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山口百恵──謝肉祭 93



 アフロ・スパニッシュ新世代、ブイカの来日公演について書き終えたところで(2ヶ月もかかってしまった……)、フラメンコ繋がりで、ひとつ山口百恵の曲を取り上げることにしたい。

 '80年の芸能界引退から10年以上経った'90年代前半、山口百恵の曲のニュー・ヴァージョン集がシリーズで発売されたことがあった。過去のヴォーカル音源と新たなオケをミックスするという、物故アーティストでよくあるリミックス/リイマジン的なリメイク企画である。'70年代のオリジナル版を手掛けていた音楽プロデューサーの川瀬泰雄と編曲家の萩田光雄が中心になって制作した百恵の旧曲のニュー・ヴァージョンは、『百恵回帰』(1992)、『歌い継がれてゆく歌のように〜百恵回帰II』(1993)、『惜春譜』(1994)という3枚のアルバムを生んだ。それら計27曲のリメイク版は、後に『コンプリート百恵回帰』(2005)という2枚組CDにまとめられている。

 以前にもちょっと紹介したことがあるが、その中の1曲、『歌い継がれてゆく歌のように〜百恵回帰II』で発表された「謝肉祭」の'93年リメイク版が実に素晴らしいのである。これは是非、洋楽ファンにも──ジョージ・マイケルではないが──偏見なしに聴いてほしい。




 「謝肉祭」は、'80年3月21日に発売された山口百恵の29枚目のシングル曲。作詞作曲は阿木燿子と宇崎竜童の無敵夫妻。俳優、三浦友和との結婚、および芸能界からの引退が発表された後、最初に出たシングルがこれで、その歌詞は、刹那に生きるジプシー(ロマ)女のイメージに、芸能界から去りつつある当時の山口百恵の姿を重ねたものだった。“愛して 愛して 祭りは短い”という一節が、“山口百恵”という祭りの儚さを見事に表している(原曲について詳しくは過去記事“山口百恵 Momoe Yamaguchi (part 3)”を参照)

 オリジナル版の編曲を手掛けたのは、八神純子「みずいろの雨」(1978)の編曲で名を上げ、後に松田聖子作品で売れっ子になる大村雅朗。川瀬泰雄の回想記『プレイバック』(2011)によると、「謝肉祭」は一度、萩田光雄の編曲でオケが録音されたが、しっくりこなかったため、大村雅朗に新たに編曲が依頼された。大村の編曲は「Espana Cani」的な勇壮なスペイン舞曲のイメージを歌謡曲の枠に落とし込んだもの。但し、完成に漕ぎ着けるまで編曲作業は難航し、「謝肉祭」は“その試行錯誤のため、一番費用がかかったシングルになってしまった”(『プレイバック』)という。音数の多さや凝ったミックスには、確かに試行錯誤の跡が窺える。これはこれで悪くない出来だが、オリジナル版の編曲はちょっと考えすぎではないかと私は思う。本当に良い作品は、往々にして悩まず短時間で仕上がるものだ。'80年の「謝肉祭」は、スタジオ録音版より、むしろ〈夜のヒットスタジオ〉や〈ザ・ベストテン〉での番組オーケストラの演奏の方がストレートで遥かに良い。

 '93年のリメイク版「謝肉祭」で編曲を手掛けたのは、'80年に同曲でNGを出された萩田光雄だった。ルンバ・フラメンカとハウスを掛け合わせたアグレッシヴで躍動的なサウンドには、何の迷いも感じられない。山口百恵とジプシー女の魂を自然に繋いだ傑作フラメンコ・ポップだ。印象的なガット・ギターの演奏は、長渕剛らとの仕事で知られるスタジオ・ミュージシャンの笛吹利明によるもの。イントロの神秘的なエレクトロニック・サウンドは当時人気があったエニグマ、ルンバ・フラメンカの編曲はジプシー・キングスにヒントを得たものかもしれない。萩田光雄はこのリメイク版で、かつてのリベンジを見事に果たした。この'93年版こそ「謝肉祭」の真の完成版と言ってもいいのではないか。少なくとも私は、'80年のオリジナル版より'93年のリメイク版の方をより高く買う。

 上の埋め込み動画「Carnival 93」は、リメイク版「謝肉祭」が仮にシングル発売されていた場合の音楽ヴィデオを想定して、随分前('09年3月)にどこかの暇人が3日くらいかけて作ったものである。'80年3月17日放映の某歌番組での山口百恵の歌唱映像(演奏・映像共にこれが'80年の「謝肉祭」のベスト)と、カルメン・アマジャの古いバイレ(ダンス)映像が編集でミックスされている。なかなか悪くない出来で、私は今でも時たまこれを見る。

 リメイク集『百恵回帰』シリーズから実際にシングル発売されたのは「美・サイレント」「惜春通り」の2曲だったが、私はどう考えても「謝肉祭」をシングルにするべきだったと思う。同シリーズで制作されたリメイク版27曲の中で、'90年代前半にポップ・ミュージックとしてまともに通用するクオリティを持っているのは、これだけである。'93年、山口百恵は静かに復活していた。



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