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スクリーミン・ジェイの奇妙な世界【1】〜声がする



 孤高のオルタナティヴ・リズム&ブルース歌手、永遠の異邦人、スクリーミン・ジェイ・ホーキンス Screamin' Jay Hawkins(1929〜2000)の魂を蘇らせる新連載“スクリーミン・ジェイの奇妙な世界”。棺桶の蓋を開け、改めて彼の魔法にかかってみようという一種の肝試し企画である。

 ベンジャミン・クレメンタインの登場やオルタナティヴR&Bの興隆に伴って、近年、個人的にこの人への再評価熱が高まっていた。ヴードゥーやジャングルをモチーフにした数々の珍曲や怪曲、マント姿で棺桶から登場する奇抜なパフォーマンスによって、単にキワモノ視されることも多いスクリーミン・ジェイ・ホーキンスだが、その歌の根底には人間の普遍的な魂の叫喚がある。彼は誰もが抱えるような苦しみや悲しみを、誰も持ち合わせないユーモアと歌唱力で表現した稀有なアーティストだった。また、アフリカ系アメリカ人である彼は、いかなる人種的立場も取らず、公民権運動とは全く違う地平から人々の差別意識や偏見に挑んだ真のアウトサイダー/挑発者でもあった。彼は誰にとっても奇妙な存在──いわば、完全なる異邦人(エイリアン)であり、そういう意味では(お化けや怪物と同じように)彼の音楽は受け手を選ばないと言える。好きか嫌いかはまた別の話だが、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスが好きな人に悪い人はいない、というのが私の持論である。彼の歌声を聞き流すことはできない。耳を塞ぐか、身を委ねるか。一度聴いたが最後、彼の歌声はあなたの魂と横隔膜を容赦なく揺さぶるだろう。

 彼の一世一代のヒット曲「I Put A Spell On You」(1956)については、3年前の記事で詳しく書いた。今回の連載では、それ以外の彼の名曲を毎回ひとつずつ歌詞拙訳と共に紹介していきたい。私の音楽ファン人生を賭けた構想25年の魂の企画だが、実際に始めようと思ったのは2日前のことなので、2回目以降のことはまだ何も考えていない。50回くらいまで続くかもしれないし、1回で終わるかもしれないが、とりあえず不定期連載という形で、いつでもスクリーミン・ジェイについて語れる環境を作っておきたい。

 記念すべき第1回で取り上げるのは、「I Put A Spell On You」さえも凌ぐ怪奇ブルースの大傑作曲「I Hear Voices」(1962)。あなたにも“声”が聞こえるか?!




 I Hear Voices
 (Hawkins)
 
 Man don't stand a chance
 In a one-sided romance
 Most lovers are blind
 The rest just lose their minds
 
 報われることのない
 呪われた片想い
 恋する者はみな盲目
 でなきゃ頭がおかしくなる
 
 I hear voices...!
 I hear the foot-tracks...!
 I smell them looking...!
 
 声がする…!
 足音がする…!
 気配がする…!
 
 I'm so sad with regret
 Cos I ain't been happy yet
 And I don't expect to be
 Not the way love treats me
 
 この境遇が恨めしい
 俺は不幸の淵にいる
 幸せは訪れない
 愛はかくも容赦ない
 
 I hear voices again...!
 There it is, I tell ya, I hear them!
 I even hear the foot-tracks...!
 I smell them looking...!
 
 また声がする…!
 ほら 聞こえてくるぞ!
 足音もする…!
 気配がする…!
 
 I long so much to be
 Where I was before I was me
 My mind can't stand the strain
 Wow, my heart's in awful pain
 
 こんなことになる前の
 かつての自分に戻りたい
 こんな重圧には耐えられない
 苦しみで胸が張り裂けそうだ
 
 I hear voices...!
 There it is!
 I hear, oh, I hear the foot-tracks...!
 I smell them looking...!
 
 声がする…!
 ほら!
 聞こえるぞ 足音が…!
 気配がする…!


※歌詞は聞き取りによるものです。部分的に誤りがある可能性があります。また、和訳は飽くまでイメージです。部分的に誇張や演出が含まれていることを御了承ください。


I_Hear_Voices2.jpg
I Hear Voices
7": Enrica Records 1010, 1962 (US)

Side 1: I Hear Voices (2:34)
Side 2: Just Don't Care (2:20)

Performed by Screamin' Jay Hawkins and The Chicken Hawks with Teddy McRae Orch.

 「I Hear Voices」は、キャブ・キャロウェイ、ジミー・ランスフォード、ライオネル・ハンプトン、ルイ・アームストロングといった数々の有名楽団を渡り歩いてきた黒人テナー・サックス奏者、テディ・マクレエが設立したEnrica Recordsというニューヨークの弱小レーベルから'62年に発売されたスクリーミン・ジェイの単発シングル曲。盤面のクレジットによると、演奏はジェイの専属バンドのチキン・ホークスと、テディ・マクレエの楽団が担当している。B面は「I Put A Spell On You」と似たような恋煩いを歌った軽快なシャッフルR&Bナンバー「Just Don't Care」。売れなかったらしく、このシングルは同レーベルから出たスクリーミン・ジェイの唯一のレコードとなった。

 しかし、この「I Hear Voices」がスゴい。約2分半、曲が始まった瞬間からフェイドアウトで音が途絶える最後の瞬間まで、尋常でなく怪しい空気が漂っている。すべての音が怪しい。ジェイの叫喚はいつも以上に切迫し、自分に取り憑く得体の知れない“声”をスキャットで表現するサビでは完全に錯乱状態に陥る。まるで奈落の底の阿鼻叫喚を吊るしマイク一本で録ったような曲だ。ジェイは「I Put A Spell On You」と同じマイナー調三拍子の“呪文リズム”を使って多くの名曲を生んだが、「I Hear Voices」はその中でも最狂と言うに相応しい作品である。音像の怪しさでは「I Put A Spell On You」も優に超える。こんなに怪しくて血迷った曲を私は聴いたことがない。

 音だけ聴くと単なるコケおどしの荒唐無稽なノベルティー・ソングに聞こえるかもしれないが、歌詞に耳を傾ければ、そうではないことが分かる。実はこれ、失恋の歌なのである。スクリーミン・ジェイは、成就する見込みのない片想いの心痛を歌っている。片想いに陥った者は、失意のどん底で胸が潰れるような苦しみを味わい、様々な想念や妄想に苛まれてのたうち回る。自分を追い詰め、着実に精神を狂わせていく失恋の強迫観念を、ジェイは超常現象的な“声”で表現した。この発想力が凄いし、それを見事に具現化してしまうパフォーマンス力も凄い。一体、誰にこんな失恋ソングが作れるだろうか?

 ザ・ウィークエンドことエイベル・テスフェイが、アルバム『Kiss Land』(2013)発表時のインタビューで“レコードから叫び声やぞっとするような音が聞こえたら、音楽に耳を傾けて僕の感じていることを感じて欲しい。『Kiss Land』はホラー映画みたいな作品なんだ”と言っていたが、スクリーミン・ジェイはその半世紀以上も前からリズム&ブルース分野で同じような作品を作っていた。'10年代以降のオルタナR&Bサウンドを形容する際によく使われる“アトモスフェリック”という言葉は、「I Hear Voices」にもそのまま当てはまるだろう。ジェイの作品がいかにドープでオルタナティヴか、この1曲だけでも十分に分かってもらえると思う。


BITE IT!──スクリーミン・ジェイ・ホーキンスを聴いてみよう

I_Hear_Voices3.jpgI_Hear_Voices4.jpg
Voodoo Jive: The Best Of Screamin' Jay Hawkins (1990)
Portrait Of A Man: A History Of Screamin' Jay Hawkins (1995)


 今すぐスクリーミン・ジェイ・ホーキンスのCDが欲しいが、何を買っていいか分からない!という血迷える人のために、お薦めの入門盤を紹介しておく。オリジナル・アルバムもそれなりの数が出ているスクリーミン・ジェイだが、彼の凄さを知るには、様々な時代やレーベルに散らばっているおいしい曲をまとめた編集盤を聴くのが一番だ。ここでは2枚のCDを厳選して紹介する(「I Hear Voices」はどちらにも収録)

 米Rhinoから出た『Voodoo Jive』は、代表曲「I Put A Spell On You」が生まれたOkeh/Epic Records在籍時('56〜'58年)の録音を中心に、それ以降の佳曲も収録した'50〜'60年代のベスト盤。全盛期(?)のスクリーミン・ジェイの魅力が凝縮された強烈な一枚だ。手堅い選曲・曲順とアートワーク、丁寧な英文解説とデータ編纂に加えて、このベスト盤は音質も素晴らしい。収録曲が重複する他のCDを持っていても手元に置いておく価値がある優れものだ。

 その5年後に英Edselから出た『Portrait Of A Man』は、Okeh時代以前の'54年録音から、ジャームッシュ映画によるリバイバル人気で再び活動が活発化した'90年代の最新録音まで、より包括的にスクリーミン・ジェイの歴史を捉えた'50〜'90年代のベスト盤。キース・リチャーズがギターで参加した'80年のシングルAB面曲(「I Put A Spell On You」「Armpit No. 6」)など、かなりレアな音源も混じっている。ブレのない芸風と衰えることのないパワーにただただ圧倒される。このベスト盤は、かつて『怪奇! R&Bの宴』(後に『R&B怪人の肖像〜スクリーミン・ジェイ・ホーキンスの歴史』)という邦題で、日本語解説付き直輸入盤がP-Vineから出たこともあった。

 ちなみに、スクリーミン・ジェイを紹介する際によく定番として挙げられる『Cow Fingers & Mosquito Pie』(1991)は、貴重な別テイク録音も含むOkeh時代のマニア向け編集盤だが、今では彼の1stアルバム『At Home With Screamin' Jay Hawkins』(1958)のボーナス・トラック付き再発CDでその全曲を聴くことができる(尚かつ、後者は曲数も増えている)。今となっては役目を終えた編集盤なので、これからスクリーミン・ジェイを聴く人は『At Home With〜』だけ購入すれば良い。但し、それでも『Cow Fingers〜』は「I Put A Spell On You」をレアなオリジナル・エンディング版で収録している点で侮れないのだが(過去記事でも書いた通り、「I Put A Spell On You」は発売当初、エンディングのジェイの呻き声が食人風習を思わせるという理由から、エンディング部分だけすぐに別の録音に差し替えられた。『Voodoo Jive』『Portrait Of A Man』『At Home With〜』を含め、一般的な盤に収録されているのは差し替えヴァージョン)、それを入手したい人には『Cow Fingers〜』ではなく、イギリスの廉価盤レーベル、Not Now Musicから出た不吉ブルースのV.A.編集盤『Voodoo Blues: The Devil Within』(2010)をお薦めしておく。

 ここに挙げた2枚のCDは私が長年にわたって愛聴しているもので、いずれも自信をもってお薦めできる。これらを聴けば、あなたもばっちりスクリーミン・ジェイの魔法にかかること請け合いだ。決して、ひとりでは聴かないでください。


スクリーミン・ジェイの奇妙な世界【2】へ続く

Screamin' Jay Hawkins──お前に魔法をかけてやる(2014.12.22)

| Man's Man's Man's World | 07:00 | TOP↑

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