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The View [February 2010]


THE VIEW
Broadcast: 10 February 2010 (US)
Performance: Soldier Of Love
Personnel: Sade Adu (vocals), Stuart Matthewman (guitar), Andrew Hale (keyboards), Paul S Denman (bass), Ryan Waters (guitar), Pete Lewinson (drums), unknown (snare drum), Leroy Osbourne (backing vocals), Tony Momrelle (backing vocals)

 『SOLDIER OF LOVE』のプロモーションのため、2月9日から始まったシャーデーのアメリカでのテレビ出演。4本目は、翌日10日、ABCで平日の午前11時から生放送されている〈The View〉。ウーピー・ゴールドバーグらがホストを務める1時間の女性向けトーク番組。BET+3大ネットワークに出演し、これでひとまず要所は押さえたことになる。出演を重ねるごとに調子を上げてきているシャーデーだったが……。


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 まず、「Smooth Operator」のPV映像が流され、番組ホストの一人、シェリー・シェパードによってシャーデーの登場がアナウンスされる。前日の〈Today〉でも紹介時に「Smooth Operator」が流れたが、シャーデーに対する一般認知としては、やはり、マイケル=「Thriller」、マドンナ=「Like A Virgin」的に、結局はこの曲なのだな、と改めて思わされる(せめて「The Sweetest Taboo」あたりにして欲しい気もするが)。

 前日の〈David Letterman〉同様、生演奏での「Soldier Of Love」。アデュは、PVと似たような全身黒ずくめの戦士ルックで登場。これは……かっちょいい。しかも、束ねた後ろ髪を団子に結って、白い薔薇のような花を一輪挿している。くは~。これまでの「Soldier Of Love」テレビ出演の中では、どう考えてもこれがベストのルックスだろう。おまけに、アーチ状の鉄骨群が赤く浮かび上がるセットもなかなか芸術点が高い。「Soldier Of Love」テレビ出演映像の決定版は、早くもこれで決まりか?

 最高得点が期待できる好調なパフォーマンスを見せていたアデュだったが、しかし、後半で突然、異変が。2回目のサビ、“I'm love's solidier”のところで、アデュはなぜか出だしでつまずくと、そのままバック・ヴォーカル2人のハーモニーに引っ張られ(?)、思いきり音を外してしまうのである。続くファルセットの“I wait for the sound”は強引な地声歌唱で、完全にグダグダだ。まるで、完璧な演技を見せていたフィギュア・スケート選手が、後半のジャンプでまさかの転倒をしてしまった感じである。一体、アデュに何が起きたのか?
 よく聴くと、“I wait for the sound”のところは、元のメロディがそのまま1度下にずれている(“sound”で元に戻る)。一応、スケール内で歌っていて、音が外れきっているわけでもないのだが、音程が甘いので気持ち悪い。なぜこんな歌唱になってしまったのか知らないが、これは明らかに歌い損じである。

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アデュ、転倒の瞬間

 一応、フォローしておくと、そもそもシャーデー・アデュという人は、技術的には全く上手い歌手ではない。ヴィブラートやメリスマといったプロらしい歌唱技術を持たず、アドリブでフレーズを自由に歌い崩したりすることもない。決して音痴ではないが、音感が優れているわけでもなく、ライヴで音程がぶれることもしばしばだ。その上、声域が狭く、高低差のあるアクロバティックな歌唱などまず望めない。
 しかし、彼女は独特の声質を生かし、自分にしかできない歌唱表現で多くの聴き手を魅了してきた。技術は大切だが、それは飽くまで何らかのフィーリングを伝えるための手段に過ぎない。表現力という点では、彼女はやはり稀有な素晴らしい歌手である。

 シャーデーの全作品に、エンジニアリング、共同プロデュース(3作目以降)で関わるマイク・ペラが、アデュのヴォーカル録音について次のように話している。

「彼女はヴォーカリストとして自信を持っているけど、音程(pitching)に関してはかなり気難しいところがあって、他の人より神経質になることもある。音程が自分の弱点だと思っているんだ。僕はそんなに問題とは考えていないけどね。ちゃんと仕上がっても、何らかの理由で彼女が気に入らなかったりする。いい歌手の多くがそうであるように、もっとヴォーカルを向上させられるんじゃないか、という意識が常に彼女にはあるんだ。ただ、僕らはあまりテイクを重ねすぎないよう心がけているよ。曲を書きながらだと、彼女は別の案も試してみたがる。たとえそのヴォーカルがよく録れていて、結局、そのままにすることになるにしてもね。歌からもっと何か引き出せると思ったら、やり直してそれを追求することも全く厭わない。彼女はきちんとやりたがる。ある意味、すごく几帳面なんだけど、それはフィーリングについてのことでもあるんだよ」(November 2004, Sound On Sound)

 アデュは歌手としての自分の資質をよく理解している。インタヴューでは冗談交じりにこんなことも言っている。

「もし私が〈X Factor〉(イギリスのオーディション番組)に出たら一発で落ちるでしょうね。“ダメだこりゃ”と言われるわ」(15 February 2010, National Post)

 '10年2月、このテレビ出演から間もなく、バンクーバーで冬季オリンピックが開催され、浅田真央らが出場するフィギュア・スケートが大きな注目を集めた。フィギュアと同じように、技術点と芸術点で競い合う“歌のオリンピック”のような大会があったら、アデュ選手の入賞はまず絶望的だろうと思う。しかし、はっきり優劣をつけられないのが、歌の面白さ。4回転ジャンプをしなくても、彼女の歌は十分聴き手の心に訴えてくる。普通に滑っているだけで高得点をマークする選手──シャーデー・アデュは、そんな歌手である。


 しかし、それにしても、だ。
 この〈The View〉での2回目のサビの歌唱は、ちょっとヒドい。これは、いかなる意味においても、はっきりとヘタクソである。多分、アデュは番組終了後にヘコんだだろう。

 彼女は1オクターブ範囲内で中低音を生かして歌うことがほとんどなのだが、「Soldier Of Love」の場合、歌メロの音域がいつもより広い(と言っても、地声で1オクターブ半くらいだが。フィギュア・スケートの技の難易度としては、1回転半ジャンプくらいだろうか。世界レベルでなくとも、その道の人間ならきちんと決められて当たり前のレベルである)。前回の復帰曲「By Your Side」は、彼女にとって歌いやすいタイプの曲で問題なかったが、いきなり難易度やや高めの「Soldier Of Love」でライヴ復帰、というのも裏目に出たように思う。この曲の生歌唱は毎回かなりハラハラさせられるが、遂にやってしまいました、という感じだ。

 パフォーマンス終了後、シェリー・シェパードがステージに上がり、“みんな待ってたのよ~、おかえり~”と温かくアデュを迎える。後半の転倒さえなければ最高だったのだが……残念ながら、大減点。もっと歌い込んで、ヴォーカルに磨きをかけていってほしいと思う。


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 ところで、この〈The View〉では、他のメンバーの姿もきちんと映される。この点でもこの映像はポイントが高い。彼らは広くて暗いセット内に点在しており、引きの全景映像では映りにくいため、基本的に上の画像のようなソロショットで登場する。マシューマン、ウォーターズ、ヘイル、ルウィンソン、スネア奏者、オズボーン&モムレル……しかし、一人だけ全く映らない人物がいる。ポール・デンマンである。

 これに気付いた私は、早速、彼を探して映像を再見したが、それでも存在が確認できなかった。もしかして不参加? もう一度、彼の定位置である右後方を意識しながら、じっくり映像を観てみると……。

 いた。

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 ポール・デンマンは、セットの右後方に立っている。他の番組と同じく、ハンチングを被り、グレッチの白いブロードキャスターを弾いている。この映像で彼の姿を確認するのは、はっきり言って至難の業だ。何故にデンマンだけこの扱いなのだろう。一応、彼はシャーデーのオリジナル・メンバーなのだが……。

 シャーデーというバンドの活動は決してオリンピックではないが(なにせ4年に1度どころではない)、この映像でのデンマンの扱われ方を見ると、“参加することに意義がある”というフレーズを思い出さずにいられない。頑張れ、デンマン。Stronger Than Paradise は、ポール・デンマンを応援しています。

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