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蒼い時



  ある朝、「蒼」を感じた。
 
  春の終わりのある夜、何故だか眠れず、ひとり部屋で、ただ時が過ぎていくことだけを感じながら座っていた。
  こんな夜は、静かに自分の全てを時の流れの中に投げだしていたい。
  何気なく見上げた窓が、ほんの少しだけ、夜よりも明るい色に変わっていた。
  見つめていると、窓ガラスを一枚隔てた外の色がどんどん変化していった。
  小鳥たちのさえずりが聞こえた。
  目覚めたのだろう。
  聴覚から視覚へ意識を戻した時、窓全体があおかった。
  その「あお」は、私にとっては「青」ではない「蒼」という字のそれだった。
  その色は、また僅かな間に、次の朝の色に変わっていった。
  ほんの一瞬といってもいいほどの蒼い時。
  一日の出来事の終点であり、また新たなる一日の始まりの時である。
  まさに今、私の時である。


 この瑞々しい文章は、山口百恵が引退の折に書いた自叙伝『蒼い時』(1980)の一部である。夜と朝の間に一瞬だけ訪れる静謐な“蒼い時”。先日他界したエリック・ロメールが、映画『レネットとミラベル/四つの冒険』(1986)の中の一話「青い時間」で、この瞬間を体験する少女2人の物語を描いている。『蒼い時』のこのくだりを読んだ時、ああ、山口百恵もロメールの少女たちと同じ体験をしたのだな、と思った。
 そして、恐らくシャーデー・アデュも、この“蒼い時”を知っているに違いない。新譜『SOLDIER OF LOVE』を聴きながら私がまず思ったのは、そんなことである。


 上の写真は、『SOLDIER OF LOVE』CDブックレットの1ページ目に掲載されているものである。冷気が漂う薄暗い山林の風景。朝靄に包まれているように見える。その神秘的な風景写真の上に、白い文字で歌詞が丁寧に配置されていく。とても美しいブックレットである。

 私は今、とにかくこのアルバムをひたすら聴いていたい。ブログの記事など書いている場合ではないのだが、うっかり“シャーデー鑑賞記”を謳ってしまっている以上、そうもいかない。次回、改めてもう少し感想らしきものを書くことにしたい。

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