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Keziah Jones @ Blue Note TOKYO 2017



 キザイア・ジョーンズのコンサートを観た。

 3ピース+パーカッションの4人編成で発汗の腹筋ファンク・ショウを繰り広げた'15年4月のブルーノート東京公演から2年4ヶ月ぶりの来日。『Captain Rugged』(2013)以降、なかなか次のアルバムが出ないキザイアだが、この人の場合は新譜なしでも来たらとりあえず行くしかない。

 場所は前回と同じくブルーノート東京。今夏、キザイアはジョーイ・グラント Joey Grant(ベース)、マクナスティ MckNasty(本名 Joshua McKenzie/ドラム)と組んだ3ピース・バンドでヨーロッパのフェス廻りをしていて、今回の来日公演ももともと同編成で行われる予定だったのだが(来日1ヶ月前の7月13日、仏ジャズ・フェス〈Jazz à Vienne〉出演時のフルライヴ映像がYouTubeで見られる)、公演一週間前に急遽、“アーティスト側の意向により”、キザイアのソロ・パフォーマンスに変更になった。彼のショウはトリオ編成が常例なので、デビュー前のようにギターの弾き語りだけで勝負する今回のソロ公演は逆に貴重である。一体、どんな内容になるのか。前月に発表されたプリンスのカヴァー曲「Joy In Repetition」にも期待しつつ会場に向かった。


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ブルーノート東京、開演前のキザイアのステージ

 ブルーノート東京で8月6日(日)〜7日(月)の2日間、計4回行われた今回のキザイア・ジョーンズ来日公演。私が観たのは最終公演となる7日の2ndショウ。

 定刻の21時を少し過ぎたところで颯爽とキザイア登場。白パーカーに白パンツという軽装で、頭にはいつも通りホンブルグ・ハット(ベージュ)を斜めに被っている。ステージへ向かう足取りは軽快そのもので、まるでリングに上がるボクサーのようだ。身体全体のバネが違う。歩き方からして常人と違うのだ。鍛えているのか、それとも単に体質なのか、体型も相変わらず超スリム。全くあり得ない49歳である。この人の体脂肪率は一体いくつなのだろう?

 “やあ、みんな、元気? 今日はアコースティックな雰囲気で行くよ。色んなアルバムからの曲を即興も交えてやるからね”──ステージ中央のイスに腰掛けてそう挨拶した後、愛用のエレキガット・ギターを穏やかに爪弾きはじめた。

 まずは4thアルバム『Black Orpheus』(2003)から「Femiliarize」「Neptune」「Wet Questions」の3曲を立て続けに披露。奇妙な和音やコード進行を持った独特のブルージーな楽曲が、クラシックやフラメンコ・ギターの奏法とベースのスラップ奏法を混ぜたような、これまた独特なギター伴奏で歌われていく。ソロ・パフォーマンスだと、やはりその演奏スタイルの特異さが際立つ。彼はギターでメロディを奏で、コードを奏で、同時に弦やボディをひっぱたいてリズムを奏でる。メロディ、コード、リズムという音楽の三大要素が、ギター1本にすべて集約されているのだ。なので、ベースとドラムなしでも全く物足りなさを感じさせない。こうした演奏技術は、やはりロンドンやパリの路上でバスキングをしていた下積み時代に自然と培われたものなのだろう。

 キザイアのそうした多彩なギター演奏は、エフェクターで更に広がりを見せる。今回の公演では、トレモロ、ピッチシフター、ワウワウの3種類が使われていたが、中でもトレモロは使用頻度が高く(キザイア側から見て一番右のペダルがそれだった)、その細かな音の揺らぎ──水をイメージさせる──は、彼の風変わりなブルースに更なる捻れ感覚と不思議な透明感を与えていた(「Wet Questions」ではこのトレモロ・エフェクトが最高にハマっていた)

 ギター演奏ばかり注目されるキザイアだが、今回の公演ではヴォーカリストとしての彼の魅力もたっぷり堪能できた。前回はほとんど聞かれなかったファルセット歌唱も、今回は序盤から全開。この人は3rd〜4thアルバムから表現の幅が広がり、歌手としてもどんどんコクを増している。私は特に彼の艶っぽいファルセットが大好きだ。弾き語りゆえ、今回は自然と歌唱にも力が入っていて、ブルース&“ソウル”歌手としてのキザイアをしっかり示してくれたのが嬉しい。

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ラゴスの黒いオルフェ、キザイア・ジョーンズ(前日、8月6日の公演)

 ギタリストとしての魅力、ヴォーカリストとしての魅力の他に、今回の公演でもうひとつ浮き彫りになったのは、ソングライターとしてのキザイアの魅力だろう。装飾を削ぎ落とした弾き語りだと、当然ながら楽曲そのものの力が物を言う。“ブルーファンク”のひとことで片付けられがちなキザイアだが、彼の魅力は決してそうしたソリッドでブルージーなファンク・サウンドだけにあるのではない。今回は定番の1st『Blufunk Is A Fact!』(何気に今年で25周年)時代の初期楽曲と、彼がアーティストとして大きく飛躍した4th『Black Orpheus』からの楽曲を中心に、独特の詩情を持った様々なタイプの曲をじっくり聴かせてくれた。

 独演会らしく、キザイアは時折くだけた口調で曲紹介もした。トークは落ち着かないのか、喋っている間中、ずっと貧乏揺すりをしているのが面白い(演奏に入るとそれがピタッと止まる)。4曲目の「Where's Life?(『Blufunk Is A Fact!』収録)を歌い終えた後、彼はこんな風に説明してくれた。

「今のは“運命(Destiny)”と“宿命(Fate)”についての歌なんだ。低い声が“運命”で、高い声が“宿命”。2つが対話してるんだよ」

 彼の言う通り、「Where's Life?」は地声とファルセット歌唱を使い分け、“運命”と“宿命”という似たもの同士の対話を描いた寓話的な歌である(アルバム・ブックレット掲載の歌詞では“Fate”ではなく“Chance”となっている)。こういう一風変わった歌詞のセンスや、“黒いオルフェ”を自負する彼の吟遊詩人/ボヘミアン的なキャラ──要するにスナフキンっぽい──は、同じく路上出身者で、やはりヨーロッパ(特にフランス)で人気が高いベンジャミン・クレメンタインに近いものがある。ジミヘン好きという点も一緒だ。キザイアはギター弾き、ベンジャミンはピアノ弾きだが、この2人は実によく似ていると思う(どこかで共演してくれないか……)

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さすらいのブルーファンカー、キザイア・ジョーンズ(前日、8月6日の公演)

 今回、ブルーファンクは封印されていたのかと言うと、もちろんそんなことはない。腹筋こそ見せなかったが、ギター1本の弾き語りでもファンクするのがキザイアだ。色の濃い木目のエレキガット・ギターに持ち替えた5曲目は、1stアルバム冒頭の重量級ファンク「The Wisdom Behind The Smile (Cash)」。切れるんじゃないかと思うほど強く弦を叩いては弾き、合間に右手でフィンガースナップまで入れながら(指弾きだからこそできる技!)見事に激震のグルーヴを生み出す。ほとんどスラップ・ベース状態だが、途中に挟んでくる“デロデロデロ……”というトリル音や、サビでの歯切れの良い高音カッティングは紛れもなくギター。リフを強調するユニゾンのスキャット歌唱の決まり具合も最高だ。ステージには通常のマイクの横にもう1本、ハーモナイザーが掛かったマイクが用意されていて、それを使ってバック・ヴォーカルもしっかり加える。終盤ではワウ・ペダルを使った赤熱のギター演奏で更にファンク度を上げてみせた。スゴい。キザイアはバンド要らずの男だ。“劇団ひとり”ならぬ“楽団ひとり”。ブルーファンクの真髄を見せられたような気がした。

 ファンク系では、「All Praises」「Beautiful Emilie」に続いて披露された「Kpafuca(3曲とも『Black Orpheus』収録)も凄かった。それまでのキザイア流ファンクに更にアフロビート色が加わった“アフロ・ブルーファンク”な痛快ナンバー。前回の来日公演でも披露された彼の定番曲だが、今回の弾き語りパフォーマンスはゴツゴツしたパーカッシヴなリフの響きが強烈だった。キザイアのファンク・ヴァイブがダイレクトに伝わってくるので、パーカッション奏者を伴った前回のフルバンド演奏よりむしろアツく感じられたほど。ギターを半ば打楽器のように扱う彼のパフォーマンスは、弾き語りと言うより“叩き語り”と言った方が近いかもしれない。バナナの叩き売りなら知っているが、ファンクの叩き語りというのはちょっと聞いたことがない。

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紫のヴァイブを発するキザイア・ジョーンズ(前日、8月6日の公演)

 ロカビリー調のベースラインを弾きながら素晴らしいブルース歌唱を聴かせた「Inside Out And Upside Down」、同じく初期の楽曲「What We Don't Know」「The Invisible Ladder」の名演が続いた後、コンサート終盤で遂に“あの曲”が来た。

 即興でしばらくブルージーな演奏を続けた後、いきなり“Holding someone is truly believing...”と歌い出したキザイア。プリンス「Joy In Repetition」!!!!

 ちょうど1ヶ月前の7月7日、キザイアはこの曲のカヴァー版をシングルとして配信リリースしていた。キザイアの多重ヴォーカル&アコギ、ベース、ドラムのトリオ演奏による入魂のブルーファンク解釈。今回の来日公演の最大の目玉曲は間違いなくこれだった……はずなのだが、公演当日の昼にアップされたブルーノート東京HPのライヴ・レポによると、前日、8月6日の公演ではなぜかこの曲がセットリストになく、代わりに「When Doves Cry」(!)が披露されていたYouTubeで過去のキザイアの演奏が見られる。めちゃめちゃブルージー)。「When Doves Cry」も確かに魅力的だが、どうせなら私は「Joy In Repetition」が聴きたかった。この曲を取り上げる人間は滅多にいないし、キザイアのカヴァーは全く彼独特の素晴らしいものだったからだ。有名曲ではないので受けないと思ったのか、それとも長い歌詞を覚えていないのか。もしかしたらやらないかも……という不安を抱えて会場に向かったので、キザイアの口から“Holding someone is truly believing...”という一節が飛び出したときは息が止まりそうになった。

 キザイアの独演「Joy In Repetition」は期待以上のものだった。バンド編曲のスタジオ録音よりストレートにブルース色が出て、尚かつ、ジミ・“紫煙”・ヘンドリクスという共通項を介して自然と紫味が強まっている。歌詞もガッツリ覚えていたし、歌唱もしなやかで力強く、一節一節に気持ちがこもっているようだった。スタジオ録音版が発表される少し前にYouTubeで動画が公開されたパリのラジオ番組での独演ライヴ版('17年6月22日公開。使用ギターはレス・ポール。歌詞の後半が一部端折られていた)より遙かに良い。フィンガースナップでリズムをとりながら弾き語る姿や、終盤でのワウ・ペダル使いにもグッと来た。プリンスのオリジナル版とは大きく趣が異なるが、キザイア自身の魂の共振がそのまま表出したような演奏は、3年前にビルボードライブで聴いたミシェル・ンデゲオチェロの「Purple Rain(ミシェルは今年秋に「Sometimes It Snows In April」のカヴァーを発表する)と同じくらい独創的で感動的なものだった。

 演奏が終わった瞬間、客席からドッと拍手歓声が沸き起こった。会場にはプリンス・ファンも少なからず訪れていたらしく、この日一番の大喝采。あまりの反響の大きさにキザイアもちょっと驚いた様子で、“プリンスの曲だよ。この曲、大好きなんだ。歌詞もいいんだよね。繰り返しの中に歓びがある(There's joy in repetition)……って、深いよね”と嬉しそうに言っていた。確かに、「Joy In Repetition」でここまで盛り上がるのは日本の観客くらいかもしれない(笑)。

「最後の曲をやるよ。来年、バンドを連れてまた来るからね。東京は最高さ。ナイスな人ばかりで、皆すごく熱心に聴いてくれる。日本の伝統曲は知らないけど、皆で一緒に歌えるよう、来年まで何か覚えておくことにするよ(笑)。これは伝統曲じゃなくて僕の曲だけど、ここでひとつ一緒に歌ってみないか」

 そう言ってキザイアは定番曲「Secret Thoughts(『Live EP』収録)のリフを弾き始めた。それまでずっとイスに座っていたキザイアだが、この最終曲は立ち上がってのパフォーマンス。後ろにギターを回し、右手で開放弦を弾きながら歌うお馴染みの光景だ。スラッとした立ち姿はやはり凄まじく絵になる。男性客と女性客に分けてサビのスキャット──男性は地声でいかつく、女性は裏声で色っぽく──を歌わせるユーモラスなコール&レスポンスで盛り上げた後、キザイアは一旦ステージを後にした。

 観客の興奮は収まるはずもなく、2分後、アンコールに応えてキザイアがステージに舞い戻ってきた(本当に舞うように軽やかに)。アドリブで少しギターを弾いた後、彼が歌い出したのはお約束の必殺デビュー曲「Rhythm Is Love」。「Secret Thoughts」と同じく立った状態でのパフォーマンス。何千回、何万回と演奏してきたに違いない彼の定番中の定番曲だが、デビュー前と同じソロの“叩き語り”による今回の「Rhythm Is Love」は、いつにも増して切れ味の鋭いものだった。後半にはワウを使ったファンキーなブレイクダウンもあり、観客は大興奮(すっかり聴き入ってしまったが、これ、サラ・アン・ウェブのパートを皆で歌うべきだった)。キザイアのソロ公演は、まさに“ブルーファンクここにあり!(Blufunk is alive!)”という感じで締め括られた。


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絶対に上手く撮影できないブルーノート東京の看板(夜は特に難易度が高い)

 全14曲、65分。思いがけなく実現した今回のキザイア・ジョーンズのソロ公演は、本当に素晴らしいものだった。彼の原点であるギターの弾き語りと、そこから約30年間の彼の成熟を同時にたっぷり堪能することができた。充実した最近作2枚から1曲も聴けなかったのは少々残念だが(またしても……)、私の満足度はバンド編成の前回の来日公演より遙かに高いものだった。この弾き語りセットでツアーをやったり、ライヴ盤を作っても良いのではないか。それくらい濃密なパフォーマンスだった。至芸というのはこういうことを言うのかもしれない。

 今回、キザイアの独演を聴きながら私がつくづく素晴らしいと思ったのは、間違いを恐れない彼の姿勢である。キザイアの演奏にはミストーンも結構多い。が、彼はそんなことはまるでお構いなしに、ギターの弦やボディを激しく叩き、ひたすらその場の乗りと勢いで音を紡いでいく。ミスのない完璧な演奏など、恐らく端から目指していないのだろう。キザイアの演奏を聴いていると、その瞬間の自分の心のヴァイブレーションを音にすることしか考えていないのではないかという気がする。なので、高度な演奏技術を持っているにもかかわらず、彼の演奏からはちっとも技巧的な感じがしない。彼のそういう姿勢は、事前にセットリストを組まず、その場の気分で演奏曲を決めるショウの進行にも表れていた。ラフと言えばラフだが、こういうことはパフォーマーとして余程の自信と勇気がなければできないことだと思う。キザイアの演奏は猛々しく、そして気高い。そこには裸のソウルがあるのみだ。

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6年前、某所にて。キザイアの「Joy In Repetition」はこの光景に近いものがあった

 今回は前回より観客の反応も明らかに良かった。これは恐らく、パフォーマンスの素晴らしさに加え、客席にかなりの数のプリンス・ファンがいたせいだろう(実際、昨年秋のfデラックス来日公演や今年春のNPG来日公演のときにいた人を会場で何人か見かけた)。プリンスとキザイアのファン層は昔からかなり重なっているとは思うが、プリンスの他界によって行き場を失った、いわば“プリンス難民”が、「Joy In Repetition」のカヴァーもきっかけに、今回、特に多く会場に詰めかけたのではないか。プリンス・ファンというのは、洋楽アーティストの観客の中でもとりわけ乗りの良い人々である(私は“パポピ”と呼んでいる)。そして、彼らは本当に熱心でマニアックな音楽ファンでもある。そういう人たちによってキザイアが再発見されるのは素晴らしいことだと思う。プリンスと同様、キザイアは唯一無比の音楽道を行く本当にエレガントなアーティストだ。前回来日時はディアンジェロのリスナーを意識して記事を書いたが、今回はプリンス・ファンにキザイアを聴くことを強くお勧めしておきたい。

 新年には待望のニュー・アルバムも発表されそうなキザイア。日本でこれまで以上に彼のファン層が広がり、ブルーノートやビルボードライブだけでなく、もっと大きなスタンディング会場で再び彼が公演できるようになることを願っている。


01. Femiliarize
02. Neptune
03. Wet Questions
04. Where's Life?
05. The Wisdom Behind The Smile (Cash)
06. All Praises
07. Beautiful Emilie
08. Kpafuca
09. Inside Out And Upside Down
10. What We Don't Know
11. The Invisible Ladder
12. Joy In Repetition [Prince cover]
13. Secret Thoughts
-encore-
14. Rhythm Is Love

Blue Note Tokyo, August 7, 2017 (2nd show)
Personnel: Keziah Jones (vocals, guitar)

Keziah Jones: Japan Tour 2017
August 6 - Blue Note Tokyo (2 shows)
August 7 - Blue Note Tokyo (2 shows)



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