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追悼 GEORGE MICHAEL(午前)──晴れのちブルー



 ジェイムズ・ブラウン、マイケル・ジャクソン、そして、プリンス。この10年で3人ともいなくなってしまった……という記事を書いたクリスマスの翌日、ジョージ・マイケルの訃報が届いた。'16年12月25日永眠、享年53歳。

 '80年代、小学生の頃に洋楽の洗礼を受けた私にとって、ジョージ・マイケルは特別なスターの一人である。両親が音楽好きだったため、私の家では多くのアメリカのトップ40ヒットと一緒にいつもワム!の曲が流れていた。'80年代後半、家に初めてCDコンポがやって来たとき、親が最初に購入したCDもワム!のベスト盤『The Final』だった(じきに私が家で一番の音楽中毒になってしまい、そのCDはほとんど私の私物になった)。マイケル・ジャクソン、プリンス、スティーヴィー・ワンダーらと並んで、ジョージ・マイケルは、現在に至るまでの私の音楽の趣味のいわば“初期設定”をした人だ。

 イギリスのブルーアイド・ソウル歌手と言うと、ダスティ・スプリングフィールド、トム・ジョーンズ、スティーヴ・ウィンウッド、ロバート・パーマー、アニー・レノックス、ミック・ハックネル、近年だと、エイミー・ワインハウス、アデル(グラミーでのジョージ・マイケル追悼パフォーマンスは素晴らしかった)、サム・スミスといった名前が思い浮かぶ。改めて考えると、ジョージ・マイケルは歴代のブルーアイド・ソウル歌手の中でも類を見ない才能の持ち主である。歌手としてだけでなく、ソングライター、プロデューサー、ポップ・スターとしても圧倒的な輝きを放った。範囲をアメリカにまで広げても、白人で彼ほど黒人音楽を自分のものにし、普遍的な名曲を数多く生んだアーティストはいないのではないか。彼ほど黒人音楽に憧れた青年はいないのではないか。

 私にとってジョージ・マイケルは、プリンスとシャーデーの中間に位置するようなアーティストである。ワム!解散後のソロ初作『Faith』(1987)で芸術的にも商業的にもプリンスに比肩する成功を収めた後(最大瞬間風速は同時期のプリンスを余裕で超えていた)、2nd『Listen Without Prejudice Vol. 1』(1990)でポップ・スターから脱却し、より真摯に自分の芸術に取り組むようになった。時代やアメリカの黒人音楽とは距離を置き、白でも黒でもない独自の親密なソウル・ミュージックをストイックに追求する姿勢は、寡作化が進んでいった点も含め、シャーデーによく似ていると思う。滋味を増した6年後の3rd『Older』(1996)は、『Love Deluxe』やイーフレイム・ルイス『Skin(ジョージ・マイケル好きは必聴)と並ぶ孤高かつ至高の'90年代UKソウル作品として、私の心に深く刻まれている。私生活でのスキャンダルやカミングアウトもありつつ、21世紀には、円熟味とかつてのポップさが調和した傑作『Patience』(2004)を発表。ポップ・ミュージック界で不動の地位を築きながら、カヴァー集『Songs From The Last Century』(1999)やライヴ盤『Symphonica』(2014)では(決して守りではない)思い切ったジャズ〜スタンダード志向も見せた。自由とソウルを求めて勇敢に我が道を行く姿は、シャーデーを通り越して、ニーナ・シモンさえ思わせるものだった。

 後年のプリンスもそうだったが、ジョージ・マイケルには“エレガント”という言葉がよく似合う。“エレガント”とは──私の定義では──自分が何を好きかよく分かっていて、そのために何をすればいいかよく分かっている、ブレのない人のことを表す言葉である。ジョージ・マイケルはそういう人だった。これからいくらでも素晴らしい作品を作れたはずなのに……彼ほどのアーティストがなぜ53歳で逝かなければならないのか。作品を聴き返すほどに悔しさが込み上げてくる。

 自分にとって重大な意味を持つアーティストが亡くなると、私は心の整理のために追悼記事を書き、その人のキャリアの中で自分が最も好きな曲をひとつ選んで歌詞を和訳することにしている。他界から2ヶ月近く経った今頃になってジョージの追悼記事を書いているのは、その決定的な1曲がなかなか選べなかったためである。これは本当に難しい選択だった。悩みに悩んだ末、私はワム!時代とソロ時代から1曲ずつ選ぶことにした。

 まず、ワム!の「Blue (Armed With Love)」を訳す。シングル「Club Tropicana」(1983)のB面曲。元のスタジオ録音版は部分的にヴォーカルが入った“半インスト曲”とでも言うべき奇妙な出来だったが、'85年4月の中国公演で披露された完全な歌入りのライヴ版が、後にワム!の最終作『Music From The Edge Of Heaven』(1986)に収録された。その素晴らしいパフォーマンスの様子は、彼らの中国ツアーを追ったドキュメンタリー映像作品『Foreign Skies(異国の空)』(1986)で観ることができる(観客たちの表情も素晴らしい)

 この曲を選んだのは、当時のワム!のバンドに、後にシャーデーのツアーやレコーディングに参加することになるリロイ・オズボーン(バック・ヴォーカル)とトレヴァー・マレル(ドラム)が含まれているせいもあるが、最大の理由は、ジョージらしさが自然に滲み出たワム!時代屈指の名曲だと思うからである。ミラクルズ「More Love」をブルーにしたようなソウルフルでグルーヴィーなミディアム。陽気でイケイケなイメージが強いワム!だが、彼の書く曲には常に独特な翳りや湿り気があり、それが私は大好きだった。ジョージの空は、まるでイギリスの空のようにいつも曇っていた。“ブルー”というのは、彼の作品を形容するのにぴったりの言葉だと思う。

 ジョージよ、天国の空模様はどうだろう。こっちはすっかりブルーだ。




 Blue (Armed With Love)
 (George Michael)
 
 Every day it seems my smile's a little harder
 And every day, I seem to laugh a little less
 Living this way, it seems my sky's a little darker
 You went away and left me lonely in success
 
 日ごとに僕の笑顔はぎこちなく
 日ごとに笑うことも忘れてく
 この頃は僕の天気も曇りがち
 君は見事に僕を独りぼっちにした
 
 (Can't you see I'm falling apart)
 
 (崩れていくというのに)
 
 Can't you see what's happenin' to me
 
 君には分からないのかい
 
 Take this hand and show my fingers where my heart is
 Understand, you may just save me from despair
 Watch this man, you'll see he can't stop what he has started
 Take this hand, you'll see right now there's no-one there
 
 手をとって僕の心の在処に当ててくれ
 そうとも 君は僕を絶望から救える
 見てくれ 自分をどうにもできないこの男
 手をとって 助けが要ると分かるだろう
 
 (Can't you see I'm falling apart)
 You laugh at me as I fall
 (Can't you see I'm falling apart)
 Just tell me, tell me, give me one good reason
 
 (崩れていくというのに)
 君は呑気に笑ってる
 (崩れていくというのに)
 教えてくれ そんな仕打ちをするわけを
 
 Armed with love, I could save my heart
 But on my own, I just can't make it
 I'm too weak to fight, so take it
 Armed with love, I could save my heart
 But instead I watch you die
 
 愛が武器なら心も救える
 でも一人じゃ無理さ
 弱った僕に愛の手を
 愛が武器なら心も救える
 なのに君は死んでいく
 
 Armed with love, I could save my heart
 But on my own, I just can't make it
 I'm too weak to fight, so take it
 Armed with love, I could save my heart
 Tell me why am I so blue.
 
 愛が武器なら心も救える
 でも一人じゃ無理さ
 弱った僕に愛の手を
 愛が武器なら心も救える
 なぜ僕はこんなブルーなんだい
 
 Tell me why am I so blue.
 
 なぜ僕はこんなブルーなんだい



追悼 GEORGE MICHAEL(午後)へ続く


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