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ALFONZO お前は誰だ?

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 今年最大の衝撃は何と言ってもマイケル・ジャクソンの急逝だが、それに次ぐ衝撃を私にもたらしたのが、この見るからに怪しげな1枚のアルバムだった。2009年の最後はこの記事で締めることにしたい。

 今年の夏のある日、レコード屋のSOUL/R&Bのコーナーをふらふらと歩いていると、一人の男と目が合った。白いジャケットを着て、どこかで見たことがあるポーズを決めながら、軽い笑みを浮かべる男。ペーパー・スリーヴのそのCDジャケの左上には、赤字で大きく“ALFONZO”と書かれている。こ、これは……? レコ屋の推薦文によると、どうやらマイケル・ジャクソンのフォロワーで、'82年の作品が初CD化されたものであるらしい。明らかにデンジャラスな臭いがする。その場で試聴はできなかったが、ジャケをまじまじと見つめて3分ほど悩んだ後、結局、私はこれをレジに運んだ。

 今夜はALFONZO……。6月末からひたすらマイケルばかり聴き続けていた私は、帰宅後、そんな気分でこの謎のアーティストの歌声に耳を傾けた。

 アルフォンゾ。フルネームはアルフォンゾ・ジョーンズ Alfonzo Jones という。 
 
 結論から言うと、これは、20年に1枚あるかないか、というくらいの大当たり盤である。全くアンビリーバブルとしか言いようがない全8曲。見事なまでにジャケ通りの音がする。『ALFONZO』は、ある意味、『OFF THE WALL』よりも意外で、『THRILLER』よりもスリリングな作品だ。ここには、もう一人の知られざる“マイケル・ジャクソン”がいるのである。


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ALFONZO
LP: Larc Records LR 8101, 1982 (US)
CD: Mytown Records MTR-1867-376, 2007 (US)


Side 1: Your Booty Makes Me Moody (5'31") / Low Down (4'02") / Change The World (5'54") / Ready For Your Love (3'43")
Side 2: Girl, You Are The One (5'01") / Don't Stop This Feeling (4'36") / I Wanna Give You My Love ('Till You Scream) (3'45") / Action Speaks Louder Than Words (3'45")

Produced, Arranged, Engineered: Clay McMurray

 プロデュースは、'70年代前半にMotownでグラディス・ナイト&ザ・ピップス(「If I Were Your Woman」)などを手掛けていたクレイ・マクマレイ。ラトーヤ・ジャクソンのシングル「Bet'cha Gonna Need My Lovin'」(1983)や、シャイ・ライツ『BOTTOM'S UP』(1983)を出しているロサンゼルスのマイナー・レーベル、Larc Recordsから発売された。正確な発売日は不明だが、オリジナルのアナログ盤レーベル面のクレジットでは、出版年が'82年とされている。ジャケは明らかに『THRILLER』('82年11月30日発売)をパクったものなので、'82年12月~'83年初頭に世に出た作品と思われる。これが四半世紀経って、クレイ・マクマレイ自身のレーベル、Mytown RecordsによってCD化された(盤起こし)。

 ファンキーなリフに歯切れの良いホーンが絡む1曲目「Your Booty Makes Me Moody」で、いきなり耳を疑う。ゴージャスで耳触りの良いクインシー・ジョーンズ風のサウンド・プロダクション、ジャクソンズ「Things I Do For You」風の楽曲もさることながら、そこで歌っているのは、どう聴いてもマイケル・ジャクソン。声質も似ているが、歌唱法、ちょっとした節回しの癖に至るまで、まさにマイケルそのものなのだ。“フォ~!”“ア~オゥ!”といった、いかにもなシャウトには多少わざとらしさも漂うが、“風邪気味のマイケル・ジャクソンが歌うレア音源”とでも説明すれば、本気で信じる人もいるのではないか。

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 2曲目、ボズ・スキャッグスのカヴァー「Lowdown」のキマり具合も素晴らしい。『THRILLER』同様、TOTO(D・ペイチ&J・ポーカロ)色を巧みに取り入れる“本物っぽさ”がコワい。いかにもマイケルが歌いそうな曲を、いかにも歌いそうな感じで歌っているのである。ファルセットを駆使して情感たっぷりに歌われる3曲目のスロー「Change The World」は、シングル・カットもされた本作のハイライト・ナンバーのひとつ。“銃やナイフが蔓延るこの冷たい世界に負けるな。さあ、僕らの住む世界を変えよう”──詞の浅さは否めないものの、ここには、フォロワーのくせに本家の作品(「We Are The World」「We Are Here To Change The World」「Heal The World」)を先取りしたような鋭さがある。イントロの“オォ~ゥ!”のシャウトの中途半端さがたまらない4曲目のアップ「Ready For Your Love」も、『OFF THE WALL』のアウトテイクかと思うくらいの切れ具合だ。

 B面冒頭のシングル曲「Girl, You Are The One」は、楽曲的にもタイトル的にもジャクソンズ「Lovely One」を思わせるミディアム・テンポのディスコ・ファンク。生意気なことに、「Lovely One」よりもカッコいい。「Change The World」と並ぶ本作のベスト・トラックであり、大ヒット間違いなしの激キャッチーな名作なのだが、ヒットしたという話は聞かない。残りの3曲(バラード1曲、ダンス・ナンバー2曲)も最高で、『OFF THE WALL』『THRILLER』、あるいは、ジャクソンズ『DESTINY』『TRIUMPH』のどこかに入っていそうだが、探してみるとどこにもない、という、不思議な既聴感を喚起する名曲になっている。

 とにかく、凄まじくクオリティの高いアルバムである。しかも、驚くべきことに、全8曲中、ボズ・スキャッグス「Lowdown」を除く7曲をアルフォンゾ自身が書いているのだ。彼はソングライターとしてもマイケル並に非凡な才能を見せている。

 『OFF THE WALL』と『THRILLER』の間にマイケルの未発表アルバムがあったら、これに近かったかもしれない(つまり、テイスト的には『TRIUMPH』によく似ている)。『THRILLER』の発表前、整形に失敗したマイケルが“ALFONZO”という名前で再デビューしようとしていた話はあまり知られていない……などというデマを流しても、案外真実味を帯びてしまいそうな完成度。『ALFONZO』は、マイケルの魅惑的な“擬似ヒストリー”に私たちを誘う。

 余裕で500万枚くらい売れてもおかしくないアルバムだが、もちろん売れなかった。なぜかと言えば、みんな『THRILLER』を買ったからである。マイケル・ジャクソンがこの世に存在しなければ、アルフォンゾは大スターになっていたかもしれない。しかし、マイケル・ジャクソンがいなければ、『ALFONZO』という作品はこの世に存在しなかったのである。『ALFONZO』は、そのような悲劇的撞着を運命的に背負った、まさに“幻”の傑作である。


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CHANGE THE WORLD
7": Larc Records LR 81011, 1982 (US)

Side 1: Change The World (3'34")
Side 2: Backstabbers (3'49")

Produced, Arranged, Engineered: Clay McMurray

 シングル「Change The World」のB面には、アルバム未収のオージェイズのカヴァー「Back Stabbers」が収録されている。アップ・テンポのディスコ調アレンジで、マイケルも顔負けのダンシング・マシーンぶりで弾けまくる。初期ジャクソンズのフィリー・コネクションを考えれば、十分にあり得る展開である。はっきり言って、完全にエピゴーネンの域を超えている。この「Back Stabbers」はCD『ALFONZO』にも収録されていないので、結構レアだ(私はこのシングルを4ドルで買ったが)。A面の「Change The World」は、30秒のインストの前奏をカットした短縮版で収録。アルバム『ALFONZO』の8曲に、このシングルB面「Back Stabbers」を加えた9曲が、私の知る限り、アルフォンゾの全リリース音源である。


 アルフォンゾはロサンゼルスのサウス・セントラルで育った。彼を見出したプロデューサーのクレイ・マクマレイによると、“FONZはキング・オブ・ポップに似た持ち味の凄い才能の持ち主だ。しかし、その独自のサウンドと歌詞が、彼をエキサイティングで魅力的なソロ・アーティストとして際立たせている”。

 これはCDBabyに掲載されているアルフォンゾのアーティスト情報である。そして、これがアルフォンゾの経歴に関して、現在入手し得る最も詳しい情報である。

 最強のMJエピゴーネン、アルフォンゾ。彼は今、どこで何をしているのか。恐らくマイケルと同じくらいの年齢だろうから、元気で生きていれば、今頃50歳前後になっているはずだ。彼は『ALFONZO』の後、一体どのような人生を歩んだのだろうか?


 このアルフォンゾ、知っている人は昔から知っているのだろうが、私は今年になるまで見たことも聞いたこともなかった。そして、恐らく多くの人はいまだ彼の存在を知らないままでいる。当時、国内盤も発売されず、日本では(というか、日本でも)全くと言っていいほど知られることのなかったアーティストだと思うが、今、『今夜はアルフォンゾ』という邦題で帯付き紙ジャケCDを出せば、本気でかなり売れるのではないか。『ALFONZO』は、今こそ世界中のマイケル・ファン(の1割くらい)に聴かれるべき奇蹟の名盤である。

 毎日マイケルばかり聴いているあなたも、さあ、今夜はアルフォンゾ……。


『ALFONZO』全曲試聴
シングル「Change The World」「Backstabbers」試聴

※CD化された『ALFONZO』では、6~7曲目がなぜかトラックリストとは逆の順序で収録されている。オリジナルのアナログ盤は未入手なので、元からのミスかどうかは不明。



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