、これを由々しき事態だと言いました。彼は当然、いわゆる黒人指導者たちや進歩主義のその同胞たちから非難されました。でも、彼は正しかった。現在、未婚出生率は75%近くに達し、都市部には更に高い比率のところもあります。

 当然ながら、未婚の父親には未婚の母親と同様の責任があります。ですが、未婚の父親が責められ、滅多に同情されることがないのに対し、未婚の母親は滅多に責められず、同情と同時に支援も受けます。この偏った傾向と、これまで挙げてきた病理は、黒人社会が抱える第1の問題にもろに起因するものです。


第1の問題──進歩的政策なるものへの盲目的忠誠

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 進歩的でリベラルな政策への揺るぎない信頼こそ、こうした惨状がいつまでも終わらない最大の原因です。これによって諸々の問題が生じ、恒常化するのです。片親家庭や低学力校、貧困や犯罪の蔓延がひときわ目立つ黒人都市部が、いずれも進歩主義という一本の糸で結びつくのは決して偶然ではありません。

 デトロイト、フィラデルフィア、ボルティモアといった街を見てください。これらの街は長年、進歩主義の民主党員たちに管理されてきました。彼らのリベラルな政策が仮にも有効だったら、これらの街は経済成長と繁栄の見本となっていたでしょう。ところが、これらの街は機能障害の見本になっています。被害者意識を助長して食い物にし、自省能力を奪い、未婚の母親を援助し、黒人の暴漢をうやむやにすることにより、進歩的政策なるものは、黒人社会を苛む諸問題を軽減するどころか、更に悪化させているのです。

 人種差別が問題点に含まれていないことにお気づきかもしれません。なぜか? 単純です。我々の社会を蝕む諸問題が、結局は自ら招いたものだということにもっと多くの黒人が気づかない限り、黒人アメリカを苛む諸問題が解決されることはないのです。

 人種差別は存在するか? もちろん。でも、他にもっと深刻な問題があるんです。人種差別がなくなるのを待つことは、永久に待ち、言い訳を続けることに等しいでしょう。

 プレガー大学のタリブ・スタークスでした。


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 如何だろう。私は事情通でないので精察できないが、スタークスの言っていることは基本的に正論に聞こえる。

 自由、平等、友愛、共生、平和といった理想は、もちろんどこまでも大切にされるべきである。しかし、ただそれを主張するだけでは社会は上手く機能していかない。ドナルド・トランプが大統領に選ばれたのは、アメリカ国民の半数がそういう現実を直視した結果でもあるだろう。

 いついかなる時でも絶対的に有効なイデオロギーや政策は存在しない。政治に限った話ではなく、人間関係でも仕事でも、物事は何でもそうだと思う。

 私が好きな翻訳という作業で言えば、単語や構文の訳し方に万能の法則はなく、文脈に応じてその都度、最適な訳を考えなければならない。その“最適な訳”も、もちろん絶対的に正しいわけではない。どう訳しても不都合は生じる。しかしながら、ひとつだけ、どんな時も有効と思われるルールがある。それは“バランス”である。文脈、語意、リズム、文字数、テキストの性質、筆者の属性……様々な要素を考慮し、その中で妥協点を探るのである。それが最も正解に近づく“絶対的な”方法だと私は信じている。

 保守派の主張にもリベラル派の主張にも一理あるだろう。大事なのは、当たり前のことだが、互いの意見に真摯に耳を傾けることだと思う。そして、バランスをとることだと思う。政治も人生も翻訳も、綱渡りと一緒である。右に寄りすぎても左に寄りすぎても、人は綱から落ちてしまうのだ。

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